ある日の天国巡回の時間のこと、僕は見た。
僕の上司であり恋人である閻魔大王が、最近天国へやってきた聖徳太子とかいう奴と濃厚な接吻をかましてやがる瞬間を。
米神から目下にかけて青筋が立ち、手に持っていた巡回帳簿はひび割れたが、僕の知ったことじゃない。

更に二人はあろうことは接吻の身では飽き足らず、野外での性交渉に持ち込み出した。
僕はそれを止めようとはしなかったが、僕と同じように二人の行為を隠れ見ていたらしい聖徳太子の恋人、小野妹子が力づくで止めに入った。
そして、聖徳太子の首根っこを引っ掴み、ずるずると引きずって行った。
叫び声をあげる聖徳太子に同情はしない。
自業自得だから。

そして、聖徳太子だけでなく大王にも―――…
同じ目に遭って貰うから。





≪秘書の御仕置≫





にっこりと満面の笑みを浮かべながら大王に近付いていけば、大王は竦み上がった。
元から色の白い顔が、更に真っ青になる。
その光景が愉快で滑稽で堪らなくて、喉を鳴らして笑ってみた。
大王が更に怯えた表情をした。

ああコイツは何を怯えてやがる。
元を正せば自業自得だろう。
悪いことをしたら御仕置が待っている、なんて当然のことじゃないか。


「大王?」

「ご!ごめんなさい鬼男くん…!」


咄嗟に大王が謝罪の言葉を述べて頭を下げるが、その程度では僕の怒りは収まらない。
つかつかと大王に近付いていき、小野が聖徳太子にしたのと同じように首根っこを引っ掴んでみた。
勢いをつけすぎて首が絞まったようで、大王が変な声を上げた。
構うもんか。

もう片方の手で大王の顎を掴み、強引に目を合わさせる。
その瞳に恐怖と驚愕の色がはらんでいることに気付き、満足感に浸る。
―――泣かせてぇなあ。

ぐっと顔を近づけて、綺麗な笑顔を作ってやった。


「ごめんで済んだら鬼はいねーんだよバーカ」


テメェの存在意義も失せるじゃねぇか。
なあ?閻魔大王。

大王が泣きそうな顔をした。
―――悪いが、この程度じゃ収まらないらしい。
腹の中でドス黒いものが暴れまわって、苛々して仕方がない。

僕自身、結構温厚な方だと思ってたんだけどなあ。
普段のアレはツッコミであってキレてるわけじゃないし。
閻魔大王にこんな態度を取れば消滅させられても可笑しくないんだが、止まらない。
でも大王も僕の暴走を止めはしない。
大王が本気になれば僕程度、軽いものだということは解っているけれど、そうしないのは大王が非を認めているからだ。


「なんでアイツなんだよ」

「…太子は友達だよ」

「はあ?友達同士がディープキスしたあとにその先に持ってこうとすんのかよ」


顎を掴んでいる手に力が籠る。
ああ、まずい。
骨砕きそうだ。
まあ、大王のことだからすぐに修復するんだろうけれど。

大王は痛みに顔を歪めながら、僕の目をじっと見つめた。
そして、猫のように目を細めてニィと笑う。


「嬉しいなあ、鬼男くんヤキモチ焼いてくれるんだ」

「はぐらかすんじゃねーよ」

「本当、太子は友達だってば」

「友達にしちゃあべたべたしすぎじゃねーんですか」


視線を大王の首筋に下ろすと、そこにはつけた覚えのないキスマーク。
―――こんなもんつけられやがって。
僕はそこに噛みついた。
大王が、小さく声を漏らす。

口の中に血の味が広がる。
歯を抉りこませたままにしておけば、傷は塞がらない。

「っは、相変わらず読めない行動するね」

「黙ってろ、元はと言えばテメーが悪い」


口を離すと、僕が噛みついたそこは見る見るうちに塞がっていった。
面白くねぇ。
いっそ一生消えない傷をつけられたらいいのに。
大王は僕のものだと一目で解るような、そんな証が欲しい。
―――僕も大概、独占欲が強いな。

