取れそうな釦を直す為に鞄からソーイングセットを取り出せば乱雑に入れていた三種の糸が雁字搦めになっていた

ああ、そういえば久しぶりだな……彼と喧嘩していた頃はよくお世話になっていたけど、彼との接触を絶った今はお役御免となっている

あの頃は――と言ってもほんの数ヶ月前までの話だが――黒い服ばかり着ていたから自然と余った白と赤の糸

これがもし黒い糸だったら、俺の心情そのものだと思った
そして有り得ない思想をする
もし自分がデュラハンのように陰が扱えるなら、その陰は彼を突き刺すのだろうか、それとも包み込むのだろうか……昔の俺なら確実に前者
でも今は間違いなく彼の方へと伸び、しかし届く事無くこの糸のように雁字搦めに堕ちるのだろう

『彼』こと『平和島静雄』を『俺』こと『折原臨也』がどう思っているのか、真実を解りやすい言葉に直せば『愛してる』だ

自分が彼に好意を寄せていると気付いたのは、彼からの……ある意味絶対的な信頼を絶望的に失った後だった
彼はこの気持ちを俺が自覚する前に気付いていたらしい、気付いていたから俺を傷付ける度に罪悪感に駆られていたのだと

『巫山戯けるな!俺が何年悩んだと思ってるんだ!!』

彼はもう俺の好意を信じていない、俺が彼の傍にいたのは単に利用する為だけだと罵られた
巫山戯けるなとは此方の台詞だ
シズちゃんこそ俺の気持ち解ってないくせにと、叫びたい
だが自分のような人間は他の誰にも理解されない、どれほどの想いをどのように彼へ向けているのか彼に解るはずがないのだ

どうしてこんな理不尽な恋をした?どうして彼なんか好きになったんだろう……
怒と哀と憎だけなら堪えられた、それ以外の感情全てをいっそ破壊してくれたらいい、なんて
こんな事いくら考えても、端から見たらただの悩むバイセクシャルなんだろうなと思うと笑えてくる
セクシャルな欲を抱くのは一人だけだけど




【臨也、大丈夫か?】

ぐらりと体全体が浮き上がって、気が付けば真っ暗な空間の中にいた
唯一光るPDPがこの闇を作り出したのが彼女だと証明している

【臨也、ここには私とお前二人しかいない】

【私は人間ではないから“二人”と言うのはおかしいな】

フルフルと首を振れば暖かい暗闇が全身を包み込んだ
……俺がシズちゃんにしてあげたかったこと

【全部、吐き出せ。大丈夫だ私しか聞いていない】

俺はそれを聞いて、ポツリポツリと言葉を零した



シズちゃんが好きだ

嘘じゃない

出逢った時から

好きだから君に近付いたんだ

気付かなかった訳じゃなくて

怖いから目を背けていた

好き

好きだよ

お願い棄てないで

憎んでも嫌いでもいいからその目に映していて

痛い

いたい……

いたいんだ……シズちゃん

いたいよ……


傍にいたい


……




…………愛してる







「あいたい」







end