キミニイウノ
匿名様リクエストです。誠に勝手ながら匿名様リク【会えばすべて好きに変わる】の前編とさせて頂きます。




『シズちゃんはいつも酷いんだよね』


一月二十八日、今日はたしか高校時代からの友人静雄の誕生日だったと後部座席の二人が話していたのを聞いた(何故コイツらが知っているのかは置いておいて)
最近心身のコントロールも出来るようになり日頃の行いもいいアイツを祝福してか空は久しぶりの晴天に恵まれていた
そんな日に霹靂のように現れたのは静雄の恋人、臨也だった

「ドーターチーンー」

俺の顔を見た途端、胸の中に飛び込んできた臨也、ああコレは静雄となにかあったのだろう
こうなってしまっては離すのは不可能だと思い俺は臨也をひっつかせたまま後部座席へと移動した
「なになに?なにが始まるの?」と顔に書いてある狩沢と遊馬崎は更に後ろにずれて貰ったが

「ドタチン!聞いて聞いて!!シズちゃんってば酷いんだよ!!」

顔を上げた臨也はこの世のすべての怒りを背負ったような顔をしていた(泣いていればまだ可愛げあるのに)心なしか血管浮かんでるぞ?
しかしこんな風に感情をむき出しにさせて怒るのは珍しい、いつもはポーカーフェイスで隠してあるのに……よっぽど怒りを買う事をしたんだろう静雄……気の毒なことだ

「で?いったい何があったんだ?」

仕方ないので聞いてやると臨也は漸く俺から離れて語り出した

「……話は一週間前にさかのぼります……」

どうしてナレーター口調なんだと疑問に思わなくもないがコイツの言う事にいちいち突っ込んでいたら何時まで経っても解放されない
俺達は黙って臨也の話を聞く事にした(狩沢と遊馬崎は随分と楽しそうだ)

「俺さシズちゃんに聞いたわけ「誕生日プレゼントなにがいい?」って、あ、今日シズちゃんの誕生日なの知ってた?そんな情報別に覚えてなくていいけど今だけソレを念頭にいれててよ、それでシズちゃんは「お前が一日携帯の電源切っておくだけでいい」だって!かわいくない?いつも二人きりの時タイミング良く、いや悪くかな?俺の電話が鳴るもんだから……シズちゃん俺の仕事には理解してくれてるから何も文句言ってこなかったけど内心イヤだったんだろうね、そんなかわいいシズちゃんのお願い聞かないわけにはいかないから俺も承諾して、今日絶対電話掛かって来ないように死にもの狂いで頑張ったさ」

頑張った、とは今日一日が完全オフになるようにだろうか?
それはスゲエな、高校卒業以来コイツが趣味兼副業を休んだところなんて見たことも聞いたこともない

「それでも不測の事態が起こらないとは限らないから波江さんに頭下げてここ何日かだけ情報屋の全権限を彼女に任してあるよ……お陰で朝から晩までコキ使われて、それでもシズちゃんのためだからって頑張ったよ!たとえ彼が今まで俺の誕生日になにもしてくれていなかったとしても、まぁ付き合いだしたのが去年の俺の誕生日からだからソレが一番のプレゼントだとは思うけど、俺は出会った年からシズちゃんの誕生日には“何もちょっかいかけない”とか“シズちゃんの視界に入らない”っていうプレゼントをあげてたのにさ!?」

それは果たしてプレゼントと言えるのだろうか……と疑問に思ってる間も臨也は喋り続ける

「だから今年は俺にとって記念すべき初めて一緒に過ごせるシズちゃんの誕生日だったわけ!しかも二人は恋人同士だ!甘い展開を期待しない筈ないじゃない、今日ぐらいは素直にデレてあげようと思ってたし普段は恥ずかしくて出来ない様な彼氏サービスを今日だけ特別にしてあげようって思ってたんだ!!……なのに、なのにアイツは昨日になって急に「悪ぃ、明日職場で俺の為にパーティ開いてくれるって言うからよ……」とかうっれしそうな声で言ってさぁ!ドタキャンしてきたわけ!?解かる?ドタチンじゃなくてドタキャンだよ!!土壇場でキャンセル!!」

