長宗我部は大谷の書く星物語が好きだった。 それは普段素直ではない彼の人となりが垣間見えるから、彼の話には大抵幸福になる善人と不幸になる悪人がいるけれど、そのどちらも魅力的に描かれている。 善人に対する純粋な憧れと信頼、悪人に対する救いたい甘やかしたいという慈愛が根底に見える、そもそも善悪の判断が出来て、強いものは素直に賞賛する、彼は彼が自称する程ひねくれてはいないのだ。 大谷は頭の回転が早いから話していて楽しいし、色々ことを無自覚なのが面白い、世話好きで付き合いが良くて、気分屋の毛利や長宗我部の調子が悪かったり様子が可笑しい時はそれまた無自覚に振り回されてくれる可愛い友人なのである。 ある日、そんな友人が長宗我部に相談してきたことがあると言ってきた。 次の物語の展開に行き詰まっているという、長宗我部は自分が相談されても解決できるか自信はなかったが頼られたことは嬉しく、話だけなら聞いてやると大谷お気に入りの場所、菫の花咲くカフェテリアに移動した。 大谷が行き詰まっているという話は星の海に住む一匹の狐が天から一つの小さな箱を授かるところから始まっていた。 そんな空っぽの箱は要らないと言う狐に「その空箱に“他”を加えて宝箱にしていきなさい」と天は無理やり押し付けたという。 成程、空(から)に他加える(たくわえる)ことで宝(たから)になるという言葉遊びかと長宗我部は感心した。 ところでこの狐は星の海の管理者をしているらしい、とても働き者というか仕事の為に生きていると言っても過言ではない程だ。 そんな忙しい狐だから、箱の中はいつまでたっても空のまま、別にそれでも構わないけれど一応天から授かった物だからと狐はその箱を持ち歩き続けた。 ある嵐の晩に狐が見回りをしていると、風に飛ばされた一匹の魚が偶然その箱の中に飛び込んできた。 狐の箱の中に初めて入ってきたのがその魚だった。 それから何だかんだあって、魚を邪魔だと思いつつ捨てることはなかった狐、星の海の管理をしながらもいつも箱を持ち歩いた。 このまま狐の箱の中にはずっとその魚がいるのだろうと狐の仲間みな思っていたが、ある時から魚は箱の外……星の海の外を夢想するようになった。 箱の中は窮屈で退屈だったのだ。 しかし、箱の持ち主である狐はきっと魚を外に出してくれないだろう……まだ知らぬ海を想いながら魚は泣く泣く諦めていた。 そんなある日、魚の夢を聞いた一匹の狸が「それなら僕がその箱から出してあげる」と言って、星の海にむかって箱をひっくり返した。 ここで長宗我部はこの話の元ネタは『た抜き言葉』なのだろうな、と着想の原点に気付いたが、そんなことはどうでもいい、大谷の話だから恐らく狐の方が悪で魚を解放して自由にしてあげた狸の方が善なのだろう。 大谷の友人である長宗我部は彼が何を善とし悪とするのかよく解っている、そして彼がどちらかというと悪側に共感を抱いていることも知っていた。 話は、狐が再び空になった箱を抱えて、いつも通り星の海の管理を続けている所で終わっていた。 「その話の続きが思い付かぬのよ」 長宗我部が読み終わったタイミングで、大谷が話しかけてきた。 彼は園の中で取れたハーブで作った茶を好きでも無いのによく飲んでいる。 「うーん……そう言われてもなぁ」 幼少時代は今のように活発な性格ではなく、家の中で静かに本を読むのが好きだった長宗我部は見た目によらず読書家だ。 しかし読書家がイコール本を書けるわけではなく、大谷が望むような的確なアドバイスは出来そうにない、ただ、自分の率直な意見ならはっきり言えそうだ。 「貴様ら仕事もせずに、なにをやっている?」 と、そこに毛利がやってきた。 この男なら大谷と長宗我部が今日はオフだということも知っているだろうに、自分の知らぬ間に二人で仲良くしているのを見て、口を挟まずにはいられなかったのだろう。 「おお毛利、実はな」 大谷が大まかな説明をして長宗我部が自分が読んでいた紙束を渡すと、毛利はそれを読み始めながら呟いた。 「ふん、下らない」 「下らぬとは……われはぬしに命じられて本職ではない脚本を書いているというのに……」 よよと泣き真似をする大谷に毛利の軽いチョップが入る、長宗我部はこの二人のこういうスキンシップが羨ましいと密かに思っていた。 「して、長宗我部はこの後どうしたらいいと思う?」 「止めて置け、この男に聞いたところで時間の無駄だ」 「うるさいぞ毛利、われは長宗我部に聞いておるのだ」 大谷の頭に肘を置いて文字を目で追っている毛利が言うと、大谷が迷惑そうな表情をして身を捩った。 