元より抵抗する気は無いが走馬灯の半分以上を占めるのも今目の前にいるのも彼だと判るともう少し抗えるような気がした

「あのさぁ」

「んー?」

掠れる視界で閻魔が耳を傾けるのが見えた
僕の頭を撫でる手は止まらない

(なんでアンタは神様なんだろうな)

そんな余裕も時間もないくせに口に出すのを躊躇してしまった
これを言うのは最期の瞬間で良いと決めていた
今まで大切に扱ってきたアンタを最後の最後で傷付ける為の言葉

「なんでアンタは神様なんだろうな」

口に出せば閻魔は泣きそうに顔を歪めて
出来れば最期は笑顔がみたいのに、でもどこかでそれを望まない自分がいて
頭が回らないのに心はフル回転で……止まり掛けの心臓に少し音が戻った

「なぁ閻魔……アンタ人間になりなよ」

「駄目だよ……妹子が神様になってよ」

「やだよ」

今のままアンタに好かれた僕で朽ちて往く方が良いに決まってる

「結局……何も思い通りにならないね」

諦めたような笑顔を抱き締めたくなったけどもう体が動かない

「なに言ってんの?まだまだこれからだよ」

死ぬのは嫌だが今よりずっと近い場所に居れるようになる

「この世界に妹子に逢いに来るのが好きだったんだけどな」

「じゃあ今度から天国に来るのが楽しくなるね」

「……自意識過剰」

閻魔はそうポツリと漏らして笑った
ていうかやっぱり僕は天国行きなんだ……それなら尚更、人として死ななきゃ罰が当たるよ

「じゃあ閻魔、また後で」

「うん、待ってるからね」

そして僕は瞼を閉じて静かに来る死を待った
向こう側で閻魔が泣き出したのが分かる
馬鹿だね……まだ聴覚は死んでないのに

「やだよぉ……逝かないで……妹子」

これからアンタん所に行く方だってば、何時だって僕の大切な人を連れ去って仕舞うアンタが何故……

泣かないで欲しい

泣いてくれて有り難う

悲しんでくれて有り難う

怖れてくれて有り難う

だけど最期まで我慢してて欲しかった

結局アンタを救うのなんて無理だったのかな?
あと何百回か輪廻を重ねればアンタを救えるのかな?

僕が僕を捨てれば可能かも知れないなんて馬鹿らしい

不可能は不可能なんだ

出来ないことはしないと決めてる
だって関係を長続きさせるにはその方が断然良い

不可能に挑戦すればきっと二人とも辛い

でもある程度の辛さがなければアンタは僕から離れていきそうで

だから天国を一通り楽しんだらアンタを攫いにいこう

それが僕が出来る最低ライン
本気を出せばもっと思い切ったこと出来るけど……それをしたらきっと僕は消されてしまう

だけど僕にはもう怖い事はないのだから
アンタを手に入れる事を畏れないのも道理でしょう


「さよなら妹子」


永遠に……と、
涙を枯らした閻魔の声がした




【かみかくし】




気付けばすべてが真っ白にだった

誰かに額を押さえられている

誰だろうか?

僕は誰にも看取られず独りで死んで逝く筈なのに

ああでも優しい手だなと思った瞬間

すべてが真っ黒に成った






END