匿名様リクエスト
誠に勝手ながら匿名様リク『黒椿はかえらない』の後編とさせて頂きました。



俺は直感なんか認めない
人間は複雑な生き物なんだ
最初から全て決め付けてしまったら信頼関係なんて結べないし
最初から全て理解してしまってたら人間関係なんて築けないだろ?

でも、アイツの直感はいつも絶対的で揺るぎない
初見で自分を受け入れてくれる人間を選んで、気に入らない人間を切り捨てて……それがいつも正解なんだ

俺はどんなに人を観察して理解した気になったって予想外の行動をとられたりするのに、アイツは碌に見ない内にその人間を理解する

ズルイ奴、そんなの人間の出来る事じゃない
だから俺はアイツを人間だと認めない

今までどれだけ人と関わって間違えて裏切られて痛い目をみてきたかなんて知れないけど
俺はたった一度の対面で相手の価値を決め付けたりしない
少しも関わらない内から切り捨てたりしない
人間が、その醜悪さも含めて好きだから
何をされたって全部を受け入れてやる

そう、後悔なんかしないんだ
利用されたのは必要だった証だから
裏切られたのは信用した証だから
傷付けたのは人間を知ろうとした結果だから
俺はアイツより人らしいと思えるから


『ねえ?君には特別だと思える人がいる?』

そう呟いたのは半ば意地悪だった
アイツへではなく全人類に問い掛けたのは
けしてアイツに勝てない事が悔しいわけじゃくて……
けして一番最初に拒絶されたのが悲しいからじゃなくて……

アイツがけして俺の名前を答えないと知ってるから



「臨也!!」


なのにお前は何しに来たんだよ

今更過ぎるんだよ


「臨也!俺の話を聞け!!!」

それをお前が言うか?俺の言葉ずっとマトモに聞いてこなかったくせに
俺の気持ち知ってて気付かない振りしてたくせに
人を愛せない化物のくせに

「なんだよ静雄」


なあ、なんでそんな傷付いた顔するんだ?


「いつもみたいに呼べよ……臨也」

そんな顔するから仕方がなく彼を部屋へ入れてやった

「用が済んだらとっとと帰ってよね、シズちゃん」

大人しく後ろを付いてくる彼にそう言う、大人しい彼も変だけど、こんな距離で彼に背中を晒せる俺も普通じゃない
まさか彼が家に来るなんて思っていなかったから少し混乱しているのかもしれない

「俺の居場所誰に聞いたの?」
「クルリとマイルが教えてくれた」
「やっぱり」

あの二人に教えたのは波江さんか、減給してやりたいけど怒ったら怖いからなあ

「んで?なんの用?」

応接室の真ん中に立ってまだ入り口付近にいる彼に振り向いた
これ俺の以上テリトリーに入る事は許さないというように冷たい態度を心がけて
でもソレをあっさり無視してしまうのが彼、勝手にソファーに座って俺に隣に来るように促す
俺はせめてもの抵抗で向かい側のソファーに座って足を高く組んだ

「で?なんの用だ?」

俺は彼を睨みつける
彼も俺を睨みつけながら言った

「手前、池袋に戻ってこいよ」
「ハッ!なにふざけたこと言ってんの?そもそも俺のホームは何年も前から新宿に移ってるし」

彼が俺に逢いに来る理由があるとしたら、それしかないなって思ってた
おおかた俺の信者から泣き付かれて俺に池袋に戻るように言ってるんだろう……
それか新羅に頼まれたのかもしれないし狩沢と遊馬崎の口車にのったかも知れない

そこに彼の意志はなくて、ただ彼は自分の周りの人間の為に来た
自分を孤独から救ってくれた人達(始めから受け容れられた存在)に

「ヤダよ、シズちゃんはまた俺にあんな惨めな日常に戻れって言うの?」
「惨めって……」
「俺はまた人間達に囲まれたシズちゃんをずっと遠くから見てなきゃいけないの?」