その所為で体勢を崩した毛利が大谷の頭にしがみ付きながら「なにをする」と怒っているのを見て長宗我部は切なくなる、よく三人一緒にいるし、それぞれと仲が良いと思うのだが、この二人の間には自分の入り込めない“何か”があるように思える、大谷に対する嫉妬もあった。 「そうだな……どうしたらいいっていうか……」 大谷の問いに答えようとすると何故か毛利が睨みつけてきた。 この短い間に読み終えていたのだろう、その手には数枚あった紙の一番最後を捲った状態で握り絞められている。 「俺はこの後この魚は狐の箱の中に戻ってくると思うぜ」 「……」 「え?」 長宗我部の答えに大谷は興味深げに、毛利は驚いたように目を見開いた。 「それは、狐が再び魚を捕まえるということか?」 「いや、魚が自分から狐のとこに戻って来るんだよ」 「何故?」 「そんなの箱の中が恋しくなったからだろ」 外の海を見て回って満足したら帰ってくるんじゃねえか? と言うと大谷は瞳を細め、尚も質問を投げかけた。 「自分を箱の中に閉じ込めていた狐が憎いとは思わないのかの?」 「憎かったら自力で外に出ようとしてただろ……それに箱の中にいた魚が不幸だったとは思えねえし」 この話によると特別大切にされていた訳でもないが、狐の宝箱の中に入ったたった一つの“宝”だったのだから、きっと魚は嬉しかったに違いない。 「ほら、俺この水族館にいる魚も可哀想だと思ったことねえもん」 毛利や捨て駒達の手によって豊な水槽の中でのびのびと泳ぐ魚はみな楽しそうだ。 だから長宗我部もフィッシュハンターとして魚を捕らえて此処に持ってきている。 「お前らが大事に育ててるの知ってるからな、安心して任せられるし、外に出すよりこの中に居た方が幸せなんじゃねえかなって思う」 勿論、水槽の外の大きな海に憧れる気持ちも理解できるし、実際海に出たら楽しくて堪らないだろうけど、それでもあの魚達にとって此処は安心して棲める家だということも事実。 「だからよ、この話の魚もいつか必ず狐の所に帰ってくるじゃないかって俺は思うぜ?」 「タイトルも【宝の海(仮)】だしな」と一枚目の紙に書かれた題名を指さしながら長宗我部は言った。 大谷は「適当に付けたタイトルよ」と笑いながらも満足げに頷いている。 この話には大谷脚本お約束の不幸になる悪人などいないのだが、たまにはそんな話があってもいいだろう。 そして毛利は聞いているのか聞いていないのか解からない表情をしながら 「そうか」 と呟いた。 ……その声が、いつかの記憶と重なる。 『そうか』 『ああ、お前は瀬戸内の外なんて興味ねえだろうが、俺はやっぱり男に生まれたからにはデッカイ海に出てみたいって思う』 ――あの戦が始まる少し前、束の間であったが落ち着いて話が出来る時間が二人にもあった。 長宗我部が幼い頃に植えたという花の前で毛利は彼に『貴様は天下を徳川に任せると言うが、奴が天下を獲った暁にはどうする心算なのだ?』と訊いたのだ。 その答えがそれだった。 『……貴様はやはり愚かだな、その間に四国が敵に襲われたらどうするんだ』 『だから、その時には家康がこの国を平和にしてるんだろ』 アイツに任せときゃ俺の四国もお前の中国も安泰だぜ? と笑う長宗我部に毛利はあの時も同じような表情をして 『そうか』 と呟いたのだ。 今思えば、彼は既に解かっていたのだろう、徳川が豊臣を殺し天下分け目の戦いが始まる事を、そうすれば己は安芸の為に石田側に付かねばならぬと……そして長宗我部の夢を奪ってしまうのだ。 「……おお、やっと起きたか?」 長宗我部は病院の長椅子に座って、今まで隣に横たわっていた石田に声を掛ける。 死んだように寝て、勢いよく起き上がるところは前世とあまり変わっていない。 「貴様は……長宗我部?」 石田は長宗我部の右目に両目の視点を合わせ、寝起きとは思えない明瞭な声で呟いた後、ハッと気付き長椅子の上を這いながら近づいてきた。 「貴様!体は大丈夫か!?私と共に窓から落ちたろう!?」 「ああ……大丈夫って言えば大丈夫なんだけどよ……」 ほら見てみろ、と石田の目の前で手を振る、最初は怪訝な顔でそれを見ていたが、その手の向こうが透けて見えるのに気付き驚愕した。 「俺達どうやら幽体離脱ってやつをしちまったみてえ」 「なにぃぃぃい!!?」 「あんまり大声出すな此処は病院……って、みんなには俺達の声聞こえないみたいだけど」 冷や汗をかきながらも明るく笑ってみせる長宗我部に石田は申し訳なくなった。 