まどか様リクエスト。瀬戸内と左勝で転生現パロ 正月も過ぎ、実家のような主の家から一人暮らしのアパートへ戻ってきた左近はコートを脱ぎ、そのポケットから携帯電話を取り出す。 すると一件のメールが入ってきているのに気付いた。 “餅に飽きたからメシに付き合ってくれ” そんな先輩からのSOSに応えるべく、左近は脱いだばかりのコートを着て、近所のスーパーへと向かった。 よい店は何軒か知っているけれど恋人の話をするならば自宅の方がいい、何故なら自分達も自分達の恋人も全員男だからだ。 EROTICA DOG〜酒は飲んでも飲まれぬな〜 「真田と伊達と前田から大量に餅を持ってきたんだ」 そう言って途方に暮れる長曾我部の背後に “お館様の家で餅をついたでござる!” “今年の米は特にいいぜー” “利とまつ姉ちゃんが友達にも分けてやれって” という赤青黄色の男衆の笑顔が見えた気がした。 伊達の場合毎年そう言っているけれど味は間違いなく美味いので正直羨ましい。 問題はその量なのだろうけれど…… 「毛利さん餅が好きっすもんね」 「ああ、だからみんな実家から送ってきたもんをワザワザお裾分けしてくれてんだと思う、だが肝心の毛利はいやしねえからな」 と、苦々しい表情で缶ビールを煽る長曾我部に左近は鍋の中身を注いでやる、まだ家に来て一時間も経っていないのに盆いっぱいに空き缶が乗せられているのを見て、この人ペース早過ぎだと焦りが生まれる。 「料理も食べて下さいよーその為に来たんでしょ」 そう言っても自分が料理をすると勝家に「いったい誰が片付けると思ってるんだ」と怒られるくらい台所が悲惨な状態になるので今回はあらかじめ野菜が切ってある鍋セットで鍋を作り、オードブルとスナック菓子類を並べただけだ。 これまた勝家に……というか勝家の保護者代わりの男に「もっと野菜を摂れ」と怒られてしまいそうだが今日くらい見逃して頂きたい。 「まぁ毛利さんも忙しい時期だから仕方ないっすよ」 「だからって!もう半月だぜ!アイツが最後に連絡寄越しててから!」 「……そりゃ寂しいっすね」 会わなくなって半月ではない、連絡しなくなって半月だ。 そんな中で食料が餅ばかりとくればいくら心の寛い長曾我部でも鬱憤が溜まっているに違いない、よし分かった今夜はとことん付き合いましょう!という意気込みを新たにする左近だった。 「まぁ海外だし、時差とか気にして連絡しねぇのはわかるけどよぉ、電話以外にも色々選択肢はあるだろ!!」 「そうっすね……」 長曾我部の居候兼恋人である毛利は旅行代理店でツアーコンダクターをしている為、今の時期は多忙を極めていて家に全く帰って来ない、というか一年の殆どを外国で過ごしているのだという。 まぁ見事に前世と立場が逆転していますこと、と、左近は内心で笑い、不機嫌な長曾我部に慰めの言葉を贈る。 ただ毛利が旅行代理店に就職した理由をコッソリ大谷に聞いた事があるのだが、いつか長曾我部が海外に拠点を移す時に外国文化に詳しい己がいれば役に立つから、なんていう健気な理由だった事を思うと長曾我部の愚痴なんて同情するだけ馬鹿馬鹿しいものだった。 (元親さんがホントーに耐えきれないくらい寂しがった時に教えてあげよう) そう思いながら最後のビールを飲み干し、新しい酒を持ってくるからと言って台所へ向かった。 棚の中から左近が普段飲む用の安酒を手に取り、これじゃ長曾我部が満足しないだろうとその隣の棚を開けた。 豊臣方は石田と後藤以外のメンバーがよく飲むので左近の家も酒類を絶やした事はない。 (刑部さんスミマセン、刑部さんが持ち込んだ酒いただきます!) まさか豊臣や竹中が置いていったものに手を付けられる訳もなく大谷のお気に入りという瓶に手を出す、これはアルコール度数もそれ程強くないから勝家に飲ませてやれと言われていたもの……それ程怒られまい。 後は家康が置いていった炭酸水を何の躊躇いもなく取り出し、水やらお湯やら氷やらと一緒に持って部屋に戻ると長曾我部がボーッと携帯電話の画面を眺めているところだった。 「お酒お持ちしましたよっと」 そう言いながら炬燵に入ると長曾我部が此方を向いて礼を言ってまた携帯へ視線を戻した。 「携帯つうのは便利なもんだよな」 江戸幕府終了は残念だが、ここらへんは文明開化万歳である。 「外海にいる相手とも一瞬で繋がれるんだから」 ああ、この目。 恐らく過去毛利からきたメールの数々を流し読みしているんだろう、毛利のメールは一通一通が長々しいがそう頻繁には送ってこないらしい、それでも歴代の携帯から新しい携帯にデータを移しているらしいので数は膨大だ。 「昔は毎日、日に何千文字も狼煙を上げてたもんなぁ」 あれは迷惑だったと後の世で再会した野郎共や捨て駒達に言われたのを思い出しながら長曾我部は苦笑う。 「狼煙で痴話喧嘩してたんすかアンタら」 普通仲間内でしか読めないような狼煙文字を共有してるのも可笑しいが、日常会話に使うのも可笑しい、自分と勝家の事を思い出すと手紙でやりとりできる立場なんだから手紙で我慢しとけよとも思う。 「あの苦労を思えばメールくらいなんてことない筈なんだがなぁ」 返事がこないと嘆く長曾我部に、元気出して下さいよーーと、酒を作って渡す。 「勝家だってあんまメールしてくれませんよ、おはようとおやすみと、あとは昼からの仕事頑張って……とか、それくらいで」 「なにそれ!充分じゃねえか!!」 一日三回も恋人からメールがくるなんて羨ましい、しかも内容が可愛らしい。 「毛利からのメールなんてほぼ業務連絡だぜ?もうすぐ集金がくるから用意しとけとか明日は資源ゴミの日だとか役所から封筒が届く頃だとか」 「外国にいてソレ把握してるなんて凄いっすね毛利さん」 「通帳持ってるの俺だからな、無駄遣いしたらすぐわかるようにしてるんだろうぜ……どんだけ信用ないんだか」 「イヤイヤめちゃくちゃ信用されてるし」 そもそも信用していない男に通帳は預けないだろう、あの毛利が実家ではなく長曾我部の家に居候している時点で色々察してあげてほしい。 「未だに俺の片想いなのかもなって思う事もある」 「それはないっしょ、あの人は恋愛事だけは潔癖だから」 身内が側室や妾を作るだけで愚劣な者を見る目で見ていたというし(家の為なら仕方ないと割り切ってもいたが)心が無いのにリスクを侵してまで男と付き合う筈がない。 「だってよぉ毛利の、俺がちょーーっと抱き締めただけで近寄るなとか触るなとか言いやがるしよ」 「でもそれって口だけで実際振り払われたりはしないんしょ?」 「まぁな!」 拗ねたような顔からコロッとデレデレの笑顔に変わる長曾我部はだいぶ酔っているのだろう。 というか先程から愚痴に見せかけた惚気を言われているようで少々悔しい、恋話は好きな方だが自分だって喋りたいと思ってしまう。 「うちの勝家も照れ屋だから抱き付いたりするとすぐ真っ赤になって可愛いですよ」 「……くっ!うちの毛利はな抱きしめると丁度鼻先に旋毛があって息すると良い匂いがすんだよ」 「変態くさいっすよ元親さん」 左近の身長は勝家とそう変わらないので身長差があるカップルは羨ましいと思わないでもない。 しかし、負けてはいられないと体格が同じくらいなカップルの利点を語った。 