ちょい天然入った小悪魔系の子は好きや、かわいいから…… ただ、天然通り越してKYな悪魔はいやや…… え?誰の事かって?ははは出雲ちゃん、わかっとるやろ? そんなんあの兄弟のことに決まっとるやんか [笑顔の種、涙で育った花] こないだオレと坊と子猫さんが勉強会のあと奥村くん家で夕食に呼ばれた時の話なんやけどな…… え?うん、ちゃんと勉強したで?それに食材も提供したし先生には迷惑はかけとらんと思う えっと、話つづけますえ? 「ほら志摩ーー」 オレらがテーブルについて一斉に頂きます(奥村兄弟は修道院の子らしくお祈りしてから)した所で、さっそく奥村くんが大皿にのったおかずを取り出したんや 山盛り乗せられてくおかずを見てオレ「奥村くんよう食べるな」思うとったの、そしたら奥村くんがその皿をオレの前に置いたんや 「え?」 「ほら遠慮しねえで食えよ」 「あ……ありがとう、でも俺こんなに食わへん」 奥村くんの料理は美味しそうやったけど、もともと燃費の良いオレはそんな大量に食べられへんくらい大盛やった そしたら奥村くん行儀悪く箸で人を指しながら言うてん 「お前もうちょっと食えよ、そんなんじゃ大きくなれねえぜ」 いや、奥村くんオレ別に少食な訳ちゃうから!確かにアンタの料理は美味しいけどそんないっぱい食われへん だいたいオレのがアンタよりデカイやん!って思ったけど言わんかってん、俺えらいやろ?え?そんなんいいから早よ続きを?もう出雲ちゃんいけずやわあ 「錫杖振り回してるわりに上半身ほっそいもんな、胸板とか俺よりねえんじゃねえの?」 「奥村くん達が逞しいんよ」 余談やけど奥村家って筋肉付きやすい体質なんやないかなーって思う そりゃ祓魔師として鍛えてると思うけど坊みたいに筋トレしとるわけでもないのにちゃんと筋肉ついてて羨ましいわー 若先生なんてあんな穏やかで涼しげな顔して脱いだら凄いんやで?水泳の授業とか女子の視線独り占めやろ!くっそ!くっそ! って出雲ちゃん待って!いかんといて!余計な話して悪かったからオレの話最後まできいて〜 ……うん、ありがと……続けるな? そんでな奥村くんが 「腰とか細いもんなぁ」 って何を思ったのか食事中なんにオレの腰触ってきたんや、たとえ食事中やなくても普通におかしいやろ?しかも鷲掴みで、あの怪力がやで?痛いやろ?だからオレ痛いって言ったんや そしたら今度は「痛かったか、ゴメンなぁ」って撫で摩ってきたんや!別に気持ち悪いとかなかってんけど、小さい頃からド突かれてばっかでそういう優しいスキンシップ?に慣れてないオレは固まってしもうて 向かいの席の若先生に助けを求めるよう視線を投げかけたら、のほほんと首をかしげて 「兄さんの料理おいしいでしょ、おかわり欲しい時は言ってくださいね」 ああ片割れである若先生も空気読めてなかったんやな その横で坊は凄い形相でオレ睨み付けてるし子猫さんは呆れてるし、奥村くんは腰だけじゃなくてオレの古傷とか目敏く見つけて撫でてくるし(食事中に)本当オレどうしていいか解らん 情けないけど実はこの場に出雲ちゃんがおったら奥村くんどうにかしてくれるかなって心の中で助け求めたりしてたんよ? 「兄さんて結構志摩くんのこと気に入ってるよね」 と、そこで若先生がさらに空気読めてないこと言ってきた……常識的に考えてオレの困惑と坊の不機嫌と子猫さんの慌てぶりに気付いてない筈ないんやけど あん人の人間観察スキルは任務中と塾の授業中にしか発揮されないんやなって思ったわ 「えーないわぁ、オレ奥村君からいつも格好悪いだのダサいだの言われとるんやで」 とりあえず坊の眉間の皺がこれ以上深くなるのを阻止しようと先生の言葉をやんわり否定したんよ、そしたら若先生ったら自分の経験上かなんか知らんけど 「え?