自分の所為で長宗我部までこんな目に遭わせてしまったのだ。 「すまない……貴様は私を助けようと」 「イイって事よ、俺が勝手にしたことだし……それより俺達も移動するぞ、お前も大谷の様子とか気になるだろ?」 大谷と聞いた瞬間、石田の耳がピンと張ったような錯覚に見舞われる。 「そうだ!刑部のことだから私が窓から落ちたと聞けば心配しているに違いない!!」 「……アイツを“刑部”と呼ぶってことはお前にも記憶が戻ったんだな……」 「……記憶?」 疑問符を浮かべた石田に「あれ?違ったか?」と聞いたが、石田は左右に首を振って「いや、違わない」と静かに答えた。 「……ただ、貴様が刑部の名前を普通に言うものだから信じられなかった」 前世のことを考えれば長宗我部は大谷や毛利を怨んでいても仕方ない、だが彼を見ても昔の自分のように誰かを強く憎んでいるようには見えなかった。 「俺の死んだ後なにがあったかしらねえが、ちゃんとアイツらと和解したんだな……よかった」 毛利に殺される直前まで心配していたのだ。 実直な石田が大谷が毛利と共謀していたことを知って西軍の仲を裂くようなことにならないかと、徳川の友人だった長宗我部は最後に西軍のことを気にかけた。 西軍にいた真田も猿飛も島津も黒田も小早川も天海も市も、顔を合わせる内に心を許し合える仲となり、いつの間にか“仲間”という括りでは気持ちは西に傾いていたのだ。 東軍の者達ともきっと良い関係を築けただろうが領地が西にある長宗我部が東軍の中に居て心から笑うことが出来たかと訊ねられれば微妙なところだ。 四面楚歌になりうる四国の領主として一番安心できる同盟が毛利とのものだった。 「……長宗我部」 「四国のことなら悪いのは俺だ……あんな乱世に故郷ほったらかしにしてた自分を棚に上げて他の誰かを怨むなんて筋違いなことしねえよ」 「……」 こんな時かける言葉の見つからない、それが顕著に顔へ表れる石田という男をずっと気に入っていた。 今生では碌に話したことはないが前世の自分達は確かに友と呼び合える仲だった。 「説明してくれ、私達の体は今どうなっている」 「そうだなぁ……」 自分達を治療していた医者の言葉を手短に説明すると、石田の表情が強張っていった。 当然だ、このままもう目覚めないかもしれないなんて……折角記憶が戻ったというのに―― 「行こう……俺も毛利が心配だし」 長椅子から立ち上がり石田に手を伸ばすと、石田は素直にその手をとり立ち上がった。 幽体になって透けているが立ったり座ったりは出来るし、幽体同士なら触ることも出来るらしい。 「あの男が心配?」 心底不思議そうな表情で訊ねてくる石田に苦笑が漏れた。 そりゃあそうだ、彼の前で自分と毛利は仲の悪いところしか見せていない、毛利が二人きりの時にだけ見せる、本人も気付いていない暖かみなんて石田は知らないのだから、知られたくないのだから。 「さっきまでのアイツを見たら解かるさ」 三階から落ちた自分達を見て取り乱し、冷静さを失って壁を打ち付けた。 他人の前で涙まで見せた毛利を見たらきっと石田の中のイメージも変わってくる。 「……アンタにとっての大谷が、俺にとってのアイツなんだよ」 ――ずっと好きだったんだろ? 生まれ変わって来る前から…… そう言うと、石田は瞳を大きく見開いて、こくりと一度頷いた。 もう隠すことではないだろう、あの頃から自分が“大谷吉継”という存在を誰より恋しく想っていたこと。 「菫色の星とは……私のことだったのだな」 そうと知らず嫉妬していたと言う石田に長宗我部は笑う。 嫉妬していいのだ、前世とはいえ今の石田と“石田三成”は違う人間なのだから、ただまだ彼は記憶を戻したばかりで過去と現在の区別がよくできていない。 あの遊園地に行った日に毛利が大谷に怒っていた理由を漸く解かった長宗我部は納得と優越感を一度に感じながら自分達の身体が移されている病室へ進んで行った。 自分の前世が愛されていて、自分はもっと強く愛されている……それはなんと幸福なことか、石田も早く思い知ればいい。 病室に付き、沢山の管を繋げられた自分の手を握っている大谷を見て石田は何故か「秀吉さまぁぁぁあ!!」と天を仰ぎだした。 恐らく精神を安定させる為に主君の名前を叫んでいるのだろうが彼の場合は逆効果だと、教えてくれるものは居なかったのか面白いからそのままにしておいたのか定かではない……そういえば石田を時々真田に似ていると称していたのは真田の忍びだったような気がする。 