……と、長い台詞をほぼノンブレスで言いきった臨也に少しだけ感嘆しながら、あー確かにそれは怒るのも無理はないと思った

「なんだよアイツそんなに職場仲間が大事なわけ?最近出来た後輩のロシアっ娘が可愛いの?それならウチの正臣くんと沙樹の方が可愛いっての!!」
「怒るとこ間違ってないか?ていうか何時の間にアイツらを自分の後輩ポジションにしてんだよ」

再び俺に抱きつきながら(これで般若の形相でなければまだマシなのに)愚痴を零す臨也の頭をポンポン撫でながら、俺は途方に暮れていた……静雄のお人よしっぷりにだ
パーティー主催者……恐らく社長に気を使ったんだろう、確か田中さんとロシア人の娘さんは二人の関係を知っているもんな
アイツあれで臨也にベタ惚れだから本当は臨也と一緒に過ごしたかったに違いないのに、静雄に関する事にはネガティブで鈍い臨也にだけ気付かれない

「そんなわけで皆、今日は俺とデートして」
「どんなわけだよ」
「だってシズちゃんが楽しくパーティしてんのに俺は一日ぼっちで過ごすとか癪だろ?大丈夫!交通費とかは俺が出すし紳士的にエスコートしてあげるから」
「出すのは交通費だけか?」
「俺が全部奢ったら君達をお金で釣ったみたいで惨めじゃん!シズちゃんはタダで御馳走食べたりプレゼントもらってるのに!!他の日ならいいけど今日だけは絶対イヤだ」
「はいはい、つまりは静雄への当て付けなんだろ?俺は別に構わないがお前らはどうだ?」

まぁ狩沢と遊馬崎は聞くまでもないが渡草は……

「別にいいですけど」

そうだよな……恋愛関連で臨也が俺に泣きつくのはいつものことだから、毎回それに付き合わされてるコイツ等はもう慣れちまってんだよな

「よし決定!……あーよかった、このワゴン見つけられて」
「別に俺達を見つけるのくらいお前なら簡単だろ?なにをそんなホッとしてんだ?」
「だって家を出てからノー情報だったんだもん、今日一日携帯使えないし、携帯が駄目なら他の機器使うのも駄目ってことだろうなって思って……」
「は?お前マジで携帯切ってんのか?」
「え?だってシズちゃんとの約束だったし、電源入れてるとシズちゃんから連絡くるかもって期待しちゃうだろ?そんなこと絶対あり得ないのに」

いやいやいやいや、ありえるだろ!?っていうか絶対連絡くるだろ!?コイツはアホか!!?

「プレゼント渡せないから、せめて約束くらいは守ってやろうかなってね、わー俺チョー優しい」

超アホの間違いじゃないだろうか……
とにかくこのままでは静雄が可哀想なので俺から後で連絡いれてやろう

「言っとくけどドタチン」

すると臨也の眼光が更に鋭くなり、口元だけ笑みを浮かべながら言った

「このことをシズちゃんにバラしたりしたら、俺もあーんな事やこーんな事をバラすからね?渡草さんの」
「なんで俺!?」

今まで呆れながらも事が過ぎるのを大人しく待っていた渡草が頭をぐるっと後部座席へ向けてツッコミを入れる

「俺はシズちゃんや九瑠璃や舞流は売ったとしてもドタチンや幽くんは売らないよ」

いや臨也、友人や義理の弟より恋人や実妹を大事にしてくれ……少しホッとしたがな

「ホラ、渡草さんも恥ずかしいことバラされたくなかったら急いでこの場所に行って」

臨也がそう言いながら渡草にメモ書きを渡し、渡草も渋々それを受け取る

「埼玉?ここって確か六条の……」
「そう!六条くんの街だよ?この事話したら“誕生日に恋人をほっとくなんて男として最低だ!臨也さん協力してやるから埼玉まで来いよ!”だって、いやぁ流石だねぇあれは女の子にモテるのも頷けるよ」
「その恋人も男だけどな……」
「いいのよイザイザは可愛いから!」
「そうですよ!それに自分の誕生日に休みなのに恋人放置はいくら相手が臨也さんでも酷いです」
「確かに」

