※格好良さのかけらもない黒幕コンビ あと静雄さんもヒドい 新宿の某高級マンションのとある情報屋さんの事務所 そこで急遽大量に入った依頼を果たすべく一週間ぶっ通しで仕事を行っていた人間が二人、ソファーの上で息も絶え絶えに寝そべっていた ここに住まう情報屋折原臨也と、その助手矢霧波江である 疲労困憊の体とは別に心は何かをやり遂げた時の達成感で満ち溢れていた しかしこの二人、頭脳労働の合間の貴重な息抜きにわざわざクロスワードを選ぶ等していた為ここ数日間全く頭を休めていない 「はぁ……明日はやっと家に帰れる」 まだ昼を少し過ぎた時間帯だが精魂尽き果てた助手の中では今日も泊まる事は最早決定事項だった 「ごめんね波江さん……お詫びに何か奢るよ」 「なんでも良いから甘いものが食べたい、今すぐによ」 「それならこないだ作ったティラミスが冷蔵庫に……」 ティラミス、微妙に甘くないものだなと思いつつ自分の為に這ってまでキッチンへ向かう臨也に文句は言えず、波江は彼がティラミスと何か飲み物を持って来るまで目を綴じて少しでも体を癒やすことにした この時点で元々可笑しかった二人の頭は更に可笑しな事になっているが、二人ぼっちな職場でそれを指摘してくれる人はいなかった ♂♀ 「なぁ波江さん見てーこれどう思う?」 数時間後、未だソファーでぐったりしている波江に日頃の死闘のおかげか既に回復した臨也が話しかけた 「……あら?」 「ふふん、可愛いでしょ?シズちゃん対策だよ」 臨也が着ていたのは、瞳を潤ませて此方を見上げるネコの絵が描かれているTシャツ、それだけなら可愛らしいキャラTなのだが、その猫の上部にある『殴っちゃイヤにゃん』と書かれた吹き出しが言い知れぬ違和感を醸し出していた 「名付けて『殴らないでねTシャツ』だよ!ねぇコレでシズちゃんの前に現れたら殴れないと思わない?」 ……臨也が回復したのは体力だけで頭はまだクルクルパァ状態のようだ…… 「可愛いわね……どこに売ってるのよ……?」 余計な吹き出しさえなければ自分も欲しいくらいだと波江は思う 意外と可愛いもの好きで気の合う臨也と波江、事務所内の家具やインテリアはモノトーンで纏められてはいるのに私物やオフィス用品はファンシーなものばかりだ そんな二人の愛用スリッパはウサちゃんネコさんだったりするので、偶に来る客はギャップ萌えを感じざるを得ない 「Tシャツ自体は原宿で買って〜吹き出しは自宅刺繍だよ?今時のミシンは凄いよね」 「折角可愛いネコが台無しね」 「確かに俺もかなり抵抗あったけど……コレはシズちゃんに殴られない為の苦肉の策だから」 静雄が殴りかかって来た瞬間、コートをバッと脱げば思わず攻撃を止めてしまう筈だ!とキラキラした瞳で語り出す臨也 服が汚れたり傷付いたりするのを気にするタイプ+動物好きな静雄にはきっと効果はテキメンだ 「本当は羽島幽平プリントにしようかと思ったんだけど男好きだと思われたらイヤだし」 そういう問題なのだろうか 「あら、なら聖辺ルリならオーケーなの?」 「うーん……まぁ女の子だしギリギリね」 だから、そういう問題なのか それに男好きだと思われたくないなら公衆の面前で「老若男女問わずラブ!」だと謳わなければいいのではないか セルティがいたらもっと的確なツッコミを入れてくれるだろう……ああセルティ!!君はなんて素晴らしいんだ!! 「でも……ちょっと思うんだけど……」 「ん?なぁに波江さん」 「貴方それ胴体以外守れなくないかしら?頭とか下半身とか」 「あ、そっか……下半身の攻撃が当たる事はほぼ無いから大丈夫として頭は危ないよね」 残念な事に、今は違う意味で頭が危ないんじゃないかと諭してくれる人も妖精もいなかった 「あ、そうだ……良いものがあるわ」 「え?なになに?」 そう言って波江はバックを漁りだした 「はい」 「……え?」 臨也は渡された物を見て絶句する それはよくある、ぬこ耳カチューシャではなく顔面以外全て覆ってしまうタイプのネコの被り物だった 何故バック被り物が入っているのだろうか、しかも明らかにバックより大きい 「え?いいの?貰っちゃって」 「いいわよ、私が持ってても使い道ないもの」 ならなんで持ち歩いてた 「ありがと!波江さん!!ラブ!!」 「どういたしまして、私はヘイトよ」 言動は色々おかしい今日の波江さんだがクールビューティな態度は変わっていない 「とにかく善は急げだ!ちょっと池袋行って試して来るよ!」 ……と、 楽しそうに出て行く臨也を見て、一週間自宅に籠もって出来たストレスを静雄をからかって発散しようとしているだけじゃなかろうか、と思う波江なのでした ♂♀ その日の夜 「ただいま……」 「おかえりなさい……あらボロボロじゃない(顔だけ)上手く行かなかったの?」 「被り物脱がされてボコられた……あと『手前普通そこはネコ耳だろ!!』って言われた……シズちゃんの癖にツッコミとか生意気」 「そう……」 「あと『手前がなに勘違いしてるか知らねえが俺は犬派だ!!』とか言ってた」 「……次はイヌ耳で来いって事かしら」 「さぁ?知らない……シズちゃんの考えてる事なんて……」 翌朝、正気に戻った二人は昨日の自分達の言動を思い出し深い後悔を覚えるのだった 終わんなさい |