「だから石田の旦那のことも何か放っておけないんだよね」とか言って大谷を動揺させて遊んでいたし、軍師と忍びという関係上大谷と接近することの多い猿飛はわざとスキンシップを過剰にとって石田を苛立たせて遊んでいた。 (コイツらが両想いだなんて西軍の中ではバレバレだったのに、なんで当の本人達は気付いてないかねぇ) お陰で殺伐としていた各郡の忍隊同士が和やかになっていたのだからいいのだけど……いや忍びが自軍の総大将と軍師で遊んで和んでいてよかったのだろうか? その答えは未だに出せない。 それはそうと、石田は漸く落ち着いて大谷を 「刑部……健康な貴様を再びこの目に映すことが出来るとは……私に感謝する許可を!秀吉さま!!」 まだ“刑部”と呼んでいるし、また豊臣の名前を叫び出した。 それだけ石田の中で戦国時代の大谷の存在が大きかったのだろうが、今の彼は“吉継”だ。 「毛利よ」 その大谷が口を開いたことで石田の意識もそちらへ向かう。 「なんだ?」 「……ひとつ頼まれてくれるか?」 「なんだ?」 ジッと長宗我部の方を見ながら返事をした毛利だったが、その表情に不安の色が滲んでいる。 「……われが使っていたものと同じ数珠を用意してほしい」 ――数珠、と聞いて毛利と……そして石田も驚いている。 前世の大谷が武器として使っていたものだが、あれは他にも神輿を浮かせたり結界を張ったりと奇跡のような力を見せていた。 あれを使って自分達を救うつもりなのだと解かるが、長宗我部はその方法に検討も付かない。 ――ただ石田を見れば解かる、この男は 「われを信じてくれ、同胞」 ……きっと碌でもないことを考えているのだ―― 「石田も長宗我部も絶対に死なせぬ……」 自国の為に犠牲を払って、自国の民に冷酷と恐れられる。 大切に想う人を奪われ憎しみを抱く、そんな当然な事を否定される。 愛や情などいらない、それは己を弱くするもの。 過去は捨てるもの、そうしなければ未来へ歩んでいけない。 そう言ったのは誰よりも優しくて大きな人だった。 石田は過去に想いを馳せながら、戦国の世で伝説の忍と謳われた男の運転する車の後部座席に着いてギリギリと歯を鳴らしていた。 (怖ェ) その形相は隣に座っていた西海の鬼がビビる程、ちなみに毛利は助手席に座っている。 過去というか主君に想いを馳せ落ち着こうとしたがやはり逆効果だった石田が運転中の風魔の首を絞め「止まれ!!止まらねば斬るぞ!!」と脅し出す。 「止めて!!攻撃透けてるから良いけど、万一それで事故でも起こしたら助手席に座ってる毛利が危ないから止めて!!」 長宗我部が必死に止めるが石田の怒りは収まらない、事故ってもいいからこの車を止めるぞという気迫に満ちている。 だいたい毛利は自分達が付いてきているのに気付いていないようだが、風魔は自分達の存在に気付いているのに無視しているようなのだ。 「刑部がしようとしているのは恐らく己の命を削る術だ……そんなこと私は許可しない」 「好い加減その呼び方やめろって……まぁ大谷らしい方法だよな」 大谷の前世と今生を知る長宗我部は大きな溜息を吐いた。 石田程ではないが彼も大谷に怒りを抱いているし、大谷の考えることなど解かりそうなのに解かっていない毛利にも腹が立つ。 (そんなに俺の命が大事かテメェは……冷静さを失うほどに) そして今更ながら前世の毛利にも怒りが湧く、自分が殺されたことよりも大事なものを自らの手に掛けた毛利の決断が許せない。 どれだけツラかったのだろう、毛利のことだからツラいという感情にも蓋をして見ない振りをしていただろうが……それが一番許せないし理解できない所だった。 「どうする?この状態じゃ俺達の声は毛利に届かないぜ?」 「……私達の声が聞こえるとしたら第五天の生まれ変わりか南部くらいだが……今から連絡しても間に合わない」 「ていうか南部の連絡先知ってんのか?」 「ああ今は寺の住職で……ねね様の眠る墓を管理している」 「ねね様……」 ねね、豊臣の妻だった女性は今生では竹中の姉だったらしい、しかし彼女は前世で竹中が患っていたものと同じ病で亡くなってしまった。 竹中は彼女の病を己の代わりに引き継いだのだと嘆き、自殺未遂まで犯したらしいが丁度その頃に豊臣と再会し、今は彼女の分まで豊臣と共に生きると決めている。 日本に一時帰国する際には竹中の幼馴染だった慶次も一緒に三人で墓参りをしている、石田は以前同行した際に南部と会っているのだ。 