※サイケはいないけどサイケがいる設定




たとえば百年あなたと離れた所であなたを想い続ける事で
あなたを何かから救うことが出来るとしたら



「臨也の作る歌詞は本当に臨也らしくないね」


新曲を聴かせる度に口にする台詞を今回もまた新羅に言われた

「最初はもっと俗まみれの歌になるかと思ってたよ」
「……サイケにそんなの歌わせるわけないし、ていうか俺って俗っぽい?」
「自分の欲望には忠実だよね、その為に周りを省みないとか、僕は好きだけど」

俺の唯一と言っていいくらいの友人(ドタチンはちょっと違う)はやっぱり変わってると思うけど
新羅から向けられる好意はさっぱりしていて好きだな、と思う

「そんなに俺らしくないかなぁ?メロディに乗せて詩を並べてるだけだよ」
「臨也らしくないよ、特にこの『罪を犯す事であなたに“関わっている”と言えるなら、私は罰を怖れない』とか、罰を受けないように立ち回ってる卑怯な臨也が言いそうにない台詞ナンバーワンだよ」
「うっさいな」
「んで純粋無垢なサイケにも似合わないよね」
「あーもう……そう言うんなら俺の作った歌聴かなけりゃいいだろ?なんでいっつも聴きたがるんだよ」
「別に悪いとも嫌いとも言ってないじゃない、ただ臨也らしくないなって思うだけで俺は好きだよ」

俺が書くと曲はまだ拙いし、自分でも反吐が出る程の酷い歌詞だ
それでもサイケにせがまれて仕方なく作ってる身だから……褒められても嬉しくはない

「歌なんて誰かに聴かせないと育たないもんだよ」
「お前が音楽の何を知っている」

中学時代からの付き合いだけど、今まで全く音楽に興味を示したこと無かったじゃないか

「サイケも折角歌ったものを誰からも聴いて貰えないのは可哀想だよ」

どうせ助手にも津軽にも聴かせてあげてないんでしょ?と言われて当たり前だと答えた

「こんな下手な曲、恥ずかしくて他人に聞かせらんないよ」
「私ならいいの?」
「そうだよ、だって新羅ならどうせ……」
「……なに?」
「……」

どうせ……の次の言葉が出て来ない、何かを思ってる筈なのに言語化しようとすると頭が回らない
でも新羅を傷つけるような言葉ではないという確信は持てる、そしてそれを解かってくれているとも

だから新羅は続きを促さない
その代わりもっと困った質問をしてきた

「臨也はさ、自分の詩を聴いてどう思う?自分じゃなくて他人が書いたものだったとしたら」
「俺じゃない人間が……?」



――あなたと逢えた事が運命とするなら

それはなんと皮肉なものだろう

閉ざされた瞳を無理やり抉じ開ければ、あなたを傷つけると知っていた
白の世界の金色狼は銀の月みて今宵も吠える

完璧な大地を私の赤で穢したいと思った事は贖えない罪となる

雪のように降り積もる黒き憎悪は果てしなく、論っては拒絶され、蔑んでは隔てられ
私はただ朽ちる事の赦されない古城の外壁のようにポロポロと墜ちるのだろう

それでもいい
罪を犯す事であなたに“関わっている”と言えるなら、私は罰を怖れない
大丈夫、痛みなど忘れた

私の赤で穢された大地にも、あなたは花を咲かせる、誰かの笑顔で緑が満ちて白の世界は美しく変わる
夜の闇さえも照らした金色は、漸く希望の朝を迎えたのだ

果して私はあなたに“関わっていた”のだろうか
透明な生温かい液体は、無情にも私を碧い海まで流した
あなたを臨んでいいのか、このまま此処にいた方がいいのか

こたえて欲しい、残酷な声であってもあなたに

たとえば百年あなたと離れた所であなたを想い続ける事で
あなたを何かから救うことが出来るとしたら

私はもうこの世界からいなくなっても
墓なく蟲の餌になろうと

百年後あなたが私を憶えていてくれるなら
それで今までの代償となるなら

罪重ねてきた嘘も報われる


たとえば百年あなたと離れた所であなたを想い続ける事で
あなたを何かから救うことが出来るとしたら

その祈りがあなたの世界に色付けるなら
儚い想いは届かなくとも

百年後もあなたを私が愛しているのなら
それが生きた証となるなら

最高に幸せな形なのだろう


……――


「ね?どう思う?」

改めて冷静に見ると、なんていう恥ずかしい歌詞なんだ
まるで叶わぬ恋の歌じゃないか……俺はこんなものをサイケに謳わせてたのか

「新羅」
「なんだい?」
「自分で作っといてなんだけど本当に最低な歌だと思う……」

新羅は溜息を吐いて笑みを深めた
今度は続きを言えって言われてるみたいだ

「でも、きっとこの歌を一生消す事は出来ないんだろうね……俺は」

そう言ったら新羅は一瞬ひどく驚いた顔をして……大爆笑しやがった

「あはははは!!あはは!!もう臨也!!」
「なに?急に」

怒りを抱く前に引いてしまったんだけど
そんな俺にはお構いなしに新羅は目尻に溜まった涙を拭いながら(泣くほど笑うなよ)

「これ、暫く借りてていい?僕の心情にもどこか似てるからさ……」

また聴きたい、と言った



* * *



『新羅、最近私がいない時は音楽を聴いてるみたいだな』

「え?ああバレちゃった?君のいない時間の寂しさを紛らわそうと思ってね!」

『私にも聴かせてくれないか?』

「なんでだい?二人っきりの時間に音楽なんて邪魔なだけだろう」

『でも……今まで音楽に興味の無かったお前がどんな歌が好きなのか興味が沸いてな』

「ッ……セルティ!!!解かったよ!!一緒に聴こう!!反吐臨也が作った腐れ詩だけど歌はサイケたんだから君もきっと気に入るよ!!」


こうして「他の人に聴かせないで」という臨也との約束はアッサリと破られたのだった



fine

「まぁセルティは人じゃないからいいよね!」
『これ静雄にも聴かせてやりたいんだが……むしろ静雄に聴かせるべきだったんじゃないのか?』
「それは可哀想だからやめてあげて?」