どうせ気持ちはバレているんだから恥ずかしがる必要はない
これはもはや嫌がらせだ

この際、俺の気持ち全部吐露して思いっきり気持ち悪いって思わせて
もう二度と俺の顔を見たくなくならせればいい

「他の人と楽しそうに話してるシズちゃんを見て、嫉妬しなきゃいけないの?喧嘩になるだけだって解かってて、それでも逢いに行かなきゃいけないの?俺のことを心底嫌いなシズちゃんに……ずっと片想いしてなきゃいけないの?」

そう言いきって彼から顔を逸らす……嫌がらせのつもりで言ったけど全部嘘じゃない
全部俺にとって辛すぎる現実、そんな日常に耐えきれなくて……俺はあの街から逃げだした

「解かった」
「……そう、じゃあもう帰っ……」
「なるべく他の奴と話さないようにする、怒りだって抑える、喧嘩しないように……手前との関係を改める努力をする」

……なに言ってんだ?

「手前が戻ってくるなら何だってしてやるよ、臨也」

気付いたらシズちゃんは俺の目の前に立っていて、俺の肩を強く掴んだ

「だから手前も俺から逃げんな」
「はぁ?なに言ってんの?そんなのシズちゃんには無理に決まってんじゃん!ていうかなんで俺を連れ戻す為にそんな必死になってんの?」

意味分かんない、何言ってんの?なんでそんな顔して俺を見てんだよ
俺は知らない……そんな縋るような瞳のシズちゃんを知らない、知ってるけど俺に向けられた事はないから

「好きだ」

真っ直ぐな声がドカンと胸に響いた

「嘘……」
「こんな嘘吐くかよ」
「ほんと意味わかんないよ……なんで今更」

俺のこと最初に切り捨てたくせに

「今更そんなこと言ってももう遅いよ?俺はもうシズちゃんのことなんか何とも想ってない」

だから今度は俺から棄ててやる、人間に退化してしまったシズちゃんなんか必要ない
俺が好きなのは一人ぼっちで誰の事も特別に思えない、愛を知らない化物だ

「嘘吐け、手前さっきずっと俺に片想い続けるって言ったじゃねえか」
「片想いならね……出来るよ?両想いよりずっと楽だから」

俺のこと本当は好きじゃないシズちゃんは、どうせ俺の言ってる意味も解かんないだろう
って思ってたのに

「ああ、そうだ。俺達が両想いになればきっと辛い……でも、それでも」

シズちゃんの顔が近付いて俺の額に自分の額を当てる
そして祈るみたいに俺の手を握って、懇願するようにその長い睫毛を伏せた

「二人で居ればきっと大丈夫だ……だから俺の傍にいてくれ、臨也」

その棘みたいな想いが、俺の心臓に突き刺さって硝子のように亀裂が走った
ずるい、コイツ本当にずるい

「どうせ俺の答えなんて直感でわかってしまってるんだろう?」
「いや、お前のことに関しては全然わかんねえよ」

それはそれで鈍感っていうんだよ、シズちゃん

「仕方ないなあ、そこまで言うなら傍にいてあげるよ」
「なんだえらく上から目線だなぁ臨也くんよぉ……」

怒らせるつもりは全然無かったのにシズちゃんの額に青筋が浮かんだ
相変わらず沸点低いなぁなにもこんな時にキレなくても……
でもまあ、そんなとこがシズちゃんらしいなって思って逆に和んじゃうよ

「ねえシズちゃん」
「ああ!?」
「好きだよ、バカ」
「……俺だって好きだ、アホ」

それはそれは甘い雰囲気には程遠い告白だったけど

「フッ……」
「フン……」

睨み合っていた顔が少しだけ穏やかになった
まだまだ仲良しとは言えないけど俺達はまだこれくらいが丁度いいのかもしれない

人間っていうのはゆっくり成長していく生き物だから







「シズちゃんはいつも俺の予想を裏切るよね」

「手前だって俺の直感を覆したじゃねえか」




おわり


すみませんお二人のリクを勝手に組み合わせた上にリクエストに沿えた気が全くしないんですが…よろしかったら受け取ってください