「やっぱり縁があるのかもな……日輪豊月園を建てる時に反対してた近くの森に棲んでる奴、今思うと姉小路だったし……そういえば近くの砂浜でライフセーバーしてるの尼子だわ、佐竹も武田のおっさんのとこで働いてるし」 どうして此処まで揃ってるのに徳川と本多はいないのだろう、あの二人ならこんな時に大谷を止めてくれるような気がする、と長宗我部は未だに信頼ランキングトップに輝いている親友を懐古した。 「……風魔よ、貴様は駐車場で待機していろ」 そんなことを考えている時、車内に入って初めて毛利が口を開いた。 「貴様を見せて、あの男を刺激してしまうと面倒だからな」 当然、風魔は答えないが、これは是ということだろう。 そして石田と長宗我部は“あの男”が誰かを推測してしまった。 「アイツなら大谷の数珠を持ち去ってても不思議ねえな」 「刑部の数珠を……あんな男に」 ――松永久秀……こんなことが無ければ毛利は一生接触を避けていただろう、しかし彼の居場所は既に知っていた。 【六魔大地園】の隅にひっそりと佇む美術館、そこの館長が彼だと以前訪れた際(大谷とはぐれた時だ)片倉に教えられたからだ。 「此処にはアイツがいる、気をつけろ」と警告した片倉は前世の記憶を持つ同志で、毛利が前世の記憶を持っていなかったなら不審者と間違われていただろうに、そのリスクを犯してまで教えてくれたのだ。 彼が此処で働いている表向きの理由は馬の世話が好きだから、だが本当は松永が記憶のない伊達や他の者に危害を与えないよう見張り役になっているのだと言う……松永の危険度は生まれ変わっても健在かと呆れた。 あの時はまさか大谷は松永に捕らえられたのかと肝が冷えたが、それも杞憂に終わり、石田と一緒にいると聞うて怒りよりも安堵を先に覚えてしまった。 閉園時間の過ぎた遊園地の高い塀を飛び越えて、中へ侵入する、警備の目を掻い潜り美術館へと急いだ。 その美術館は人気施設の中にあって客は一日に一人二人はいればよい方なのに何故か潰されない、武器の密売がされていると都市伝説が囁かれる、怪しい建物だ。 (展示品の中にアレがあるとは思えない、倉庫かどこかに隠しているのか……なければ奴の自宅を探すしかないな) そう思いながら建物の窓から侵入する毛利、その瞬間パチンという指を鳴らす音が聞こえ、室内の電気が一斉に付けられた。 「やぁ……そろそろ来る頃だろうと思っていたよ」 松永が中央に佇み、まるで猛禽類を思わせる瞳で毛利を観とめる。 「……何故貴様が知っている」 「いや、なに……あの二人が事故に遭ったと小早川くんから聞いてね」 (((金吾あの野郎!!!))) 毛利、石田、長宗我部の頭に同時に鍋大好きな弄られ(虐められ)キャラの顔が浮かんだ。 (長宗我部達が目覚めたら真っ先にあやつの所へ向かおう) 思わず「金吾逃げてー超逃げてー!!」と叫びたくなる想像を頭の中で繰り広げる毛利に、松永は楽しそうに続ける。 「卿は今生では水族館の経営をしているのだったか、いや実に卿らしい」 「……」 毛利のものとは質の違う冷たさを宿した瞳だ。 「以前もそうやって、一匹の魚を自分の海に閉じ込めた」 長宗我部の眉間に皺が寄る、毛利の前世がどんな冷酷だったか知っているが、その実にある暖かみも知っている、彼をこんな風に彼を貶めて欲しくない。 松永が毛利に近づき、その細い顎を指で掴むのを見て怒りが爆発した。 「テメェ!!毛利を離しやがれ!!!」 効果はないと解かっていながら松永から毛利を引き離そうとする、この松永という男は精神的には人間離れしている癖に霊体は見れないらしい。 「……それがどうした」 ――刹那、毛利の手に光が帯びて松永を弾き飛ばす。 数メートル先に着地した松永は涼しい顔で次にくる毛利の言葉を窺がっていた。 「大事なものは手の届く範囲に置く、それが我のやり方だ」 武器は持っていない、そんなものこの時代には必要ないから、あの頃のように大事なものを守る為に命掛けで戦うことはなくなった。 だから、能力の使い方も以前とは比べ物にならないくらい下手だろう。 「卿から賜りたいものが、たった今出来たよ」 松永は笑う、獲物を目の前にした猛禽の笑み。 対する毛利は無表情で、光を帯びた両手を構える。 「卿の全てを貰おう」 戦いの火蓋が切って落とされた瞬間だった。 * * * 翌朝、どうにか数珠を手に入れた毛利は自宅へ帰り、自室で風魔に治療を命じた。 その時に見た身体は裂傷だらけで、石田と長宗我部は心を痛める、首から肩にかけての火傷は痕が残るかもしれない。 