どこまでもストイックなうちの彼氏さんは基本的に我慢強い。その分キレたら大変やけど、大概のことは自分の身の内で鎮めようとする。
持病の偏頭痛やってそうや。薬を飲んでじっと痛みが治まるのを待つだけ。解決法がそれしか無いのは解かるけど、周りに人がいんのに頼ろうとはせん。ちょっとは「痛い」とか「しんどい」って口に出して甘えてくればええねん、そんなこと言ったら「お前もな」って反撃くいそうやけどな。そう思うねん。
アンタは勝呂竜士で、明陀の大事な跡取りである前に、俺の大切な幼馴染で……好きな人なんやからな。そこんとこわかっててほしい。
勉強の途中で頭が痛み出して、今はベッドで休んでるはる坊にそぉーっと近づく。いつもはカチューシャで留めてある前髪が降ろされて鋭い目が隠れている。それでも時折ギュッと目を瞑り痛みに耐えているのは解って、俺はまるで自分のことみたいに苦しい。
坊は俺に気付いてるんやろか、気付いてても何も言わないくらい頭痛が酷いんやろか、そっと頭に掌を乗せると坊は一瞬だけ息を飲んだ。
指を軽く開いて後頭部から耳の後ろに掛けて撫でていく。「早く良くなれ」ひと撫でに想いを込めて繰り返し撫でていく。厭やったら手を払えばええし、一言いってくれたら止める。でも、もし少しでも楽になってくれてるんなら……もうちょっとだけこうしててええかな?
いつも自分に厳しいアンタが心休める場所が俺の傍やったらええなって思ってるんよ。だいたい無理しすぎやねんよ坊は、無茶はええけど無理はしたらあかん。平気な顔して大丈夫やなんて嘘つかないでほしい。アンタ嘘が下手なんやから。
それなりに手入れしてる筈の髪が痛んでる、これはだいぶお疲れなんやろな。

あのな坊、俺な、自分のこと結構どうしょうもない奴やと思っとるよ?でも俺は自分の身が大事やし可愛いねん。
そんな自分はあんま好きやないけど、少しはアンタもそうなればええと思う。もっと自分の弱さを許そうや?
なんでもかんでも背負いこんどったら重いやろ?

俺は今どんな表情をしてるんやろう……坊の髪が下されていてよかった。やがてスースーと寝息が聞こえてきて、坊が眠ってしまったのを知る。撫でていた髪をかきあげて顔を見たら、まだ眉間に皺を寄せていた。なんか、おかしい。

こうして見るとほんま男らしい顔しとる。眉は整えられて細いけど、全体的に角ばってて頬は硬い。今は閉ざされている目を見開いた時なんて般若の様で、睨まれたら大抵の輩は竦みあがる。柔らかくて優しい俺が好きな女の子のものとは全然違うけど、なんだかなぁ……好きやねんなぁ。

「坊?寝てる?」

問いかけて数秒の沈黙。キョロキョロを周りを見渡した後、俺は坊の剥き出しになった眉間にキスをした。
頭痛が早く良くなるように――ではない想いを込めて、優しく。
眉間にキスした後は額、鼻、両頬に一つずつ。たしかキスする場所でそれぞれ意味があるってクラスの女子が話してたけど、忘れてしまった。俺が坊に想う気持ちはそんな単純やないからな……なぁ坊、厭がってええよ、嫌ってええよ。
アンタの心休める場所が俺の傍やったらええと思ってるけど、俺の不在がアンタの心を煩わせるような存在に成り上がる心算はないよ。知っとる?俺自身はいつ消えても支障ないもんやないとあかんのやて。アンタは知らんよね、ええ気なもんや。
アンタは、最後まで踏みとどまる人やから、俺は最期まで立ちはだかる人にならんといかん。アンタが守ろうとする俺以外のもんの為にアンタの盾になって、それを光栄やと思わんといかん。全部アンタが戦う道を選んだからや。そんなこと言ったら重いかな?
坊を恨んでるわけやない、ただ捨てられたくないだけ、俺が消える時に悲しんで欲しいだけや。嘘でええから、離れるなって言ってほしい。

「ずっと、傍におるから……」

そう言って最後、唇にキスをした。寝てるアンタに嘘はよう言わん。でも今だけは言わせてな。
起きてるアンタに向かっては声に出されへんから、きっと生涯一度だって言葉にはできないから、どんだけ愛していても俺はいつかアンタから離れていく、そん時に嘘吐き呼ばわりされたくない、それだけの理由で俺は本当のことを言えない。


君の身になって、同じ痛みを感じたい
君の味に成って、食べられてしまいたい
君の実に生って、何処へでもついていきたい
君のみになって、俺だけを愛して


そして、どうか沢山の嘘の中から俺の本心を見抜いてほしい――


貴方なら、出来るででしょう?
だって勝呂竜次やから






END
……どうして私が書くと志摩くんが似非ポエマーになるんでしょう?
実はこういう時に起きてる坊ですが、志摩が珍しくデレてくれるのでいつも狸寝入りしてるって裏設定があったりなかったり