そうなんだが……何故この二人はいつも臨也の我儘に対してノリ気なんだ?前回同じような事が起きた時も確かこんな感じだった
だいたい静雄も学習能力ないよな……自分が臨也をほっておけば周りにどれだけ迷惑かけるか、そろそろ自覚していい頃だ
元々他人に対して横暴な奴だが、静雄が絡むとそれとは質の違う横暴さがプラスされ、もうどうしようもないレベルまで達してしまう
ただ動機が動機だから許せてしまうだけで今回だってかなり我儘なこと言っていると思うんだが

「お弁当も沢山持ってきたから食事の心配もしなくていいよ?本当はシズちゃんに食べさせようと思って下拵えしてたんだけどさ……」
「くぅ〜!イザイザ健気だねぇ!!」

心なしか服も、男物なんだが何時もより可愛らしい、着ているのが臨也でなければもっと可愛いだろうに……せめてその凶悪な顔を止めれば似合うだろうに勿体無い

「なに?ドタチン人のことジロジロ見て……あ、服?そうだよ、シズちゃんの誕生日だからわざわざ用意したんだ……それなのに……」
「臨也……」
「そうだ六条くんに会ったら新しい服選んで貰おう!俺そういうの全然分かんないけどシズちゃん好みの清楚なお姉さん系、それ着て皆とデートしてやる!」

まさか女装する気か!?静雄への当て付けの為にそこまで(しかも静雄見てないのに)……って狩沢の方から凄くキラキラ輝いてるオーラを感じる
つーかやっぱ俺達を巻き添えにするんだな、まぁコイツの女装なら一緒に歩いてても違和感ねえだろうし知らない街だからいいが……ああ臨也が静雄と付き合いだしてから俺ますます甘くなってる気がする
でも人間探求者な癖に女物に疎いとは意外だな……まぁ臨也の周りの女といえば中高生やビジネス美女で清楚なお姉さん系の服なんかプレゼントした事ないだろう

と、俺達がそんなやり取りをしている間に車は動きだし、埼玉へ続く道を走っていた
そして、漸く臨也の顔からも怒りが引いたのだった



「おーっす!門田!!久しぶりー」
「おお」

千景と逢うのは本当に久しぶりだった
再会の理由が臨也の腹癒せでなければ嬉しいと思うところだ

「今日は静雄のバカをとっちめる為に、おススメのデートスポットを案内してやるよ」
「おー!!」

どちらかというと臨也のアホをとっちめてほしいんだが

「折角、埼玉に来たなら聖地巡りとかもしたいっすねー狩沢さん」
「そだねーでも今日はろっちーがエスコートしてくれるらしいし、カメラとか何も持ってきてないしね」

そういえば臨也「俺が紳士的にエスコートしてあげる」とか言ってなかったか?

「とりあえず六条くん!俺服が買いたいからショッピングに連れてってよ!!」
「おう!任せとけ!!」
「ゆまっち!!ショッピングだって!!!ろっちーお洒落さんだし良い店知ってそうだね!!」
「おーそれは楽しみっすね!!」

……もうこのテンションについていける気がしない
恐らく渡草もそうなのだろう……ハンドルに頭を預けて大きな溜息を吐いていた

それから、臨也のご所望通り買い物へ出掛け、静雄好みの清楚なお姉さん系の服……を本当に買いやがった
まぁスカートではなかったし清楚というよりシンプルで清潔感のあるって感じで、臨也が着ても違和感は全くなかった
というか眉目秀麗な情報屋で名が通ってるだけあって何着か試着したがどれも凄く似合っていた