一方毛利はぶっすーとした顔で丸椅子に踏ん反り返り風魔の治療を黙って受けていた。 此方は満身創痍なのに対し松永がほぼ無傷だったのが彼の矜持を深く傷つけていた。 越後の龍や甲斐の虎などと共に歴史に名を連ねる戦国武将の自分が一方的にやられたのだ。 今、命があるのは松永が戦闘を「眠いから」という理由で止めたからで、さらに「楽しませてもらったから」という理由で数珠を受け渡された。 そんなものは悔しいに決まっている。 「……しかし我は一歩も引かなかった……以前の我なら敵わぬ相手と知って撤退していたが……大切だと想えるものの為」 傷による熱で朦朧としている彼が呟く、風魔は黙って治療を続けた。 「大谷に似てきたのかもな……ふふ」 そして彼には珍しい柔らかい笑い声を零した。 大谷は多くの捨て駒を持つ毛利の目から見ても滅私奉公なところがある、元来臆病な彼が病をおして、義の為、石田の為に最期まで駆け続けた。 他人の不幸を望むという彼の言葉を偽りと知りながら四国壊滅を共謀させてしまったのは……己の中に残っていた弱さだろう、共に罪を背負う相手が欲しかった。 「ああやはり石田を一発殴ってやりたい、今生でも大谷に迷惑ばかりかけて……まぁそれは大谷の性分であろうが」 眠気を誤魔化す為に喋り続けているのだろうか、全身大怪我をしているというのに饒舌だ。 普通の人間なら気を失うような傷でも立って歩けていたのは毛利が見た目よりずっと丈夫で回復力が高いからだろう、日輪の加護もある。 「長宗我部まで巻き込んで……」 彼の言葉が胸に突き刺さったのか、石田はガクリと膝を付き、もう何度目かわからない謝罪を長宗我部にし始めた。 謝罪の相手がだんだん豊臣や大谷に移って行くのに、どう対応していいか困惑しながら長宗我部は毛利の変化を嬉しく思い始めた。 (コイツが変われたのが大谷の影響だってんなら感謝しねえとな) あの松永に「全て」が欲しいと言ったのだって腹立たしいが、毛利が価値のあるものを沢山持っている証拠だ。 毛利の持っているものの中に自分もいればいいと思いながら、これからどうやって大谷のやろうとしていることを止めようか考える。 その前に自分達が自力で目覚めればいいのだけれど、その兆候は全く見えない。 * * * 数時間後、病室。 「頭の損傷が酷いらしくて……その……もしかしたら、もう目が醒めないかもって」 涙を浮かべながら大谷達に、自分の聞いた二人の容態を説明している島を見て、石田の心中で罪悪感が乱舞していた。 「左近……くっ!刑部頼む!今すぐ私を殴ってくれ!」 「いや、意識ない怪我人殴れとか言うなよ、可哀想だから」 聞こえてないけど……そう、聞こえていないのが問題だ。 先程から何を言っても此処に居る人物には聞こえないし、触ることも出来ない。 前世では霊感が強かった(と思う)島や柴田もその能力を失っているようだ。 そんなことをしている内に毛利が長宗我部の布団に潜り込んだり、大谷が眠っている石田の手に口付けていたり、毛利が大谷にデレたりと、なかなか破壊力の高いことをし始めたので、石田と長宗我部は色んな意味で実体がないことに苦しんだ。 「ぬしは暫くそこで見ておれ」 そして遂に始まってしまった。 大谷の命を削る術、毛利もそれを知らないから黙って彼のいう通りにしている。 石田がどんなに「ヤメロ」と叫んでも伝わらない、止めようとしても触れない、もどかしい、切ない、痛い痛い痛い、痛みを感じない筈なのに胸の辺りが酷く痛い。 刑部が好きだ。 吉継が好きだ。 好きだから「死ぬことは許さない」と言った。 そして「裏切ることも許さない」と、実際彼が自分を裏切ったことはないと石田は信じている。 彼を貶める者の喉をこの手で砕いた。 彼を侮蔑する者の目をこの手で潰した。 傷付けることでしか彼を護れなかったから……そんな己だがら家康に裏切られたのか、だから仲間を殺されてしまったのか。 そんな己だから吉継は傍にいたのだろうか……私は私を許すことも甘やかすことも出来なかったが、刑部がそんな私を許し甘やかした。 わざと憎まれ役を買って、わざと自分が嫌われ私が愛されるように仕向けた。 命、真心……本当は皆に優しいのに、それを私だけに注いでくれた。 「……大谷!!止めよ!!」 漸く異変に気付いた毛利が止めに入るのを見て安堵した。 しかし大谷を止めることは出来ない、そして―― 「……!!よせ毛利!!そんなことしては、ぬしまでッ……!!」 「煩い!!」 毛利まで、自らの命を注ぎ始めた。 