※数年後、友人設定、ウザヤご健在です





自分が“人類愛”というものから抜け出せたのはいつだろう

飽きたのか諦めたのかそれとも大人になったのか、そのタイミングが曖昧で抗う事も出来なかったけれど
気付いたら俺は昔より穏やかに笑うようになっていた
言葉を盾にすることも、行動を矛にすることも、なくて、こうやって天敵と杯を交わすことも出来るようになった

「珍しく酔ってやがるな、手前は」
「ん?そんなことないよ」

シズちゃんは相変わらず俺に苛々して偶に殴るけど、もう殺される心配はなくなったと思う
それに一種の虚しさを感じてしまうのはきっと俺だけの感情だ

「ただきっとシズちゃんとだから気を抜いてしまうんだなぁ、あは」
「……お前な、気を抜くとか言うな……いつキレるかわかんねえのに」
「大丈夫だって!シズちゃんは強いもん!!」

驚いたような瞳を向けるシズちゃんに頬笑った
俺がシズちゃんを殺せなかった理由はこれしか考えられないし、弱ければ殺そうとは思わなかっただろう

「今だから言うけどさぁ、俺シズちゃんは死ぬほど嫌いだったけどシズちゃんの暴力は愛してたよ」

昔は色んな意味で落ち着かなかったシズちゃんの隣で酒を飲みいい気分になってるのか
普段は絶対言わない本音がポロポロと転げ落ちる

「はぁ?」
「だって可哀想じゃない?誰からも、シズちゃんからも愛されず腐っていくだけの暴力って……だから俺が愛して利用してやろうって思ってた」
「……」
「そんな睨まないでよー……シズちゃんの暴力を愛せるのって世界中で俺だけなんだろなって思ったら殺し合いも結構楽しくってさ……馬鹿だったなぁ、あの頃は」

懐かしくて醜い思い出に浸り、シズちゃんが黙って聞いてくれてるのが嬉しかった

「だからシズちゃんが暴力を抑えられるようになって悔しかった……俺シズちゃんの暴力をシズちゃんにも取られたくなかったんだな」

気持ち悪いよね?と訊けば顔をしかめて肯定された
それでこそシズちゃん

「シズちゃんがさ、暴力をコントロール出来るようになったのは周りの愛情のお陰なんだよね」
「……あのなぁ」
「照れない照れない、事実なんだから……あーでも、今思えばあの頃から自分の“人ラブ”に疑問を持ち始めたんだっけ」
「は?」
「ていうか愛情がそこまで素晴らしいものとは思えなくなったんだよね……だってシズちゃんの暴力を手に入れる為の俺の痛みも労力も努力も全部“無”にしてしまうのが“愛”だったから」

と言えば苦い顔をする
優しいシズちゃんは俺を暴力で傷付けていた事を後悔してるようだ

「いいんだよ、俺がシズちゃんからされたことは全て自業自得なんだから、てかどっちかっていうと俺の方が酷い事してたのに……ほんと馬鹿みたいにお人好しだよねぇ」

励ますように言うのは別に俺が優しくなった訳じゃなく、シズちゃんにとって優しい真実だけを口に出してるから
俺の本質は変わらなくても、もう二度と傷付けたりはしないって……ここ何年かで抱くようになったほんのりとした想いは、きっと人間的で浅ましくて醜悪だけど

「そっか、俺にとってもアレがきっかけだったんだな」
「はぁ?何がだよ」
「シズちゃんの暴力が力に変わったから……俺も人間になれた」

初めて話すよ
俺はシズちゃんにいつまでも化け物でいて欲しかった
そして俺も化け物でいたかったから

俺を置いてどんどん人間らしくなるシズちゃんに柄にもなく淋しいと思ったものだけど

それは違った

「俺だって、人間になれたんだよ」

それも、シズちゃんと同じきっかけで

「臨也」
「ふふ……嬉しい、なぁ?シズちゃん……」

俺が笑えばシズちゃんも笑う

薄暗い部屋で穏やかに幸せを感じた






あの時、きっと俺は“憎しみ”よりも大きな“愛しさ”に負けてしまったんだ





終宴