※ネタで言っていた『臨也の恋心具現化サイケ』珍しく恋人設定です





思えばアイツ(臨也)に出逢ってこの方、俺の日常は予期せぬ出来事(しかも悪い意味で)の連続だった
その中で特に最悪なのは、嫌い合っていた俺達が何時の間にか互いに恋心を抱いてしまい、殺し合いをしていた筈なのに何がどうしてか恋人なんていう関係に進展してしまった事だ
アイツを好きな事自体は昔から「惚れちまったものは仕方ない」と割り切っていたのだが……問題は付き合い始めてからだった

なんていうか、本当に!!アイツは本当に可愛くないにも程がある!!

……まぁ可愛くない所が可愛い……なんて少しは思ったりしないこともないけど
……ていうか狩沢や遊馬崎の話を聞いていると俺以外の前では可愛い一面もあるのだそうだ
それってなんか違くないか?いつかトムさんが言っていたけど普通の恋人は人前ではツンツンしてても二人きりの時くらいデレデレになるんじゃないのか?
そういえばあの後トムさんは「ったく、お前はもっと遠慮しねえでツッコミくらいしてこいよ」なんて呆れたように言っていたがその意味が未だに解からない(まぁやっぱトムさんはスゲーって事か)

とにかくアイツは俺の前では本当に可愛気がなかった
付き合っているというのに相変わらず俺を嵌めようとするし、常に人を馬鹿にしたような目で見てくる
そのくせ独占欲と支配欲の塊で嫉妬深い……しかも嫉妬の矛先が相手ではなく『人間と仲良く出来るシズちゃん』に向いていた(俺以外に危害を加えないのは助かるけど)
これなら俺を好きだと自覚する前の方がまだ素直で解かりやすいし扱いやすかったように思える
自分でもこんな考えは最低だと思うが、ハッキリ言って昔の臨也の方が可愛かった

だから、少しでも良いから昔の臨也に戻らないかな……俺はそんな事を思って過ごしていた



だけどな

「シズちゃん好き好きー愛してる」
「だぁぁあ放せや!!このくっ付きノミ蟲!!俺はコレから幽の新しい映画観に行くんだよ!!」
「そんなの一人で観に行ったって悲しいだけじゃん!!俺も一緒に連れてってよ!!」
「誰が手前なんかと!!野郎二人で恋愛映画とか寒いだけだろ!!」

これがもし違うジャンルの映画でも臨也と二人でなんて御免だ池袋じゃ目立ち過ぎる

「駄目!シズちゃん今日はずっと俺と一緒に過ごすの!!」

俺に抱きついたまま臨也は幼児口調で迫ってくる……なんだこれ昔の臨也に戻らないかとか考えていた俺への罰か?だからってここまで子供返りしなくてもいいじゃないか
ていうかさっきから疑問だったけどコイツは本当に臨也なのか?いきなり押しかけて来るから気付かなかったが冷静になって見ると若干顔付きの幼い……下手したら出逢った高校時代よりも若いかも知れない
しかも良く見たら背景が半分透けて見える……なんだコイツとうとう死んで幽霊にでもなったのか

「……ってふざけんじゃねえぞ!!?何処のどいつに殺られた!!?」

俺は叫びながら臨也を押しのける
その身体は半透明で重みも質感もないのにすり抜けたりはしなかった

「ほえ?」

ほえ?じゃねえ!!本気ふざけんな!!手前を生かすのも殺すのも俺しかいねえだろ!!勝手に死んでんじゃねえよ!!

「なに言ってんの?俺、幽霊じゃないよ」
「……ッ!!?」

きょとっとした仕種でにんまり笑った臨也が幸せそうに顔を綻ばせて再び抱きついてきた
なんだコレ!?心臓うるせえ!!どうした俺病気か!!?医者に見せるべきか!?


