一目見たときから彼の暴力は苦手だった
今、俺ん家の液晶画面にはシズちゃんが罪歌達と戦っているシーンが映っている

嫌いなのに・嫌いなのに・嫌いなのに・目が離せない・破壊活動

『愛してる』

スピーカーから溢れるその声々はとても耳障りだった
いつも彼を化物がと罵倒しているが別に化物が嫌いってわけじゃない、運び屋だって普通に好きだし人の中で生きて人に愛されている彼女に嫌悪感を抱いた事は無い
でも罪歌はやっぱり嫌いだ

暫くするとその声は止み、画面には砂嵐が走った(きっとカメラに何かがぶつかったのだろう)
電源ボタンを押すと部屋全体が薄暗くなる

罪歌の一件をきっかけに俺は、好きに色んな種類があるように嫌いにも色んな種類があるのだと知った
俺が全ての人に抱く愛と、人々が個人に向ける好意、そしてたった一つの嫌いだけで良かったのに

(だから嫌いなんだよ、ずっと)

彼の暴力は嫌いだ

世界を滅茶苦茶されて

心を無にされているみたいで




「もう、やめにしないか」




――世界がそれを是認した――



シズちゃんの言っている意味が、ストンと胸に落ちて来た
もう二度と逢わないようにしようという提案だと、すぐに理解出来て、俺は

涙が溢れそうだった


「どうして……」

俺をみるシズちゃんの顔が見たこと無いような優しい表情で、余計に苦しくなったけど
こんな奴の前で泣いてやるもんかという意地が働いで涙は零れなかった
本当はずっと前からこんな日が来るんじゃないかと思っていた

「俺はもう誰も傷付けたくねえんだよ」

なに言ってるんだろうコイツは、今日だって何人も殴ってきただろうに

「悪ぃ、正直言うと手前が俺の所為で傷付いてるの見んのイヤなんだよ。初めて……てくれた相手で、今までずっと同じ態度でいてくれた相手だからよ……こんなこと言っても手前は全然意味わかってねえだろうけど」

なんだよそれ、ふざけるな!!本当意味わかんない
なんでそんな切ない顔してんだよ憐れむような哀しいような顔!シズちゃんのそんな見たいと思ってたけど俺に向けるもんじゃないだろ!!?

「そんな気遣い余計なお世話だ!!いいんだよ優しくなんてしなくて!!俺がシズちゃんに刻み付けた憎しみはシズちゃんにとってその程度のものじゃないだろ!?」

俺がシズちゃんに仕掛けた所業はちょっと周りの人から愛されたくらいで、どうでも良くなってしまうような軽いものなのか

「恨んでよ!憎んでよ!!一生嫌いでいてよ!!俺は君にそれくらいのことしてきたんだから!!」

本当は、もうこんな言葉でシズちゃんを繋ぎ留める事は出来ないって解かってる

「だから其れがイヤだって言ってんだろ!!?」

そう言ったシズちゃんの瞳は確かに俺の愛すべき人間のものだった

いいんだよ、それは最初から解かってた
シズちゃんはいつか人間になるって、俺がどう足掻いたってどうにも出来ない事だって

「ねぇ」

でも……お願いだから、どうか俺を殺したいのだけは変わらないでいて……特別でいさせてよ

「ノミ蟲、手前なんか……勘違いしてねえか?」
「……はぁ?」

急に声のトーンが下がったシズちゃんを見ると、いつも通りマジ切れる五秒前の顔がそこにあった

「そんな形でしか特別でいられないなんて、思うな」

シズちゃんの言ってる意味が解からなかった(いや彼を理解出来たことは一度もないけど)
あーもう本当なんなの今日のシズちゃん!!急に優しい顔したり怒った顔したりしてさぁ!!

「どういう意味かちゃんと説明して!!」
「チッ……」

そう言ったら思い切り舌打ちをされた

まぁそれでこそシズちゃんだけどね
特別サービスで黙っててあげるから早く喋っちゃってよ


「ねぇ?」

下を向いて“ほんとに自覚ねぇのかよ”とか“馬鹿じゃねえのコイツ”とか何やら失礼な事を呟き出した
なに言ってんだろう?不本意ながら俺の方が背が低いから下向いても表情丸見えだから
むしろちょっと目線ずらせば上向いてる俺と目が合っちゃうんだから


「手前が自分で気付かねえと始まらねぇんだけどよ」
「はい?」

漸く顔を上げたシズちゃんはまたワケの解からない事を言ってきた

「今の俺は手前の“嫌いな奴にする態度”しか知らねぇ……だから何も答えてやる事が出来ない」
「え?へ?なんの話??」

シズちゃんの怒りは鎮まっていて、しかも何故か俺をみて笑っていた

「手前と同じ気持ちになれる保証は出来ないんだけどな」
「はぁ?なに言ってんの!?俺とシズちゃんはずっと前から嫌い合ってんじゃん!!」

だからなんで笑うのさ

「これ以上話してもしゃあねえな……今日は見逃してやっけど今度逢った時は殺してやるから覚悟しとけよ」

言い方がいちいちガキ扱いしてるみたいでムカつくシズちゃんに「それはこっちの台詞だし!」と悪態を吐いた
ほんっと理解不能な生物なんだから
まぁ折角見逃してくれたんだから俺も大人しく帰るけどさ、シズちゃんの気が変わる前に


「もしこの先何回君の気持ちが変わったとしても!絶対俺と同じ気持ちにさせてやるからね!!」


仕返しに叫んでやれば、煙草に火をつけたばかりのソイツは盛大に咽こんだ



END