「俺と勝家、小学校から高校まで体育のストレッチずっと一緒だったんすから!」 「……」 自慢げに踏ん反り返る左近に長曾我部の眼光が鋭くなる、そもそも大学で再会した長曾我部は毛利と一緒に体育の授業を受けたことがない。 毛利は高校までは恐らくずっと大谷と行動していたから安心だが、他の男に体操着や水着姿を見られていたかと思うと理不尽な怒りが湧いてくる。 「幼稚園に通ってた時から毎年バレンタインは手作りチョコくれたし誕生会やクリスマス会には毎回呼んでくれてたし家族ぐるみで旅行とか行ってたんすからね!」 浅井家そんなことしてたの!? と、思わずにいられない。 こちとらバレンタインの思い出といえば孫市がもらってくる大量のチョコと鶴姫の失敗チョコの処理に追われているくらいで……本命から本命チョコをもらった記憶なんて…… 「去年は毛利がたまたま仕事で行ったベルギーから高級チョコ送られて来たな、ありゃー美味かった」 「それはそれで羨ましいっす」 「いや、でもよぉ」 なんでもバレンタイン時期にカップルを連れて本場のチョコレートを食べに行くというツアーだったらしく毛利が疲弊していたのを思い出す。 夜中に「我は貴様と会えないというのに目の前でイチャつきおって!!」と苦情電話が掛かってきた時は驚いて一気に目が醒めてしまった。 「うわ結構ラブラブじゃないっすか元親さんと毛利さん」 「でもあの時は夜中に百回”愛してる”って言わされたんだぜ」 「いいじゃないっすか!うわっ二人のカップルっぽいやりとり初めて聞いたかも!」 「よくねえよ!!その電話のあと一ヶ月帰ってこなかったんだぞアイツ!!しかも帰ってきたら「疲れた寝る邪魔したら殺す」って言って寝室入っていっちまうし!」 あの電話以来一刻も早く毛利を抱き締めたかった長曾我部は、一人虚しく毛利が起きた時に食べる体に優しい料理を作るしかなかった。 「しかも起きて飯食った後は勝家と温泉行く約束してたとか言って出掛けちまうし」 「うわ……それはすみません」 たまの休みに日帰り温泉って、お前らはおじいちゃんかOLかと言いたい、この場合は毛利がおじいちゃんで勝家がOLだ。 「上げた後にきちんと落としやがるからなアイツ……」 「ドンマイ元親さん」 そう言って左近はもう煮立ってしまった鍋とコンロを一旦台所に持っていく、これは明日食べよう。 代わりに勝家が来たら一緒に食べようと思っていた苺を洗って持ってきた。 毛利と一緒に温泉に言った話を聞かされていなかったことにほんの少し苛立ったからだ。 「シャンパンがあればよかったんすけど」 「いいっていいって、おー美味そう」 「でしょ?」 此処から本格的な飲み会が始まった。 「でね、勝家そこでなんて言ったと思います?「左近、私がこの棒で雨を弾く故お前はその下に入るんだ」っすよ?可愛くないっすか?しかも全然弾けてねえし」 「お前の可愛いポイントわかんねえよ……ああでもそれだったら毛利は玄関先で「日輪よ」って祈りだすな、そのうちズブ濡れになってコッチに駆け寄ってくるけど、毎回バスタオル構えて待ってやんなきゃなんねえけど」 「案外それ狙ってやってんじゃないっすか?勝家もバスタオルで包まれるの好きっすよ!風呂上り後ろからガバーーってやると「うおお」って変な雄叫び上げて悶えんの可愛い」 「くっやるな勝家の野郎……じゃあ毛利は鳥籠にピーちゃんの巣、ビニールプールに長曾我部の巣って書いてリビングに並べてあったりするんだよ」 「それのどこが可愛いんすか」 「まあ聞け、そのあと俺がその巣の中で寛いでるとな、俺の股の間に座り込んで「この巣は今より我が領土なり!」