もし私が私でなかったら
貴方が生きているだけで幸せと思ったのだろう


同じ世界に生きている訳でもないのに
何故こうも幸せなのだろう



--しめやかに降る幸せの雨--



普段から余り動かない二人だが雨の日はさらに動かなくなる
とくに猫型閻魔は体質まで猫化してしまっているのか全身からぐったり感が醸し出されていた
猫以外の動物に化けることを薦めれば「人にはそれぞれキャラに合った動物がいるんだよ」と訳の分からない言葉を返された
「お前は人じゃねぇだろが」と言いたかったが止めておく

「僕に合う動物ってなに?」

「えー?」

聞けば、くるりと寝返りを打ち楽しそうな眼を向ける閻魔
「そうだねぇ」と更に眼を爛々させながら考える

「狸かなぁ?」

「……なんで?」

いつも僕を可愛いだの格好いいだの褒めているくせに何故そんな間抜けっぽい動物を選ぶ

「狸は間抜けじゃないよー結構ずる賢いんだよ?」

どちらにしても良いイメージないじゃないか

「だって犬といったら太子でしょう?」

それは同意する

「鬼男くんは鹿っぽいし」

角か?角があるからなのか?

「狐はもっと格好いい子の為にとっときたい」

僕は格好よくないのか

「兎って感じもしないし」

そうだね、兎って言われたらぶん殴ってるよ

「……だからやっぱり狸だよ」

その間はなんだ?その間の中に僕が狸だという結論に行き着く答えが隠されているのか?

「それとも狼さんかな?」

そう言って腹立たしいくらい楽しそうに笑った

「僕が狼なら一番最初にお前を食ってやるよ」

「おー怖い」

閻魔はクスクス笑った後、はぁと小さな溜め息を吐いた

「どうしたの?笑いすぎて疲れちゃった?」

「うん」

素直に頷く閻魔が可笑しくて、その体を抱き上げて膝の上に乗せた
仰向けの閻魔は眠たげに眼を擦る
僕はその頭をゆっくりと撫でた

「ねぇ妹子」

暫く毛並みを楽しみながら外を眺めていたのだが、閻魔から問い掛けられ僕は目線を落とす

「何がこんなに幸せなんだろうね?」

「ん?」

「普通だったら辛いんだよ?どんなに楽しい時間でも辛くて苦しいんだよ?」

肝心な所の抜いた閻魔の気持ち

「でも今は幸せなんだよ?なんでかなぁ?」

「……そんなの」

分からない
アンタが幸せだと感じているから幸せなんだろう

「オレがオレじゃなかったら……妹子が此処に生きているだけで幸せだと感じてるんだろうに」

「閻魔……」

同じ時間を過ごしても同じ世界に生きられる訳じゃないから、自分一人だけが特別だから、他人と一緒にいるのは辛くて苦しいんだろう

「ああ、やっぱり幸せかなぁ」

「ん?」

「妹子が名前呼んでくれた」

猫だから表情は分からないけど、閻魔があまりに切なく笑うから、僕の胸の奥が騒いだ
そうか、これは……

「分かったよ閻魔」

「なにが?」

「閻魔が幸せな理由」

どこか虚ろだった閻魔の眼が興味深げに僕の言葉を待っている

「僕が幸せだから閻魔も幸せだと思ったんだよ」

「……」

「僕は辛くも苦しくもないからね」

「そっか……」

納得した閻魔は目を細めて僕の膝で身を捩った
本当はそれだけじゃないけど、きっと閻魔が知りたくない事だから

(僕って結構罪な男かもしれないな)

気付いてしまった
この人は思った以上に僕に依存している
それに気付いた瞬間、自分の中で言い知れない幸福感が広がった事も

「妹子?なに笑ってるの?」

「幸せだからだよ」

嘘じゃない、嘘
だって幸せ以上の気持ちがあるから

「閻魔、寝てていいよ」

「……うん、なんかさ妹子って雨の日は優しいよね」

「そうかな?」

確かにいつもはもっと厳しくて辛辣な事言ってる気がする
でも元気がない閻魔を見てるとついつい甘やかしてしまいたくなるんだ
きっと雨を言い訳にして自分にしか見せない弱さを見せてくれているんだから

「だから好きだよ雨も……雨の日の妹子はもっと好き」

「僕も雨の日のひねくれてない閻魔は好きだよ?」

穏やかな空気が家中を包み込む
これでお互い恋愛感情全く無いんだから面白い

「おやすみ……妹子」

「おやすみ……閻魔」

目覚める頃には雨は上がってしまっているだろうか

そう思いながら僕も布団の中に移動する


雨の日だけ訪れる幸せを抱いて






END