そんなんですか?でも大丈夫ですよ、兄の言う格好悪いはイコール可愛いって意味ですから」 なんて爆弾(坊の堪忍袋)の導火線に火を付けるようなこと言いくさって…… 安心して甘えていいと思いますよ――って笑う悪魔の片割れの瞳には「ね?うちの兄さんいい兄さんでしょ?」と書いてあったわ、あのブラコン 不意打ちで弟デレを見た奥村くんは更に上機嫌になってオレに触るのやめないし、それ見て坊は更に不機嫌になるし…… 正直あの食卓で素直にごはん美味しいと感じてたんは奥村兄弟だけやったんやないかな? え?坊の不機嫌の理由わかってんのかって?ああ坊あんま人がベタベタすんの好きやないから他人が近くでベタベタしてんの見るの嫌やったんやない?昔からそうやったで しかも男同士でベタベタしてんのとか余計見たくないやろし……ああ坊に気持ち悪い思われとったらショックやなー ん?どないしてん出雲ちゃん……頭抱えはって―― * * * 溜息を何度も吐きながらオレの話を聞いてくれていた出雲ちゃんは一際大きな溜息を吐いた後、頭を抱えて首を振り出した 「で?結局その後どうやってその場を納めたのよ?あの双子以外は空気悪いのに気付いてたんでしょ?」 「ああ、それやったら酔っ払ったシュラ先生が乱入してきて強引に打破してくれはったわ」 絡まれる奥村くん達を囮にして逃げるように帰っただけやけどな、でも 「それ以来なんか坊と気まずいし、奥村兄弟は変わらず構ってくるし、オレもどうしていいのか」 奥村くんの方は特にオレが一つ年下やと知ってから過保護に接してくるようになったと思う、若先生は授業中は相変わらず厳しいけど普段は前より少し優しくなった気がする 兄がいるとはいえ小さい頃から甘やかされてこなかったオレはあの二人の態度をどう流していいか解らなかった 「世話とか、いらんのに……」 急に態度を変えられるくらいなら教えなきゃ良かったかもしれない けど秘密を共有できる人が出来たことで軽くなった心も確かにあるわけで 「別に、アンタが年下だからってだけで世話やいてるわけじゃないと思うわよ」 「へ?」 「いずれにしてもアンタの人となりを知っていけば、あの二人はああなってたんじゃないかしら……」 え?秘密を明かさなくても、遅かれ早かれああなってたって言うんか? 「あの二人の育ての親の話とか聞いてるとアンタみたいな子ほっとけなさそうから、同じようにアンタの世話をしたいと思ったのかも」 正反対に見えて根本的なところが似てる双子は、育ての親に多大な影響を受けているんやろう その親がオレみたいな奴をほっておけないタイプやったら、あの二人も……? 「アンタが年下ってのはキッカケに過ぎないのよ」 「そうやろか」 「そうそう、はい、じゃあこの話はここでおしまい!私も早く帰りたいから失礼するわね!」 そう言って帰り支度を始める出雲ちゃんを見ながら、彼女もそうなんだろうか?と思った 以前の出雲ちゃんならこうやって放課後付き合ってまでオレの話を聞いてくれたりしなかった オレが年下だと知っているから少しは構ってやろうって思ったんじゃなくて ――オレの人となりを見て……優しくしようと思ってくれた? いつもよりスッキリとした表情をして、教室の扉をくぐっていった彼女に聞こうと思ったけど 普段はよく回る口がこの時ばかりは上手く音を発せなかった 「……坊と気まずいのどうにかしたくて話したんやけどなぁ」 最終的に奥村兄弟の話になってしもうたわ |