匿名様リクエスト
スミマセンこれが限界の甘々です



一月二十八日、今日は俺の誕生日だ
朝から職場で同僚や先輩後輩からお祝いの品を貰い、社長からも今度奢ってやるなんて声を掛けられた
街をグルグル回っていても知り合いに逢う度に皆笑顔で「おめでとう」と言われる

とても気分がよく、嬉しかった筈なんだが

「おい……静雄大丈夫か?」

臨也の野郎なんで今日に限って来やがらねえ……

「いえ、何でもないっす」
「そうか……ならいいんだが……」

ほらイライラしてトムさんに余計な気ぃ使わせちまってるじゃねえかクソノミ蟲が
畜生なんなんだあの野郎、まさか今日が何の日か忘れちまってんのか?……いやアイツに限ってそれはない
高校時代から毎年毎年なんだかんだ言いながら俺の誕生日だけは休戦して穏やかに過ごして来たし、今年は付き合い始めて初めての誕生日だ
そんな日と無視して(臨也曰く)無駄にロマンチストな俺がキレない筈がないとアイツなら痛いほど解かっているだろう

だから、そろそろ来てもいい頃だ

「シズちゃーん」

ほら来た
声のした方を見ると今や都市伝説と化している邪気のない臨也がコチラにゆっくりと近づいて来ている所だった
流石に彼氏の誕生日に喧嘩売る様な馬鹿じゃないのかナイフは持たず、その代わり腕の中で何かを大事そうに抱えていた

「誕生日おめでとう!シズちゃん!」
「ったく、遅えよ」
「ごめんごめんコレ運ぶのに時間が掛っちゃって」

そう言って少し困った様に笑う声が、何かワクワクしているのを隠しきれていなくて、くそう往来の真ん中だってのに抱き締めたくなる
……ってトムさんがまた気を利かせてマックに居るからとジェスチャーで教えてくれていた!!す、すみません!!なるべく早く済ませます!!

「シズちゃん?聞いてる?」
「え?ああ聞いてるよ……ていうか何だソレ?」

俺は臨也が大事に抱えているもの(多分俺へのプレゼント)を覗き込んだ

「タンポポ?」

の綿毛?

「そう!今日はシズちゃんの誕生日だからね!!特別に綿毛をフーってする権利をあげようかと」

ごめん、突っ込みどころ多過ぎてどうリアクションとっていいのか解からない
とりあえず、臨也は俺を幾つのガキだと思ってるんだ?いや綿毛を見たら思わず吹いてみたくなる性分だけどな

「ほら!受け取ってよ!!早くしないと萎えちゃうから」
「あ、ああ……」

受け取ったタンポポは長時間握られていたのか茎がクタっとなっていた
だから早くしなきゃいけねえのは解かったが

「珍しいな、この時期に綿毛なんて……普通春に咲くもんだろ」
「家の中に入れてたから勘違いしちゃったんでしょ、丁度今日綿毛全開になったからシズちゃんのプレゼントにしようと思ったんだ!!勿論他にプレゼント用意してたけどそれは夜にね?」
「家の中って……育ててたのか?」
「え……?」

瞬間、臨也がバツの悪そうな顔で笑った……それで察する事が出来た
コレは多分、俺達の喧嘩で潰れてしまった花の一つなんだろう

「タンポポってさ、強い花なんだよ……他のは全部ダメだったけどソレだけ無事咲いたんだ」

臨也は昔から俺が暴れて壊した物を可能な限り直そうとしてきた
本人が言うには新しいものを買うのは俺に負けたようで癪だし、そうやって自分が優位に立った気になっていたらしい(それ以外の理由もあるんだろうが俺には教えてくれない)
壊れた筈の物が直っているのを見る度、俺がどんな気持ちになっていたのか臨也が知らないのと同じように俺も臨也がどんなつもりで修理しているのか知らない

「だからコレはシズちゃんの花だと思ったんだ!こないだまでシズちゃんと同じ色してたし!!」

臨也はいつもそうだ
計算尽くで俺を地の底へ落そうとする癖に、計算外の部分で俺を舞い上がらせる
一緒にいて、いつまでも飽きないのはそんな所だろう

「ありがとう」

だから、素直に礼を言ってやる
すると臨也が本当に嬉しそうに笑った
コイツにこんな顔させられるのは世界中に俺だけなんだと少しだけ優越感に浸る

そして綿毛を吹き飛ばそうと口を窄めたその時

「……なにしてんだ手前」
「え?ああ気にしないで続けて」
「気にするってえの!!」

臨也が携帯をコチラへ向けてニヤニヤしていた
この野郎ムービー撮るつもりだったな

「だぁって池袋の喧嘩人形が綿毛をフーってする瞬間だよ!?超レアじゃん!!」
「手前さてはそれネットで配信するつもりだったろう?」
「んな勿体ない事しないって!!コレは俺だけのシズちゃんファイルに大事にとっとくの!!!」
「シズちゃんファイルってなんだーーーー!!!」

コイツは本当に油断も隙もない、今度家宅捜索して俺ファイルとやらを全削除しよう
そんなこと言って実は俺の携帯にも臨也ファイルというものが存在するのだが、まぁそれはいいじゃねえか

「よし、わかった……臨也来い」
「は?」

俺が言うと臨也はキョトンと首を傾げた(可愛いなんて絶対思ってないからな)
手招きしてもなかなか来ないのでグッと俺の方に引き寄せる

「わっ!?なにシズちゃん」
「一緒に吹き飛ばすぞ」
「は?」

臨也が厭そうな顔をしたが仕方ないだろう?俺だって厭だが確実にムービーを撮らせない為にはこうするしかない……多分他の方法もあると思うけど

「知らねえの?タンポポの綿毛を一緒に吹き飛ばしたカップルは末永く幸せになれるんだぜ?」
「え?知らない初耳だよ」

そりゃそうだ、今俺が作ったジンクスなんだからな
でもどうせ俺達は末永く幸せになれるんだから本当だろう?

「まぁいいや……誕生日だし素直に言うこと聞いてやるよ」


そして俺達はせーので二人同時にタンポポへ息を吹きかけた
綿毛が池袋の風に吹かれて空中を舞う

それを見ながらどこか子供の頃に戻った様な感覚がした


こんな誕生日も良いもんだなと思う

「さて、これからどっか行くか?」
「なに言ってんのシズちゃん仕事の途中でしょ?」
「あ……」

そういえばトムさんかなり待たせてる……やべえ

「悪い」
「こっちこそ仕事中に呼びとめて悪かったね」
「臨也……」
「いいから早く行きなよ」


俺を上目遣いで見ながら今度は無邪気とはかけ離れた顔で笑う臨也


「お仕事頑張ったら夜にはご褒美が待ってるから……ね?」
「……」


その後、俺がいつも以上に仕事を張りきって行い
いつもより早く上がったその足で新宿へ向かったのは言うまでもない




【オマケ】

「ゆまっち!!今のしっかりムービーに撮った!?」
「勿論っすよ狩沢さん!!最新鋭高画質カメラでばっちり納めました!!」
「ったくお前ら……」
「ていうかあのカップルは道の真ん中でなにやってんでしょうかね?」

END


スミマセン……リクに全く沿えてない気しかしません……バカップルというかただの馬鹿なカップルです
でもちゃんとお互い好き合ってる二人は書いてて楽しかったです!有難うございました!!
最初は420の日にしようと思ってたんですが季節外れの花ってのがツボだったので誕生日に変更しました