拝啓
現世のみなさま。

諸々の挨拶はすっ飛ばしまして、一つお伺いしたい。

現世には「鬼ごろし」というお酒があると聞きます。

まあ、現物は僕の前にあるのだけども。
「酒名、粗悪なる酒をいふ、又おによけともいふ」

パッケージにはこの閻魔王庁にはいないような、そんな鬼が酔っ払っている絵。

よけられると思ってんだろうか?
それは、甘い考えだから、どうぞ捨てた方がいい。
僕ら鬼は豆も酒もへっちゃらだ。大豆はボソボソするからイマイチだけども枝豆は結構好きだ。
だから、無意味である。

ちなみに鬼の総大将ともなると、酒はピンキリになんでも美味しく飲めるそうだ。

鬼ごろし結構
濁酒結構
カストリも許せる酒豪である。

なにせ自分の名前がついた酒まであるくらいだ、相当な酒好きで、笊でわっか。

ちなみに閻魔王庁の共同風呂では日本酒がついてきたりします。
気付けの意味もあるけども、頭目の趣味であるから。

甘党のクセに、この酒好きぶりが矛盾してるのかどうなのか僕には預かり知らぬところであるが、まあ勝手に飲んで、楽しそうにしてるので結構ご相伴に預かったりしていた。


が、驚くなかれ、みなさま。

現在、閻魔大王は思いっきり酔っている。

「いやあん、鬼男君たら、ムッツリしちゃってえ。
 ほらほらもっと飲みんしゃい!お酒はおいしーのでありますぅ」

普段青白くて冷たい肌は、アルコォルに火照り桃色。
僕の首に抱きつく腕はかなり熱を帯びている。

流石、神酒。
恐るべし。

黄金の杯に酌まれた酒は甘い匂いがして美味しそうな気はするのだけど、それは僕にとってはヤバいのだ。

「僕はそれ飲めませんよ」

「あ、そっか?
 あのバカがうっさいもんねえ。
 にゃははザンネーン美味しいのにぃ」

またグビグビとそれを呷る。

「あんたも!もう飲んじゃダメですって!明日絶対二日酔いになりますよっ!」

「へっいっき!だもーん」

両腕を広げて、にへらにへらと笑った。

暑がって上着を脱いでだものだから、桃色になった細い腕やら、鎖骨部分がやけに目に付く。

いつもなら絶対放っておく。
大王が二日酔いになることなどないから。

けれども今回はわからない。
何せ、現世の酒でも、ここ、中有の酒でもないからだ。


見事な細工の黄金杯と同じく、それは天国のものである。

酒も杯も、何が楽しいのか、きゃあきゃあ喜んでいる上司の祖父にあたる神々が造ったものである。

杯は、大王の母方の祖父にあたる神が贈ったものだそうだ。

創造神が造ったその杯には名前が刻まれており、持ち主が使うことしか認めないらしい。

酒はソーマ。
本当に偶々、今日、上司の元に届いたものである。

こちらは父方の祖父が毎年毎年届けてくれるらしい。

それを聞いて、神様ってのは随分と庶民的だと思ったものだ。

田舎のお祖父ちゃんが孫に米を送ってくるようなものである。

「米なら使いようもあるけども」

贈り主困らせてどうするよ、お祖父ちゃん。

飲みたい飲みたいと騒ぐから与えちゃった僕にも責任はあるかもしれないけれども。

会ったこともない神様に僕は滔々と説教してやりたくなった。


職場に送りつけんなっ!


このゴーイングマイウェイ主義はお前からの隔世遺伝かこの野郎!

「鬼男くーん、なんか自問自答してなーい?」

相変わらず離れたがらず、僕の膝の上に陣取っている大王がぺちぺちと僕の頬を叩いた。

なんだこのゼロメートル間隔は!

普段の僕と大王の位置は、そういう雰囲気にでもない限り対面か、隣。
どちらかが手を伸ばせば触れる、という程度である。


なんだこの異常なまでの近距離は。
動物が懐くみたいに僕の胸にすり寄ってくるアホ上司。

本当に恐ろしい酒だ!

なんだこのピンクオーラは。

「大王、」

「なあに?」

「お酒はもう止めにしませんか」

その桃色に染まった首筋に手を這わせ、その滑らかな感触を味わう。

尖った顎を支えると、上司は首を傾げた。

「うん?
 あ、鬼男君、おねむさんなんだあ」

反応が読めません!

ええ?
いつもなら、すぐ察してくれるのに。

なんだこの鈍感加減は、あんたどこぞのジャージ摂政かこの野郎!

こちとら、さっきからお預け状態だっての!

……………、

「ふぅ」

「?」

不思議そうに僕を見やると首を傾げた。


いつもより動作が一々子供っぽい。
中身だけがお子さまである。

「おつかれ?」

「……おつかれかもしれません」

よしよしと、頭を撫でられた。
と、いうか頭に抱きついているみたいに見えるだろう。

どこぞのちびっ子か、あんたは。

なんだかごそごそと、僕の額を露出させたかと思う。

「鬼男君ー元気になあれ」

額に小さくキスを一つ。


そうしてまたきゃあきゃあ言いながら、僕の首に抱きつく。

狙ってるのか、これは?

窺ってみても大王はやっぱりゴキゲンで笑いながらきゃあきゃあ言ってるんだけ。

そこに打算はないのだろう。
いつものそれとはまるっきり違うし。

「大王ー」

「なあに?」

ぽけっとした顔で僕を見る。
アニメ的にほっぺが赤い。

「元気出たんで付き合いなさい」

もう、どうとでもなれ?






「で、平気?」

「……なんであんたは元気なんでしょう?」

この流れできたら、二日酔いでグッタリしているのは、セオリー通りに大王じゃないですかみなさん?

実際逆です、この現状。

「だって、オレはソーマ飲んでたもん。
 あれってほら神様にとっては、疲労回復とか、その他諸々の効果あるんだな、これが!」

お肌ツルツル、とゴキゲンな大王は続けた。
確かに、いつもよりもツルツルしている。

鬼である僕は、間接的に摂取しただけでこの有様である。

「あ、ソーマは飲めないだろうけど、ジュース作ったから飲みなよ?
 オレはお仕事行ってくるから、「大人しくしてて」くださいね」

最後がモロにかぶった。

大王が頬を含ませて、オレの台詞とんなよとボヤく。

言わせてもらえばそれはいつもの僕の台詞である。

「楽になったらすぐ行きますから、本当に大人しくしててくださいね」

「はいはい、わかりましたー、いってまいりまーす」

……なんか、酔ってたのも酔わされたのも僕の方らしい。
























どうですか?凄いでしょう!(何故お前が偉そうなんだ)
はぁ〜なんか酔っ払いって良いですね
可愛いよぉ、文章も素敵だよぉ…もうめっちゃ大好きです
鬼男さん本気で羨ましいです