※抱き締める企画・結理様リクエスト
遊馬崎さん視点【遂よ真珠は〜】と若干繋がってます。



最近静雄さんの機嫌が悪いという話は狩沢さんに聞いて知っていた
静雄さんや臨也さん関連に詳しい狩沢さんはその理由も知っていた

なんでも静雄さんの「可愛い後輩がノミ蟲の毒牙にかかった」所為らしい

この可愛い後輩というのは静雄さんの職場の新人でヴァローナさんというとても綺麗なロシア人の女性だった
そのヴァローナさんがノミ蟲こと――折原臨也さんと奇妙な友情らしきものを生みだしているのだと言う
コレを聞いた時はまた臨也さんの悪い癖でヴァローナさんにちょっかい出しているのか……と思ったが、今はどうも違う気がする
数回会話した程度の認識しかないけどヴァローナさんはそんなに愚かでも弱くもない、逆に聡明で強いと思う
彼女の名には『鴉』という意味があり、それも良く似合っていると思うが、何事にも動じない姿勢は『象』の様な印象も受ける

そんな彼女が臨也さんに騙されるだろうか?

コレも狩沢さんから聞いた話だけど、臨也さんは彼女と初めて会った時に今まで誰にも見せた事のない本気の涙を流したんだそうだ
嘘泣き以外の泣き方を知らない臨也さんは涙を止める事も出来ず、結果気を失うまで号泣し続けたという(なんで狩沢さんがそんなの知ってんだろう)
臨也さんらしいと言ったら……らしいけど、あの人ほんと外道なのか純粋なのかよく解からない

まぁそれは置いといて、初対面でそんな醜態を見せてしまったからか臨也さんもヴァローナさん相手に取り繕うこともなく、思ったより普通の対人関係を築いていた(あの二人にしては、の話)

だから、ヴァローナさんは臨也さんの毒牙にかかってる訳じゃないと思う、そしてそれを一番理解してるのは静雄さんだ
狩沢さんなんかは「これって絶対シズシズの嫉妬だよね!イザイザをヴァロたんに取られて、もしくはヴァロたんをイザイザに取られてヤキモチ妬いてるのよ!!」と興奮気味に言っていた……あのお姉さん的には静雄さんの嫉妬の対象がどちらでも萌えるそうだ
俺も……静雄さんの心情的に一番近いのは嫉妬だろうなと思う、多分静雄さんの不機嫌の本当の理由は「臨也という存在にヴァローナが興味をもった」事への苛立ちだ
静雄さん自分へと一途に向けられる興味が他に逸れる事を嫌うから……本人に自覚は無いけど、それは池袋に長くいる人なら誰でも知ってるだろう



さて、何故俺が静雄さん達に対してこんなに考察してるのかというと……それは今陥っている事態の所為だ
そうじゃなきゃ二次元以外の事でこんな真剣に考えない

「あー……クソノミ蟲が……俺の可愛い後輩に手ぇ出しやがって……」

私遊馬崎ウォーカーは此処露西亜寿司にて酔っ払った平和島静雄さんに絶賛絡まれ中です
一緒に来ていた門田さん狩沢さん渡草さんは俺を早々に見捨ててカウンターの端へ避難しやがりました

「ま、まぁ大丈夫ですよ!ヴァローナさんしっかりしてるし!それに臨也さんだって静雄さんが思うほど悪い人じゃ……」
「ああ゛!?」

しまった!!咄嗟にフォローした心算が静雄さんの導火線に火を付けちゃった!!
ああ俺の馬鹿ーー静雄さんの前で臨也さんを悪い人じゃないなんて言ったら発火するに決まって……って、アレ?

「どうしてそう思う?」
「へ?」
「なんで……どいつもこいつもノミ蟲を庇うんだ?」

新羅といい、ヴァローナといい、信者の奴らといい……何故アイツの醜悪さに気付かない?
そう、心底不思議といった顔で静雄さんは訊いてきた

ああ、この人は臨也さんを絶対悪だと信じてるんだな
臨也さんが静雄さんにしてきた事を考えたら無理もないけど

「あの……怒らないで聞いて下さい」
「なんだ?」

「俺、臨也さんのこと嫌いじゃない……寧ろ好きっすよ?」

メキッと音を立ててカウンターに亀裂が入った

「勿論、恋愛対象ではないので安心して下さい」
「……だとしても頭おかしいだろ……アイツを好きなんて」

俺を見て眉を顰めるが怖くはない、それは静雄さんが今、面白いくらい動揺してるのが解かるから
きっと彼の中にある“臨也さんを好きになる人間なんていない”って常識が崩れているんだと思う

「確かに臨也さんは極悪非道な駄目人間だと思います……でもソレは特別なことじゃない、臨也さんより非道で狡猾で人を人だと思わないような人間は沢山います」

実際にこの目で見て来たから解かる、アンダーグランドに片足を突っ込んでる臨也さんなら俺以上に知っているだろう

「臨也さんみたいに奇異な人間も精神的にキレてる人間も沢山いる……俺だってその類だと思います」
「……アイツ程じゃねえだろ」
「否定はしないんすね」

でも静雄さんだって少なからず臨也さんを自分と“同類”だと思うでしょ?