流石デート慣れしている千景、コイツのプランは当初全く気乗りしていなかった渡草も楽しいと思えるものだったらしい、俺は臨也の我儘に付き合って疲れたが他の連中はとても満足しているように見えた
そして時間はあっという間に過ぎ、そろそろ夕食にしようかという話になった時、臨也が思い出したように豪華な弁当(静雄に食わせる筈だったんだから当然か)を取りだした
そして外で食べるのは寒いのでカラオケで食べる事になったのだ(持ち込みオーケーな店だ)

臨也の料理は相変わらず上手かった
高校時代、静雄への嫌がらせの一環として静雄の大好物のものを作っては俺に食わせたり
そうと思えば静雄が嫌いなものを大量に作り女子生徒に渡させたりしていた(静雄が女子に弱いのを知っていてだ)
まぁそんな嫌がらせ、臨也の作るものなら(臨也が作ったと知らなくても)不思議と嫌いなものでも美味いと感じてしまう静雄にはあまり効果はなかったが

思えばあの頃から両想いだったんだよなぁコイツ等、八年間いったい何やってたんだろう

「あ、次イザイザの番だよー」

狩沢が歌い終わり臨也にマイクを渡す
臨也は歌も上手いのに、静雄は知っているんだろうか?外であまりデートをしないと言っていたからカラオケにも来たことないのかもしれない

イントロが始まった時、隣にいた千景が俺の方へ詰め寄って来た

「どうした?」
「いや、もったいねえなって思って」
「あ?」
「新宿の折原臨也といったら悪い噂しか聞かねえし、実際どうしようもねえ男だと思うけどよ……静雄が絡むと面白いし楽しい奴じゃん」

そうだな、と頷く、俺達がこうやって臨也の我儘を聞いてしまうのはそのせいかもしれない

『僕らは離ればなれ、たまに会っても話題がない〜』

臨也が歌い出した……あーなんていうか良い曲だし今の臨也の心情には合っていると思うが……
そんな泣きそうなテンションで歌う曲でもないだろうと思う

「そんな奴を自分の誕生日にほっておくなんて、静雄は本気でバカだ」

そうかも知れない、臨也は涙目だし泣声でもうマトモに歌なんて歌えていない、ったく静雄は本当にバカだ
でも……コイツが嘘泣き以外で泣けるようになったのはアイツのお陰なんだけどな

『バカヤローーー!!シズちゃんなんか大ッッッ好きだーーーーーーーー!!!』

五月蠅い!!!マイク越しでイキナリ叫ぶもんだから部屋全体にキーンという音が響いた

「いいぞイザイザー!もっと言ってやれー!」

おいコラ煽るな狩沢、あ、機材の隣にいた遊馬崎がマイクの音量を下げた、良いぞ

『シズちゃんなんか老衰で逝ってしまえーーーー!!!』

それでも五月蠅いことには変わりないけどな

『なんでいっつもいっつも一緒にいてくんないんだよーーー!!!』
「おおー!!」
「ヒューヒュー臨也さん!!」

だからお前ら煽るなと……

『ッ!!愛してるよ!!誕生日おめでとーーーーーーーーーーーーーーーー!!!』
「キャー!!イザデレきたーー!!」
「でもそういう事は直接言ってやってください」

「そうだ、このクソノミ蟲」


え?
……今、なんかこの場にいちゃいけない奴の声が聞こえたような

「……え」
「あ……」

今まで盛り上がっていた臨也・狩沢・遊馬崎が俺の後方を見たまま固まっている
まさかと思い振り返ると、そこに立っていたのは


「……おい、手前らこれはいったいどういう事だ?」



朝の臨也と比べものにならないくらい鬼の形相をした静雄だった



つづく