啾々


某日、池袋某所
俺、門田京平は折原臨也という名の酔っ払いに絡まれていた

「ほんと罪歌ムカつくよ罪歌……死ねばいいのに、あぁ人じゃないから死なないか、それなら折れれば良いよ杏里ちゃん折っちゃってよ」

居酒屋のカウンターに座りながら呪詛のような言葉を延々と聞いていた
静雄以外の全人類を愛してるコイツの口から静雄以外の愚痴が出るのは珍しい

「どうした?っていうか何だ罪歌って?……ああ、こないだ静雄を襲ったっていう……」
「そうだよ!!」

テーブルを叩いて俺の方へ向いた臨也の目は赤く充血していた

「人間を愛してる事といい歪んだ愛情表現といいアイツは俺の最大のライバルだよ!」

歪んでる自覚があるなら直せばいい、直せないならせめて自重しろというのは間違った意見だろうか
あと先程から日本語が所々おかしいが酔っ払いの戯言にそこまでハイレベルな要求をしてはいけないのだろうか

「……シズちゃんだってさぁ……怒りや暴力がコントロール出来るようになったの罪歌のお陰だと思ってるけど正確には違うからね!それ以前に俺が命懸けな嫌がらせを積み重ねた結果だからね!」
「ほぅ……じゃああの岸谷ですら引くほど悪質な嫌がらせの数々はアイツの力をコントロールさせる為だったと言いたいのか?」
「そうだよ!だってシズちゃん手加減てもん全然覚えてくれないんだもん!経験値積んだら少しはマシになるかなぁと思って刺客を送り込んだりして……まぁコントロール出来るようになっても俺に手加減するような奴じゃないって途中で気付いて止めたけど」

だからって刺客の中にプロを含むのはやり過ぎじゃないか?とかそもそも怒らせるような事をしなければいいのではないか等ツッコミたいことは沢山あるが
そこに一欠片も善意がないとしても静雄が力をコントロールできるようになったのは臨也のお陰なんだろう……罪歌の件もコイツが裏で糸引いたという疑いもある

「まぁ俺に手加減するシズちゃんなんて詰まんないから良いけどね」

まぁ相手は一生気付かないだろうしコイツも気付かれたくないだろうが、でも実は気付いて欲しいと言ってるようで可笑しい

「たとえ手加減覚えても俺にだけは本気できてくれなきゃ、厭」
「……お前って意外と健気だよなぁ」

と撫でてやれば臨也は一瞬驚いた後「お父さーん」とおどけてみせた

「誰がお父さんだ」
「あははー絶対キモイって言われると思ったぁ」
「なんだ自覚あるのか」
「ひどーい」

んーこれは完全なる甘え上戸だな

「静ちゃんは人間に対して消極的過ぎるんだよ〜森から出られない魔物じゃないんだからさぁ」
「お前は積極的過ぎるけどな、童話に出てくる魔女みたいに」
「せめて悪魔って言ってよ〜」

ケラケラ笑う。なにがそんな面白いのか

「シズちゃんはこれから先沢山の人と関わってくよ……俺とは違って性格は悪くないからきっと皆に好かれるんだろうね」
「臨也?」
「でも俺だけはシズちゃんを嫌いだしシズちゃんも俺のことを嫌い続ける」

急に、臨也の纏う雰囲気が変わった
どこか遠くを見る横顔に不思議と惹きつけられる

「シズちゃんが漸く人前の幸せを築けても……それを壊したり邪魔したりするんだよ……俺は」

喉が渇いて仕方ない俺は殆ど氷の溶けたグラスに口を付けた

「……それは、嫌いだからか?」

聞くと、臨也はどこにも焦点を合わさずに

「当たり前でしょ」

と答えた