渡し賃には程遠い!







通常業務を無事終えた僕は今度は上司の上司から与えられた仕事をこなし始めた
日は既に落ちてしまっているがまぁ明日は休みだし少しくらい遅くなっても構わないか
それに自分が有能であることで根底をいっている大王の評価が少しでも上がると思えばコレくらいの残業は苦にもならないのだ、僕は

だがしかし(一応)仏属性の癖に独占欲の塊で尚且つ構ってちゃんな上司はそうもいかなかった

「ひま暇、ねーヒマ、鬼男くん暇!暇すぎて死にそう!!」
「うっせぇ!暇なら自分の仕事してろ!!」
「仕事なら鬼男くん待ってる間にちゃーんと終わらせましたぁー……ねぇ好い加減オレにも手伝わせてよ?」
「駄目ですコレは僕が個人的に頼まれた仕事なんですから大王は口出ししないでください」
「むぅ……なぁんでかなぁ?いや、いくら鬼男くんが優秀だからってさぁ、普通直属のオレを通さず仕事頼む?あのお方は……」

なんだってこの人はこう面倒くさいんだろ
名前を呼ぶのも憚られる方から自分の部下が目に掛けられてるなんて光栄な事じゃないか

「鬼男くんはオレの(部下)なのにー……」
「そりゃアンタが自分の立場弁えずに僕とイチャつく時間減るとか言って断るからでしょ」
「実際減ってんじゃん!今日はこのあと鬼男くんとデートするって一週間前から決めてたのに!」
「はいはい、明日一日付き合ってあげますから今日はもうお帰り下さい」
「むぅー」
「そんな顔しても可愛くないですよ、僕以外に」
「……鬼男くん」

大王がこんなだから『公私混同してイチャついてる』とか言われるんだよな……やめる気ないけど

「わかった、その代わり明日は朝からデートだよ!」
「了解」

と、上司のご機嫌が少し良くなった所で地獄のトラベルメイカーとも言えるバカコンビが乱入して来た

「大変だ閻魔!!」
「……邪魔するぞ」

執務室の壁を爆破して勢いよく入ってきたのはデイダラ……修理代は後で角都さんに請求しよう
その後からサソリさんが何時ものように落ち着いて入ってきた
ただ何時もと違うのは人間を俵抱きにしている事

「……サソリさん……なんすか?その人」
「三途の川で釣りをしてたんだが、縄を引きあげたらコイツが掛かってたんだ」
「三途の川で勝手に釣りをするな、しかも投網か」
「駄目じゃない、ちゃんと申請しないと」
「いや、申請出来ませんから!だいたい魚なんていないだろう」
「……それはそうと……その子……」

サソリさんがベチャっと床に落とした人間を大王がまじまじと見詰める(もう少し丁寧に扱ったれよ)かなり整った顔の、まだ若い子だ

「……明日の死者リストには入ってないね、まだ死ぬ筈じゃなかったのに来ちゃったのかな」
「あー……仮死者ですか」
「普通だったらすぐ此岸に帰れる筈なんだけど……ひょっとして三途の川で溺れちゃった?」

あんな緩やかで浅い川に溺れるって……どんだけカナヅチなんだ

「まぁ此処で死ぬことはないので放っておけばその内目が覚めるでしょう」
「その前に……とりあえず……着替えさせようか?部屋濡れちゃうし」
「ですね、でも服は?」

細身だけど背はかなり高い、大王の服が入るかどうか……

「セーラー服ならあるよ?……ってゴメンナサイ!爪しまって!!」
「ったく、ふざけないで下さいよ変態イカが」
「せめて大王付けてよ……そうだ、確か部屋に篁の服が残ってた筈……」

千年以上前に居なくなった人の服を何故とってあるのか、しかも自室に……そうツッコミたいのは山々だが

「なぁ閻魔この服オイラが着ていいかい?」

より全力でツッコミを入れるべき相手が他にいた
さっき変態イカが出したセーラー服を持って瞳をキラキラさせているデイダラ……セーラーがない世界の人だし多分女の子が着るものって感覚ないんだろうけど

「なぁ旦那はそっちの赤い方着て……」
「なんでだよ」
「オイラ旦那と一回お揃いしてみたかったんだよなぁ」

いや、今着てるのもお揃いだから

「いいよ、いいよ、デイちゃんは青いスカートに黄色のリボンね!靴下は紺のニーハイで髪には白いシュシュ付けて〜」
「嬉々としてコーディネートを始めるな変態!!」
「なにさー鬼男くん君仕事あるんだろー?ほっといてくれないー?」

邪魔するなって目でみるな!そんなにセーラー着て貰いたいのか!!

「デイちゃん達がダメならやっぱこの子に……」
「寝てる奴に勝手に女装させてんじゃねぇ!犯罪だぞ!?」
「うん?女装……?」
「おい……どういう事だ?」
「セーラーは女装じゃないよ!元々イギリス海軍の制服!!」
「お前が持ってんのは日本の女子学生の制服だろうがぁぁぁあ!!」

その後の数分間、俺とサソリさんにボコボコにされた大王はやっとセーラーを諦めた

「それでもオイラちょっと着てみたかったなぁ」

ボソッとでも言うな、サソリさんに聞かれたら大変だぞ
ていうかデイダラ、アンタ大王と同じ趣味か

「すみません、お邪魔します」
「はい?」

突然ハキハキした女の子の声がしたので振り返ると、セーラー服を着た多分高校生くらいの美人がさっきデイダラが開けた穴から出てきた

「それ、連れ帰りに来ました」

スタスタと歩いて来たその子は気絶したままの男の子を抱えて「お世話をかけました」と頭を下げた
それよりも……え?この感じ死者でも仮死者でもない……生きた人間?

「……君、どうやって来たの?」

流石に不審に思ったらしい大王が訊くと、その子は困ったように笑って

「知り合いにこういうの得意な人がいるんです」

と、多くは語らなかった(多分口止めされてんだろうな)

「じゃあ、失礼します」

もう一度頭を下げるとその子は元来た道を帰って行った
人ひとり抱えているのに全く重さを感じさせない足取りで

それを呆然と見送る男四人


「……なんか、疲れちゃった……帰って寝よう」
「そうして下さい。僕はまだ仕事ありますから」
「俺らも帰るぞ」
「うん……」


本当、今日は何だったんだろう



おしまい