って言って寝始めるんだよ」 「おおお!!毛利さんだと思うとそうでもないけど勝家に変換すると可愛すぎる!!」 「なんだとこのやろ!!毛利かわいいだろうがぁあ!!!」 という、第三者が聞くと何が可愛いんだか全くわからない成人男性の奇行を自慢する二人、この時点で相当酔っぱらってきていた。 「それだけじゃないんすよ、勝家マジ健気なんすよ」 「……け、健気さなら俺も負けてねえよ」 「なんでイキナリ勝家と元親さんの対決になってんすか」 そもそも誰も対決などしていない。 「勝家ね、俺に前世のことで後ろめたさがあったそうです……でも毛利さんや大谷さんと再会して色々励まされて漸く俺に告白する覚悟が出来たとかで、その前から俺は勝家に好きって言ってたんすけどね」 「あー」 長曾我部は「確かに毛利と大谷は前世の後ろめたさでいったらプロだから相談役にはピッタリだな」という謎の納得をする。 「勝家はこう言ってくれたんです」 ことりとコップを置いた左近は深く息を吸い、一瞬遠くを見てから口を開いた。 『本当は前世で逢った時から特別に想っていた、けどあの時はまだ市様の事を引きずっていて……自分を織田の人形だと思ってたから気付くことができなかった』 静かにその時のことを思い出しながら、愛しの彼から言われた台詞を口に出す左近の顔は幸せそうで仕方なかった。 『今はもう誰の人形でもない、私は私の意志で行動できる、これから何があってもお前を裏切らない、お前を幸せにすると誓うから……私をお前の傍に置いてくれませんか?』 長曾我部は頭の中に深緑の彼を思い起こす、あの勝家のことだから、これを言うのに必死な表情をしていたんだろう。 『ずっとずっとお慕い申しておりました、左近』 彼の告白を一言一句憶えている左近、ほんの少し羨ましくなった。 「それから勝家は俺が喜ぶと思ったこと沢山してくれるようになったんすよ、無理すんなって言うんですけど俺が喜ぶと自分も嬉しいから全然苦じゃないって笑顔で」 「へぇ」 「俺は勝家が傍にいてくれるだけで充分だってのに……もう可愛いでしょ勝家」 「いや……本当に良かったなぁテメェら……」 ともすれば四百年以上前から見守ってきた二人の若者の恋がこうして結ばれたのだから感慨深い。 心の底から祝福を送りながら長曾我部は酒を煽った。 「毛利もその一割でいいから素直になってくれるといいんだけどよぉ……現状は俺の気持ちに応えてくれてるってだけだし」 「んー?」 どこか寂しそうに語る長曾我部に左近は困ったように笑みを浮かべた。 そういえば前世の彼は毛利を恋仲にあっても自分を嵌めた最低野郎だと思ったまま亡くなったのだった。 (実際は違うんすけどね) あの時代、毛利達が西軍に引き入れなければ高確率で長曾我部は殺されていたことも、毛利の本当の狙いも結局彼には知らせずにいた。 毛利も今更誤解を解くことは望んでいないだろうし、これからも別に知らせなくてもよいと思う、知らなくても長曾我部は毛利を愛しているのだから。 (よく考えると凄いな、この人) あれだけのことをされても毛利を好きで、今生でも心を伝え尽くし続けているのだから、大した恋心だ。 自分は毛利の愛も深いことを知っているから、なんかもう御馳走様という気持ちだし、もう尊敬に値するカップルにしてもいいのではないかと左近は思う。 「まあ元気だしてくださいよ元親さん!もっと楽しい話しましょ?」 「楽しい話っていうと?」 「そりゃ閨の話に決まってるじゃないですか」 あっけらかんと言う左近に長曾我部が呆気にとられた顔をする。 