それに気付いた長宗我部は焦って毛利の手を掴もうとするがやはり無駄だった。 「たしかに徳川が天下を納めたのち安岐の国は永きに渡り安寧であったがな……」 (毛利?) 石田と長宗我部は毛利と大谷の気持ちが数珠を通して自分達の中へ入ってくるのを感じた。 毛利が聞いた関ヶ原で死んで逝く仲間たちの声、その中で石田だけは死なせないと最後まで足掻く大谷の心。 想いと共に送られてきた大量の記憶に、心が砕かれそうだった。 「貴様らの犠牲の上に立つ安寧で我が幸せになったと思えるか!?」 星の海と、一匹の狐のイメージが頭の中に広がる……狐が持っていた箱の中は色彩の光が溢れていた。 威勢の良い虎を追いかける世話焼きの猿、穴熊がドジを踏むのを豪快に笑う一回り大きな熊、百合を持った不如帰に語りかける銀の蝙蝠、臆病な甲虫を怒る蜜蜂とその周りを飛びまわる蝶。 魚がいなくなった箱の中にいつの間にか入り込んでいた動物達がそれぞれ自由に気ままに過ごしている、狐はそれを遠くからそっと見つめるのが嫌いではなかった。 しかし、その箱を一匹の狸がひっくり返してしまい、箱はまた空っぽになってしまった。 狐が狸を怒れなかったはその狸の手が傷だらけだったから、狸が箱を引っくり返す時についてしまった傷を見て何も言えなくなってしまった。 満開の桜の木の下で、狐は空っぽになった箱を抱きかかえて天を見上げるのだ。 自分に箱を与えた天を日輪を仰いで、落ちてゆく桜をその頬に滑らせる。 その姿が、だんだんと毛利の姿に変わってゆく。 彼が愛した安芸の地で、彼が晩年を過ごした地で、独り。 『――友を得て なおぞうれしき 桜花 昨日にかはる 今日のいろ香は』 この歌を……何を想って詠んだのだろう。 風魔の手が、二人のそれに重ねられたのは、その時だった。 * * * ――数ヶ月後 「大谷、本当に我と籍を入れぬのか?」 「当たり前よ……まぁ後見人にはなってもらうが」 園内にある桜の木の下で大谷は毛利と団子を齧りながら、数週間前に言われた養子縁組の申し出を断っていた。 大谷が事故や病気で意識がない時に本人に代わって手続きが出来るよう、大谷の遺言を聞けるようにとの理由だったので(それプラス長宗我部への当て付けだ)後見人で充分だろう。 「そうか」 「……われにそれを言う前に、ぬしは長宗我部と交際するつもりはないのか」 「ああ無いな、ついでに言えば貴様と石田の交際も認めておらん」 「そんなこと言わないで好い加減認めてよパパ!私たち本気なのよ!」 「気持ち悪い」 大谷が半分本気で言った冗談を一刀両断して、毛利は園の端に出来ている建設現場へ目をやった。 今日から武田が社長の建設会社によって結婚式場の建設が始められたのだ、式場が出来るのは五月下旬予定。 最初の式をジューンブライドに出来ると女性社員たちははしゃぎ回っていた。 「園に式場が出来て最初に式を挙げるのが創始者二人など良い宣伝になったろうに」 「いつからそんな商魂逞しくなった毛利……前世で散々あの宗教に付き纏われたからか?」 「なにをわけの解からぬことを言っておる、金が欲しいと思うのもまた人情であろう」 「ぬしが人情という言葉を使うと違和感があるの……というか毛利、前にも言うたと思うが人は金のみで動くものではない」 「それが当てはまるのは貴様と石田くらいだ」 「ヒヒッ……それに結婚式第一号はもう決まっておろ?話題性も抜群よ」 「……しかし、虎と虎だぞ?」 そう【日輪豊月園】に新しく出来る結婚式場、そこで初めて式を挙げるのは“虎”だった。 なんでも井伊の飼っている虎と宇都宮が飼っている虎のお見合いをして見事にカップルが成立したという、きっと飼い主の分も恋愛運を吸ってしまったのだ。 というか一般家庭で虎を飼える世界なのだから同性結婚くらい許してくれても良いのにと思うがそうもいかないらしい。 まぁ大谷も一応立場ある人間なので男同士で結婚などするつもりはないし、今はただ平和な世で石田と一緒にいられるだけで幸せだと思っている。 ちなみに毛利が石田と大谷の交際を認めていないのが、彼が病室で目覚めた際の第一声が「刑部」だったからだ。 それを聞いた瞬間、己に抱き着く長宗我部を引っぺがして石田に猛口撃を始めた毛利、なんでも「貴様が前世の大谷を忘れるまで今の大谷は渡さん!!」ということらしい。 あと毛利が怒っていた原因に、二人が三階から落ちてからの全デレを見られていたと知って気恥ずかしかったからもある、本当あの時は「穴があったら埋めたい、長宗我部を」という気分だった。 