匿名様リクエスト・ツガ臨というより静臨←津っぽいです
※津軽の設定がフリーダム



俺の名前は津軽島、人からは津軽と呼ばれている、某国で殺戮兵器として生み出されたアンドロイドだ
廃棄処分されそうな所を相方のサイケと共に脱走し、右往左往してるところでマスターに保護され、今は何不自由なく暮らしている

「…………」

そんな理由で今のマスター、臨也にはすごく感謝している……しかし、だからといって、満面の笑みを浮かべてメイド服を俺に差し出す臨也を前に「俺のマスターは遂に頭が沸いたのか」と思うことを誰が責められるだろうか

「……何だよ?この衣装の山々は……」

臨也が部屋に持ち込んだ大量の衣装(コスプレショップから購入したと推測される)を見ながら恐る恐る聞いてみると

「もちろん、君のために用意したんだよ津軽、高かったんだから感謝してよねー」

俺の為……え?じゃあ俺が着るのか?この猫耳やら体操服やらマニアックな衣装たちを?サイケではなく俺が?

「アホか変態!!ふざっけんな!!」

そう言いながら殴りかかると臨也は予想していたのかヒョイヒョイッと容易く避けた
マスターに向かってたいそう不躾な態度に見えるかも知れないが、これは臨也から「その顔で敬語とかキモイ、あとマスターって呼ぶのヤメテ」と言われて仕方なくだ……
まぁ半分本気でやってるんだが……

「なにがしたいんだ?お前は」

臨也は普段からアホだけどアホはアホなりに知的な部分も持ち合わせていたじゃないか、それなのにこのアホ……じゃない臨也はどうした?波江さんに何か変な薬でも盛られたのか?

「ん?俺はただ恥ずかしい格好して恥ずかしいこと言ってるシズちゃんの映像をネットに流出したいだけだよ」

…………やっぱり平和島静雄か、いつも知的で表面上は冷静な臨也がいつもに増して変な行動に走るのは、だいたいアイツが絡んだ時だ
まぁどうせまた静雄モテている所を目撃して嫉妬して、評判を落としてやろうとしてこんな事を……
だがそれで俺が犠牲になるのはおかしいんじゃないか

「断る。と言ったら?」
「サイケのプログラムいじって俺みたいな性格にする」
「……わかった」

それだけは勘弁して欲しい、と首を下げると臨也は勝ち誇った顔で鼻息を吐いた
何かもう色々と諦めた俺は言われるがままバーテン服に袖を通す、着替え終わると臨也はどこか殺気を含んだ瞳で「すごい!これはもうシズちゃんにしか見えないよ!」と騒いでいる

「おい、さっさと始めろ」
「もー津軽はせっかちだなぁ、シズちゃんじゃないんだから……」

すると臨也は頭に人差し指を当てて唸りだした
きっと平和島静雄に言わせる恥ずかしい台詞でも考えているのだろう

「よっし!じゃあ最初は通常装備で『臨也は俺のもんだ!手ぇ出したらぶっ殺すぞ!』いってみよー!」

……通常装備とはバーテン服の事か、まぁ百歩譲ってそれは突っ込まないでおいてやるが、いったいその映像をネットに流して何の意味がある

「怖がって俺を狙う輩がちょっとでも減ればいいじゃん!シズちゃんへの精神攻撃にもなるし」

効果は絶大だと思うが、その場合お前にもダメージがあるぞ

「いいから、早く言って!キレ気味の表情でね!」
「はぁ……わかったよ」

ワクワクしながらカメラを構える臨也をジッと睨みながら、俺はご所望の台詞に感情を込めて言ってやった

「……」

……いや、自分から頼んどいて照れるなよ赤くなるなよ

「……よし、えっとじゃあ今度はSPの格好で『他の奴には指一本触れさせない、俺が一生手前を守ってやる……』お願い」

なぁ臨也……確かに恥ずかしいけど、それお前が『平和島静雄に言ってもらいたい台詞』じゃないか?

「おおお!津軽スーツも似合う!殺したいほど格好いいよ!!」
「ハァ」

もはや当初の目的を忘れ『平和島静雄ファッションショーin折原宅』になっている気がしないでもないが、まぁ臨也が楽しそうだから良しとするか

と、

そんなこんなが数時間続き、今臨也は警官の服を着た俺を見て僅かに頬を赤らめさせている

「すごい津軽かっこいい!……銃を構えながら『無駄な抵抗はよせ』って言ってみて?」

だんだん要望もマニアックになってきた……今までの台詞チョイスから想像するに臨也は追い詰められるのが好きみたいだ

「……無駄な抵抗はよせ!」
「うわあ!ヤバい、マジ抱いてー!!」

臨也の要望に応える度に自分の中の何かが減っていく気がするのだが……果たして気のせいだろうか

「じゃあ今度は俺が執事役やるからシズちゃんお嬢様ね!」

いつの間にかファッションショーからごっこ遊びに変更したらしい、ていうか配役逆だろ、ていうか今シズちゃんて呼んだろ

「なぁ……もう朝だし、そろそろ終いにしないか?サイケも起きてくるだろう」
「……へ?あーそうだね」

そう、俺達はこんな馬鹿げた事を徹夜でやっていたのだ(サイケが寝静まっている内に)
だんだん白くなっていく空を見ていると虚しさを感じてしまう

「じゃあ、最後にもう一度だけバーテン服着て、津軽が考えたクサイ台詞言って」

寝てない所為か、いつの間にか恥ずかしい台詞からクサイ台詞へナチュラルチェンジしてしまっているが、多分気付かれたくないだろうから黙っておいてやろう

「……臨也」
「うん」
「お前は初め、俺にサイケをお前みたいな性格にすると言って脅したが……別に俺はお前の性格がイヤだというわけじゃないぞ」

ただ、臨也みたいな奴は一人で良いと思ったんだ

他の奴が臨也をどう思っているのか知らないが、俺にとっては家族のようなもので

「え?それだけ?」
「ああ」
「んー……まぁシズちゃんと同じ顔した奴に期待するのも変か……」

嗚呼いつもの痛み、臨也がアイツの名前を出す度に、俺の向こうにアイツを思い描いて柔らかく笑む度に、胸がツキリと痛むのだ
それは俺とサイケが廃棄処分されそうになった原因だった(殺戮兵器にそんなものは要らないと、俺も同感だ)

「でも嬉しいよ!ありがと!」

俺にはこんな風に無邪気で残酷な笑顔しか向けてくれないけど……それすらも大切なものだと思うのは可笑しいだろうか

「……どう、いたしまして」
「今日は付き合わせてゴメンね、お礼になにか一つだけお願い聞いてあげるよ」

願い……

「いい、別に、今のままで満足している」
「本当?」
「ああ、本当だ」


本当に

お前みたいな奴はこの世に一人でいい

俺はお前と違って、他の誰かを臨也と重ねたりしないから


なぁ……


――たった一人の愛しのマスター





* * *


余談だが、撮影した映像はネットには流出せずに今も大事に臨也のパソコン内に保存されている
いつか波江にバラしてやろうと思った



END