そりゃあ男のみで酒飲んで話していれば最終的な話題はそうなるだろうが、恋人が同性の場合でもそうなのだろうか? 今まで居酒屋やバーでしか飲んでいなかったから男同士の性事情なんて話せなかったが、ここは左近の自宅だ。 外で話せないようなことでも遠慮なく話していいのか―― 「勝家はねぇ、最近すごいんすよ」 「……へぇ?」 と、色々な葛藤をしていた長曾我部だったが話チラつかせただけで食い付いた。 恋人や姉妹の前では紳士を気取っていても元は海の男だった彼はこういう話が大好物なのだ。 「初めての時は、いいムードにはなったけど二人ともそういう知識がなかったんで、一からネットで調べたんす」 「お前ら……事前に調べとけよ」 再会した日に勢いで戦国時代の記憶を頼りにレッツパーリィ(隠語)してしまった自分達に言えることではないと思いながら一応指摘しといてやる長曾我部。 しかもその後なかなか告白できずにいたのでお互い暫く性欲処理の相手だと勘違いしていたことも棚に上げるのを忘れない。 「受け手の方が負担かかるって解ったんで「俺はお前を抱きたい方だけどお前が嫌だってんなら無理にはしない」って言ったんすよ、そしたら勝家「いや我慢しないでくれ、私だってお前に抱かれたいんだ」とか言ってくれちゃって」 頭良い方ではないのに勝家との会話は一言一句憶えている左近に感心しながら、お前ら純愛かよ!と脳内で自分達との差を見せつけられた感を感じていた。 「そっから一緒に風呂に入って、左近の前準備を手伝って」 「よくさせてくれたな……」 「その前準備の段階で二人ともヤバかったんですけど、どうにか抑えてベッドまで移動して正座で向き合いましたよね、交際報告したときに半兵衛様からお祝いに頂いたローションとゴムを間に置いて……」 「竹中……」 「それから何故か二人とも無言で見つめ合って、もう決闘でも始めるのかって感じで」 「あー確かに最初の雰囲気は決闘に似てるよな」 「捕食とか生存確認って感じの人達もいるっすけどね」 「……」 誰と誰のことを言っているのかは恐ろしいので聞き流すことにする。 それに捕食や生存確認という表現も身に覚えがあった。 最終的にいつも愛情の受け渡しになっているけど、最初の頃は確かに相手がそこに存在していていることを感じたかったし、相手を自分の中に飲み込んでしまいたい気持ちがどんどん奥から湧いてきたのだ。 (不安だったからな) 砂浜を打つ波のように掴もうとすれば擦り抜けてしまう、自分にとって毛利はそういう人間だった。 だから今度こそ絶対に手を離さないと決めているのだけれど、なかなか一緒にいられないという現状だ。 「まぁそんな感じで最初はかなり初々しかった勝家だけど、最近は自分から誘ってきたりして」 「おお、どんな風にだい?」 「そうっすね、例えばこんな風に二人で炬燵に入ってたとして……」 「うおっ!?」 伸ばしていた足に左近の足が絡みついてきた。 「こんな風にされちゃうとドキっとするじゃないっすか」 ズボンと足の僅かな間に自らの足を侵入させて擦り付ける、左近にされているから擽ったいだけだが、これを毛利にされたらと思うと堪らない。 「あとは、寝てる時に耳とか噛んできたり、そのまま「左近」って甘い声で呼ばれたり」 「おおおおおお!!」 「ああもう話してたら勝家に会いたくなってきた!!ちょっと行ってきていいっすか!!?元親さん勝手に寝てていいんで!!」 「ずりぃぞお前!!俺だって毛利に会いてえんだからな!!」 左近は近所に住む勝家の家まで走り出す勢いだった。 明日会う約束はしているけど今すぐ会いたい。 「だって俺、正月に帰省してて暫く会ってないんすもん!!