と、そう思っていた時だった

「お邪魔するよー」

医者が来た
チャイムも無しに入ってきたのは数少ない俺と臨也共通の友人、岸谷新羅とその彼女セルティだった
おいコラ、セルティは兎も角お前は勝手に入ってくんな……まぁ昔から何かと世話になってる親友にそんなこと口に出しては言わないが表情には出す

「もーそんな顔しないでよ……ソイツ回収したらすぐ帰るから」
【やっぱり此処にいたのか、サイケ】
「ほら、さっさと臨也の身体に戻ってよ、サイケ」

サイケ、と呼びながら新羅が俺の胸の中にいる臨也に手を差し伸べた
するとサイケは二人にあっかんベーをしながら俺に抱きつく腕の力を強める

「やぁだ!だって戻ったら俺またシズちゃんのこと「キライ」って言っちゃうもん!」
「コラ!いい歳した大人が語尾に「もん!」とか付けるんじゃありません!恥ずかしいでしょ!?」
【そう言う新羅もお母さんみたいな口調になってるぞ!?】

と、目の前でコントじみたことを繰り広げている三人に俺はマジギレ寸前だった
サイケってなんだ?このスケスケ臨也の事か?さっきから全く話が見えない

「つーか……新羅なんで手前が臨也をおぶってやがんだ?」

一番理解不能なのは俺に抱きついている臨也の他にもう一人、新羅に背負われてる臨也がいるって事だ

「誰だソレってか多分ソイツが本物の臨也なんだろうが……なんでこんな事になってるんだ?しかも偽物の臨也からも本物の臨也の感じがするし……」
「日本語おかしいよ静雄」
「うるせえ」

本当に臨也に出逢ってこの方、俺の日常は予期せぬ出来事の連続だ
今回のコレが悪い方かは現段階じゃ判断つかないけどな

「んじゃ、順を追って説明するね」
「ああ、手短にな」

あんま長いと苛々するから……特に新羅は無駄に小難しい言葉を使って説明するから余計訳がわからなくなる



♂♀



新羅も何か焦っているようで説明も奇跡的に手短で済んだ
なんでも臨也は新羅の親父さんが研究中の“psychedelic dreams”という新薬を誤って飲んでしまったそうだ
その新薬には“飲んだ人間の恋心を具現化し体外に追い出す”という信じられない効果があるらしい
前々から思っていたが新羅の親父さんは本当に用途不明のモンを作る天才だよな、しかも毎回俺達を被験者にするよな
どうせ今回もわざとだろう……あの変態ガスマスク

「で、コレがその臨也の恋心を具現化した姿か……」

もっと禍々しいイメージがあったんだが……ああ、でもある意味イメージ通りかもしれない

「ほんっと迷惑なくらい静雄にベッタリだよね」

新羅が苦笑いを浮かべる理由も解かる、コレを普段の臨也に見せてやったら面白い事になりそうだな

「ちょっとシズちゃんコレなんて言わないでちゃんと名前で呼んでよ!俺を呼ぶシズちゃんの声好きなんだからね!もう……」

どうしようコイツ素直過ぎてウケる、普段とのギャップ有り過ぎだろ……普段どんだけ自制してんだよ


【この姿を臨也にも見せてやりたいな】

そっと、新羅と臨也から見えないようにセルティがPDAを見せて来た
セルティも同じ様なこと考えてたんだなと嬉しくなったら次に思いも寄らない言葉を掛けられた

【臨也は自分のお前へ向ける恋心を私の影の様なものだと思って悩んでいたからな……これを見せて安心させたい】

は?

【ずっと自分の闇でお前を雁字搦めにしてしまうと怖がっていたから】

おい何だソレ……セルティの影をそんな風に思うなんてセルティに対しても失礼じゃねえか

【お前への恋愛感情を自覚してからずっと……影に杭を打つように、その想いを留めていたからな】

本気で馬鹿かコイツ……幾ら言ったって『人ラブ』とかいう迷惑な行動は止めねえ癖に、本当余計なとこばっか自制しやがって


「そんな君もたまには良いけど、そろそろ自分の身体に戻ってやってよ」
「別にいいじゃん、このままならずっとシズちゃんと一緒にいられるもん!今の俺なら怪我もしないし幾ら殴られたって平気でいられる!!」

俺とセルティが話している内に新羅と臨也も話を続けていたようで、ハッと気付いた俺は二人の会話に途中から耳を傾けた

「でもこのまま君が戻らないと臨也はずっと眠ったまま目を醒まさないし……最悪死んじゃうかもしれないんだよ?」

は?

