最近気付いた事だが閻魔は可能な限り僕に選択肢を託すようにしている それも無意識で、性質が悪い 我が家への不法侵入は……もう許しきってしまっているから除外するとして、それ以外は大概僕の意見を聞く 料理も僕の食べたいと言った物を作ってくれるし、出掛ける時も僕の行きたい場所へ行く、何か自分がしたい事がある時ですら僕に幾つか選択肢を提示して選ばせようとする(そんな時だけ閻魔が一番喜ぶものを選べるんだけど) いい奴だなぁと思う でも悲しい事に僕は振り回される方が性に合っていたりするんだ それに、ひょっとしたら僕が気付かないだけでコイツはまた無理をしているのかもしれない 僕らは案外演技が上手いから、どちらかが無理をしてても見抜けない(嘘はすぐ見破ってしまうけど)それはお互い様だから仕方がないと思える でも僕が自然体でいる時に閻魔が無理をしているのは良い感じがしない それでは何だか僕が馬鹿みたいだ 「こういう時は別に断っていいんだよ」 今、僕は偵察という名の遊びに訪れた閻魔を捕まえて暇つぶしに付き合ってもらっている でも、本当は一人になりたくて来たんでしょ?だったら無理して僕に合わせなくても良かったんだよ 「そんなんじゃない」 コッチは親切で言ったのに閻魔はムッとした顔になってプクーっと膨れてしまった 「子どもか……お前は……」 猫姿ならまだ可愛げあるのになと思うが如何せん此処は野外 誰の所為とは言わないが野良犬率の高いここ飛鳥では閻魔の猫姿は屋内限定で在るべきだ そんな事を考えていると、閻魔は 「……寂しい」 あろうことかこんな言葉を投げてきた 「妹子がそんなこと言うなんて寂しい……なに?オレが妹子に合わせちゃいけないの?妹子に喜んでもらいたいって思っちゃいけないの?同じ目線で……並んで歩きたいと思っちゃいけないの?」 そんな事を言える相手が僕しか居ないのか それとも、僕だから言うのか 「ごめん、閻魔……でもさ僕だって閻魔に合わせたいんだよ」 どちらにせよ光栄な事なのだろうに到底そうは思えない 「力とか位に差があるのは確かだけど……別に今は関係ないでしょ」 非力でも出来る事はある それくらいさせて欲しい そうしないと僕も寂しい 「ちゃんと閻魔の要望も聞き入れたいんだよ」 すると閻魔の不機嫌さが少し緩和されたようだった 「別に要望とかないよ……無理もしてない……」 妹子といる時が一番楽なんだよ 小さな声で呟く 「そう……なら良いよ」 結局、今まで通り閻魔が僕に合わせる関係が続くらしい まぁそれほど困る事じゃないし神様相手に選択肢が貰えるのは凄い事だ 閻魔が無理してないならそれで良いじゃないか…… 無理?無理といえば…… (人間界で人型保ってるの辛いんじゃなかったっけ?) 外で猫型になるなと言ったのは僕なのだ その所為で閻魔に無理させるのは僕の精神衛生上良くない 早く猫型になって貰わないと困る 「閻魔、そろそろ帰ろう?」 言ってから、閻魔は僕ん家から出て来たんじゃないんだから『帰る』じゃ語弊があるなと思った しかし閻魔は無言で僕の隣に並んだ その顔にもう不機嫌さは見られない 「ねぇ妹子、此処で猫になっても良い?」 「え?でも危な……」 「オレの要望も聞きたいんじゃなかったの?」 クッ……確かにそうだ……残念ながら僕は言ったばかりの言葉をこんな直ぐに撤回出来るような性格はしていない でも、閻魔の安全の為を思うと易々と許可出来ることじゃ無いというか…… 「ふふ……冗談だよ」 ウダウダ考えている頭の上に閻魔の手が 「ほら、早く帰ろう」 手を差し伸べて閻魔が笑うから、僕も一緒に笑った いつの間にか定着してしまった二人の距離 それに不満を感じる訳は決してなかった でも 本当の事は言えない END |