「俺がもし臨也さんと同じ立場だったら、俺に嫉妬してたと思います」
「は?」
「だって同じように世界から孤立してておかしくないのに、俺には門田さん達がいるから」

俺だったら悔しいと思う、許せないと思う、どうして俺だけ?って言いたくなると思う
でも臨也さんはそれを思わない、俺達と門田さんを見て『親子みたいだ』と微笑むくらい

独りじゃない俺を認めてくれてる

俺だけじゃない
セルティさんに対してだって
他の人にだって
異端者である事を理由に人間から離れろとは言わない
自分と同じ様に孤立していてもおかしくないのに孤独ではない人を責めない
その癖、自分より孤独で憐れな存在を可愛いと感じる、愛してると囁くけど……

「臨也さんは人間の全てを、ありのままに受け入れてるんすよ……静雄さん以外の」
「……」
「もし臨也さんが俺に嫉妬するような事があるなら、こうやって静雄さんと肩を並べて飲んでいられる事くらいっすよ……多分」

その事がいったい何を意味してるのか静雄さんが一番知ってる筈だ

「臨也さんの普段の行いは嫌いっすけど……静雄さんと対峙してる臨也さんは嫌いじゃないっす」

臨也さんは静雄さんだけを“嫌い”だと言う

それはきっと本能が“今の静雄さんを許しちゃいけない”と告げたからでしょうね
人間になりきれない静雄さんを認めちゃいけない、自虐的でどこか諦めてるような静雄さんは否定しなきゃいけない

臨也さん自身が自覚していない事だけど

「俺、静雄さんの事を好きな臨也さんが好きなんすよ」

ふと……もし臨也さんが静雄さんを好きじゃなかったら、もし他の人間のように愛していたら、ひょっとしたら二人は良い友達になってたかもしれないと思った
全てを受け入れてくれる臨也さんは、誰からも受け入れられた事のない当時の静雄さんには魅力的だったろうから

「……」

静雄さんは真っ赤な顔をして、俺をジッと見詰めている
……会話が聞こえない位置にいる狩沢さんなんかは勘違いしてんじゃないだろうかと心配になってきた
ち、違うっすよ!?きっと今はただ静雄さんちょっと放心状態なだけだから!!って、俺は狩沢さんに弁解しようとした

「……ズちゃん?」
「へ?」
「え?」

どこかで聞いた事のある様な声(喩えるなら青空のような)が聞こえて、俺達は全員其方を向いた

「シズちゃん……?」

何時の間にか居たのは、思った通りの人物で……何時ものように静雄さんを愛称で呼んだ

「え?あ……ヤダ!!なんで遊馬崎と見詰め合ってんの!?」

途端に取り乱す臨也さんに、誰も反応出来なかった
見ると臨也さんの顔は真っ赤で、ここに来る前に相当飲んできた事を物語っていた
まさかの戦争コンビ二人揃って酔っ払い……や、静雄さんはだいぶ酔いも醒めてると思うけど……

「やだ……なんで……そんな……」

そうこうしてるウチに臨也さんの顔がどんどん歪む、苦しい様な悲しい様な
どうしようもない切なさの滲んだ顔で……見てるこっちが胸を痛くする様な、そんな顔

「……遊馬崎ぃ」

聞いただけで俺に嫉妬してるって解かる、臨也さんのこんな声は初めて聴いた
そしてそんな自分が信じられなくて苦しいって泣いてる

嗚呼きっとヴァローナさんはコレを見たから臨也さんをほっておけなくなったんだ

「ぅ…つぅ…あ、あ、あ……」
「ッ!!臨也さん!?大丈夫ですか!?」

やっぱり泣きなれてない臨也さんは、呼吸困難に陥りかけていた
俺や、奥にいた門田さんが駆け寄ろうとするけど

「ひっ!?」

その前に

「な!?シズちゃん!??」

静雄さんが突き動かされたように臨也さんを抱き締めた
いよいよ混乱した臨也さんが静雄さんを突き離そうとするけど効果はない

「ちょ……なんで……だよ……」

静雄さんは何も言わないし臨也さんを離そうとしない
でも呼吸を落ちつけ、ただポロポロと涙を零す臨也さんを見て腕の力を少し緩めたみたいだ

「俺は人間が好きだ……遊馬崎のことも勿論……」

やがて一言一言自分に言い聞かすように呟いた臨也さんは、静雄さんの目を真っ直ぐ見上げて言った

「全部シズちゃんの所為だよ……シズちゃんを嫌いな所為でっ!君の周りの人間まで許せなくなっちゃうじゃないか!!」

瞳いっぱいに涙を溜めて、酒が入っているからか熱っぽい表情を浮かべて、二人の距離は臨也さんが静雄さんのシャツを握るその指から肘までの距離しかないのに

「化物の癖に……なんで、なんで……やだよ、誰かの隣にいる君なんて、きらい……」

静雄さんは、俯いて泣き続ける臨也さんを包み込むように抱き締めた

「……」

ただ静かに
そこだけ時が止まったみたいに






「アイツ等……ここが露西亜寿司だって忘れてねえよな?」
「シー!よ、ドタチン!!今いいところなんだから」
「帰りたいのに……なんで扉のすぐ前でやってんだよアイツ等」


結局、露西亜寿司にいた客は(といっても俺達だけだけど)泣き疲れた臨也さんが静雄さんの腕の中スースーと寝息を立てるまでこの場を離れられなかった



END
リク内容:遂よ真珠は貝を思い出すのような状況を無自覚臨也さんがシズちゃんの前でやってしまい、それを見たシズちゃんは何故か抱きしめてしまう
理由はお酒でも新羅さんの薬でも何でもいいとの事だったので今回は「お酒+静雄さんモテ現場(勘違い)発見」にしてみました
まったくリクに沿えてない気がするし、遊馬崎さんの口調ちがうしスミマセン…