【……】
「って!!おい!どういうことだ!!?」

臨也が死ぬかもと聞いて思わず叫んで新羅の胸倉を掴む
咄嗟にセルティが止めてくれたお陰で何とか怪我させねえで済んだ

すると臨也が言った

「良いじゃん別に」
「いやいや全然良くないから」

そうだ、何言ってんだ手前

「身体に戻ったら俺またシズちゃんに酷い事しちゃうし」

いい加減にしろ……

「シズちゃんを傷付ける俺なんて死んぢゃえばいいんだ」

この……

「クソノミ蟲がぁぁぁぁああああ!!!」

いきなりテーブルをひっくり返した反動で臨也は吹っ飛び壁に身体を叩きつける
セルティは俺の行動を予期していたように新羅をガードしてくれていて臨也と部屋以外は無事だ

臨也は驚いているが痛みは感じていないようだ

「どうしたの?シズちゃん??」

不思議そうな瞳で真っ直ぐ見詰めて来る幼い顔は、俺に対する好意だけが湛えられていて……気色悪い
たしかに普段の臨也は自己中で身勝手などうしようもねえクソ野郎だ
けどな、それでもそんな迷いなく自虐的な台詞吐くような奴じゃないだけ手前よりマシなんだよ

「手前は……ノミ蟲の“恋心”だかなんだか知らねえが……そんなもんで俺が満足するとでも思ってんのかよ」
「シズちゃん?」
「アイツの“恋心”だけじゃねえ、心も身体も全部まとめて俺のもんだ!!」
「……!!?」

その顔は一瞬にして首まで真っ赤に染まった

「解かったらさっさと返しやがれ、馬鹿」
「……はい」

臨也は呆気に取られてる新羅の前を通り過ぎ、セルティに保護されている自分の身体へと四つん這いで近寄った
しかし、暫く其処から動かず何か思案しているようだった
黙って見ていると臨也は数十秒間の沈黙を破り、意を決したように顔を上げる

「ねえシズちゃん……最後に一言だけいーい?」
「なんだ?」

振り返った臨也は泣きそうな顔をしていて

「臨也は自分が死んでもいいなんて絶対思わないけどさ、でもずっとシズちゃんの為に生きてたいって思うくらいにはシズちゃんを好きなんだよ」

ひどく大人びた笑顔を見せた

「ああ」

そのまま自分の身体に重なるようにして収まった臨也を少しだけ惜しく思ってしまうのは、ソイツの言う「好き」が思った以上に心に突き刺さったからだろうか……


「さて、これ以上はお邪魔だろうし僕達は帰るとするか」
【そうだな】
「え?あ、おい!」

臨也を置いて早々に帰ろうと立ち上がった二人を止めると新羅から呆れた様な声を返された

「心配しなくても臨也はそのうち目醒めると思うよ」

なんかイラっとするな……つーか元はと言えばお前の親父の所為だろうが、最後まで責任とれ

「このまま臨也も連れて帰っていいなら、そうするけど?」
「……」

その勝ち誇った様な笑みが気に食わなかったので軽くデコピンしてやったら
新羅は臨也に覆いかぶさる様にぶっ倒れた


……この野郎


【しっ静雄!!落ち着け!!事故だこれは!!不慮の事故って!ちょ!?新羅ぁぁぁあああ!!!】



♂♀



数十分後、後ろから抱き抱えていた臨也が目を醒ます

「あれ?なんで俺シズちゃんの部屋に?確か新羅の家で森厳さんと……」
「やっと起きたか」
「あ、シズちゃん……」

まだ重そうな目蓋をこすりながら俺を振り返った臨也は、視界の端に引っ繰り返ったテーブルと少し凹んだ壁を見つけたようで……

「なにこの部屋の現状?シズちゃんまた暴れたの?ちょっといい加減近所迷惑とか考えなよ……折角君みたいな化物に住まいを貸してくれてんだから、こんなオンボロアパートでも追い出されたらどうすんの?まぁシズちゃんが土下座してどうしてもって頼むなら俺ん家に住まわせてあげないこともないけどさ……」

起き抜けの癖に饒舌な嫌味をくれやがった
クソムカつくが、でも、

「はぁ……やっぱ今のお前でいいや」
「は???」

素直で俺を好きな手前なんてめんどくせえ
手前はそうやってずっと俺よりも自分を大事にしてろ……そんで妙な勘違いはその内消してやるから気長に待ってろ

そうして俺は怪訝な表情で俺を見詰める臨也の肩に顔を埋めて盛大な溜息を吐いたのだった


こんなんでも一応可愛くないこともないからな……



END
後日、同じ薬を静雄が飲んでしまい
今度は池袋の中心にデリック静雄が出現する事になったりするが
新羅はもう知ったこっちゃなかった