跡形もなく消え去った傷跡の周りについた血を舐めとると、大王が身を捩った。
くすくすと笑いながら僕の頭を撫でている。


「くすぐったいよ鬼男くん」

「…うっさい」


ああくそ、これじゃあ御仕置になってねぇじゃないか。

僕は大王から離れて、口の周りについた血を拭い取った。
大王は物足りなそうな目をして僕を見上げてくる。
それに気付かないフリをして、大王の腕を引きながら草むらに入っていく。
流石にあんな広い場所で何かするつもりはなれない。

草むらで大王を押し倒し、服を脱がせた。
上を脱がせたところで、僕の手は止まる。
視界に入ってくる大王の白い肌には、点々と赤い痕が残されていた。
―――こんなところに、までかよ。

苛立ち、今度は爪でその赤い痕を刺してやった。
突然の攻撃に、大王が色気のない叫び声をあげる。


「ぎゃあああ!ちょ、鬼男く…刺さってる!お腹!」

「自業自得だコラ、テメェ一体何処までヤリやがったんだ!?」

「え…………えへ」


えへ、じゃねぇ。
僕は頬骨辺りに青筋を浮かせつつ、口角を上げてみせた。
冷めてきていた怒りが再び燃え上がる。

刺したままの爪を動かしてやる。
肉が抉れて、大王はまた悲鳴を上げた。


「ぎゃあ!ちょいやっ痛、痛いってマジでちょっ!」

「ああ?痛いのが好きなドMのくせに何ほざいてやがる」

「鬼男くんが鬼畜全開になったああああ!!痛い痛いいたいいいい!!」


元から鬼ですけど何か?
にっこり笑って言ってやると、大王はすかさずごめんなさいと呟いた。
許すかバーカ。

ぐりぐりと爪を動かし続けていたら、大王の頬に赤みが差してきた。
ほら、ドMじゃねぇか。
大王が僕の腕を止めようと手を伸ばしてくるが、それを撥ね退けて暫く爪を動かしてやった。


「や…っ…鬼男く…、ほんと…無理だって」

「ああ、気持ち良くなってきたんですか。本当にドMですね。そのくせ誰相手でも股開くド淫乱なんて、最低ですねえ」

「ああ…っ言わないで…っ」


否定はしねぇのかよコイツ。
言外に聖徳太子と寝たって認めてやがる。
ああ、苛々するなあ。

僕は爪を抜いて、滴る赤い鮮血を舐め取った。
息の荒くなった大王が、欲情した目で見上げてくる。
だけどこれは御仕置だから、大王が望んだことはしてやらない。
せいぜい苦しめ。


「では僕はそろそろ戻ります」

「え!?つ、続きは!?オレ刺され損!?」

「ああちなみに僕以外の誰かに処理してもらうのも自分で処理するのも禁止ですから」

「ええええ!!?」


嘲笑を浮かべて突き放す。
大王が泣きそうな顔をした。
僕の腕を引いて、懇願してくる。


「ねえ、ほんと、無理だから…このままなんて嫌だよぉ…っ」

「御仕置ですよ?浮気したアンタが悪い」

「もうしないから…ねえ、お願い鬼男く…っ」


小さく溜息をついて大王の腕を引き返してやれば、大王が嬉しそうに顔を輝かせた。
―――相手してやるなんて一言も言ってねぇけど。

そのまま大王を肩に担ぎ、亡者たちの執行場へと歩いて行く。
大王が冷や汗をかいた。
おずおずと、声をかけてくる。


「ねえ…鬼男くん…?」

「では今から仕事して貰いますので」

「このままでしろと!?アンタどこまで鬼!?」


大王を椅子に縛りつけ、笑ってやる。


「最初っから鬼ですけど、何か?」


絶望したような大王の顔に僕も欲情したので、今日は早々に切り上げて部屋に連れて行こうと思う。

え?聖徳太子はどうなったって?
さあ?小野に何かされたんじゃねぇの?
僕は知らない。










fin.








どうよ!(何故お前が自慢げなんだ?)
チャットの際、我儘リクをさせていただきました
鬼閻で太閻でヤキモチでお仕置きとか最高すぎます!
仲良し(?)太閻と鬼畜鬼男くんにドキドキしました

希望すれば妹太バージョンも書いて下さるそうで・・・
どうしよう是非拝見したいです・・・