会いたい!!」 「俺なんて最後に会ったの三か月前で最後に話したの半月前だかんな!!」 「毛利さんは日本にいないんだから仕方ないでしょ!俺は会える距離にいるんだから行きます!!」 「待て!行かせるかーー!!」 と、長曾我部が左近の腰を掴んだところで、部屋の扉がガラっと開いた。 「その必要はないぞ左近、長曾我部」 「え?」 「へ?」 そちらを見ると、今し方まで話題にしていた二人が立っていたので、一瞬酔って幻覚を見ているのかと思った。 仁王立ちし長曾我部に冷たい目線を向ける毛利と、顔を真っ赤にさせワナワナ震えている勝家、幻覚にしてはリアル過ぎる。 「帰っても姿が見えぬかと思えばこんな所にいたのか貴様」 「左近お前……長曾我部氏になんて話を……」 これは本物だと確信した二人の顔がサーーっと青くなる。 いったいどこから聞かれていたんだ。 「そやつの「勝家はねぇ、最近すごいんすよ」……辺りからだ」 「心読まれた!?」 「それくらい顔を見ればわかる」 「……よりにもよってそんなとこからかよ」 「と、止めに入ろうとしたら毛利氏が面白そうだから暫く聞いていようと……」 聞くんじゃなかったと項垂れる勝家に左近は駆け寄り謝ろうとするが、その前にギロリと睨み上げられ。 「左近、一ヶ月接触禁止」 「ええ!?そんな!無理だろ!!」 勝家が掌を翳すと待てと言われた犬の如く立ち止まるので流石豊臣の教育が行き届いているなと毛利は感心した。 「長曾我部……貴様は余計なことを話していないよなぁ?」 「言ってない!言ってない!だから接触禁止は勘弁してくれぇ」 本当に久しぶりの邂逅なのだ。 こんな空気でなければ抱き付いてキスのひとつやふたつお見舞いしたいところなのに、どうしてこうなった。 「我は下世話な話は好まぬ」 「うんうん解ってるって!」 フンとそっぽを向いて、目線だけは長曾我部へ流す毛利。 「……閨の中での我など貴様一人が知っておればよいことであろう?」 キュン 「毛利……」 唐突に表してきたデレにときめきを隠せない。 毛利も仕事とはいえ数カ月放置していたことに気後れがあるのか、それとも会えて嬉しいからか、あまり怒ってはいないようだ。 「なんだよアンタら結局バカップルじゃんか!!」 「さーこーんー?私の話はまだ終わっていないぞー」 一方、左近は正座をさせられ今まさに勝家に説教が始まるといったところだった。 「帰るぞ長曾我部、腹が減った」 「おうよ!帰ったら美味いもん作ってやるからな!」 「餅が食べたい」 「……」 「どうした?」 「いや、良いぜ……アンタも日本食が恋しくなってるところだろうし……」 明日からまた三食餅の生活が再開されるのだと思うと胃が重く感じられるが、毛利を喜ばせる為なら仕方ないと腹を括る長曾我部。 餅もそうだが(モ)ト(チ)カも恋しくて堪らなかった毛利はその答えを聞いて満足げに頷くのだった。 「じゃあな左近、また来るぜ!」 「ちょ!見捨てて帰るんすかお二人とも!!」 「長曾我部が邪魔したな、勝家……ごゆっくり」 「ええ、長曾我部氏も毛利氏もお気をつけて、そうだ……あけましておめでとうございます」 「ああそうだった忘れておった、おめでとう」 「おめでとさん」 「ほら左近も挨拶」 「ああもう!!おめでとうございます!!」 新年早々お説教をくらうとは、なんて年だと嘆きつつ元気よく挨拶をした左近。 そんな左近を見て勝家はふと愛おしさを感じてしまうのだった。 (説教が終わったら、禁止令を解いてやってもいいかもしれない) 自分だって、恋人に触れたくてこうして会いに来てしまったのだから―― END |