「まぁお陰で捨て駒達も仕事に精が出ているようだし、よいはないか?」 「ふん」 その通り、今まで見たことのない虎と虎の結婚式とあって女性社員だけでなく男性社員たちもはしゃぎ回っている、というか面白がっていた。 「姉上にこの話をしたら姉上のパートナーと共に是非その場で祝いの舞を披露したいと言っていた」 「余興なら市……ペンギン歌劇団さんが見たい」 「司会だったらプロ雇うより俺様の前の職場の上司さんのが上手いよー?ちょっとウザいけど盛り上げ上手だし、玄米茶与えて髭さえ褒めときゃ扱い易いから」 「メイクなら私の知り合いに腕の立つ者がいる……自分のメイクは何故か麻呂風になってしまっているが他人のメイクなら完璧だ」 「他社の社員ッスけどダチ公とその弟分て子供も誘っていいっすかね?三成様はいいって言ったんでいいっすよね?」 「それなら俺の店にいつも野菜と米を届けてくれる奴らがいるんだが……そいつらも呼んでいいか?」 ここに来て前世の知り合いが一斉に会する予感、舞姫のパートナーってまさか帝が来ちゃうのか? というか猿飛の元上司ってスパイ組織の上層部じゃないか、呼んでも大丈夫か? 勝家と蘭丸を誘ったりしたら二人の保護者も来ちゃったりしないか? 神父は勿論あの大友宗麟なので、その部下である立花とその奥も手伝いに来そうだが夫婦喧嘩とか始めないか? ……等々の不安材料が沢山あるが、大谷はそういう大混乱も好きなので問題ない、他人(虎)の結婚式に不幸カモン! なんて思っている。 「それはそうと毛利、ぬし本気でわれと三成の仲を認めてくれぬのか」 「当然だ、奴はまだ貴様と大谷の区別も出来ておらぬだろう」 「われとしては三成に前世から想われていると知れて嬉しいのだが」 ずっと片想いだと思っていたのが実は両想いだったのだから嬉しくて堪らないのだ。 “恋”を“下卑た心”と言ったのも、豊臣に抱く純粋な忠心を別物に喩えられて腹が立ったからだと言って大谷の誤解を解いてくれた。 大谷からの恋情なら嬉しいと、自分も大谷を愛してると、真剣な表情で告白してきた石田は本当にイイ男であった。 「毛利、ぬしはわれの大事な友人で家族よ……だからわれが一等愛する人間をぬしが認めてくれぬのはツラい」 「……別に石田を認めておらぬわけではないが」 よし、もう一息だ、と大谷は思った。 「たとえ三成が過去のわれを見ていたとしてもそれで三成に愛されるのなら構わぬ、われの幸せはただ三成と共にいることだと思っておる」 これは本当だ。 そして大谷が幸せだと言えば毛利も納得してくれる筈だという確信に近い希望があった。 「私も幸せだ吉継ーーー!!!」 しかし、ここで邪魔が入った。 石田三成本人である。 「み、みつなり!?」 「私がはっきり言わぬ所為で貴様を不安にさせたなら謝る、吉継、私は確かに過去の貴様も愛しているが今の私の一等は貴様だ!信じてくれ!!」 「う、疑う余地すらないわ!!」 唐突にされた熱烈な告白に顔を真っ赤にさせながらも、嬉しそうに何度も頷く大谷、襟足で結んだ髪が跳ねて鬱陶しい。 ちなみに髪を結ぶゴムは石田からのプレゼントで菫の花と蝶のビーズが付いているから余計に鬱陶しい。 「盗み聞きとは良い趣味だなぁ?石田よ」 目の前で“我の友人”と堂々とイチャつき始めた石田に堪忍袋の尾が切れる寸前の毛利。 このまま長宗我部以上が現れなければ一生独り者(予定)の彼にこの光景はツラいものがある。 「秀吉さま!私に吉継と添い遂げる許可をーーー!!!」 「その許可ならまずは我に乞え!!」 とうとうブチ切れた毛利に後光が差しだす。 これはマズイ、いつ来るかわからない対松永戦に備えて戦闘力強化中の毛利に本気を出されたら勝ち目がない。 「逃げるぞ三成!!」 「何故だ!?」 三成は三成で毛利が発する明らさまな怒りに気付いておらず、面長な頭の上に疑問符を乗っけながら聞いてきた。 正しく説明したら毛利との戦闘になりそうな為、大谷は暫し考えた後…… 「……ぬしと二人きりになれる所に行きたい」 彼を焚き付けることにした。 「解かった!!私に捕まれ!!」 そう言ったと思ったら石田は大谷が捕まるのも待たず、彼を横抱きにして『刹那』のスピードでどこかへ消えてしまった。 「……」 残された毛利は、膨れ上がった苛立ちを発散させようと黒田のいるオフィスへと足を進めるのだった。 そこで後藤が黒田に初めて手作り弁当を渡しているシーンに出くわし更に機嫌が降下してしまうのは、やはり黒田の不運故だろうか―― END |