本当のオレってなんだろう

お前は誰だ?と聞かれたら自分の名前を答えるだろうし
好きなモノも嫌いなモノも聞かれればすぐに答えられる
自分の事で解らない事はない

そう思ってたのに彼の言う本当のオレってやつが解らない


「今のが本当のアンタって感じがする」

それならいつものオレは嘘だって言うの?
そりゃ全て本心ぶちまける訳にもいかないし多少は演技してると思うけど
そんなの嘘の内に入らないでしょ

「ううん、違う違う……なんていうかさぁ」

「なんていうか?」

「今は良い意味で流されてると思うよ?」

は、の部分を強調して
オレの方を振り返る妹子が言った

「流されてる?」

「今の行動にいちいち意味なんて考えてないでしょ」

そういえば今だってかなり無意味に散歩なんかしちゃってるけど別に何とも思わないな

「息を吸うみたいに此処にいるでしょ?そういう閻魔が僕は……」

本当みたいで凄く嬉しい

「いや……妹子が言ってることが一番意味わかんないんだけど」

「ふーんいつもと全然違うのに……自分じゃ解らないもんかな?」

いや、誰が見たって変わらないよ
そんなこと言うの世界中で君くらいだよ

「勘違いじゃない?」

妹子がそう思ってるだけでオレは妹子に本当のオレなんて見せてないんじゃない?
そもそも本当のオレなんていないんじゃない?

「そうかもしれないけど、でも満更悪くないでしょ?」

「は?」

「閻魔も知らない閻魔がいて、それを知ってるのが僕だけってこと」

満更悪くないでしょ?と聞かれれば
それは頷くしかないだろうね

「でも……妹子ばっかりじゃないからね」

「なにが?」

「オレだって妹子のこといっぱい知ってるよ」

妹子がどんな人かって聞かれたら妹子以上に答えられる
妹子の見れない妹子の笑顔も泣き顔も見れる
妹子が忘れてる二人の思い出も覚えてる

「ふーん?でも僕の方が閻魔のことよく知ってるから」

「でもオレが妹子を知ってる数の方が多いよ」

「量より質でしょ、僕は本当の閻魔知ってるし……閻魔は本当の僕知ってても普段と判別出来ないでしょ?」

妹子の瞳が少しだけ曇った
笑っているけど
それは「淋しい」って言ってるみたいだった

「オレは妹子みたいに本当の君なんて解らないけど……」

関係ない
どんな姿だって

「偽物だろうと本物だろうと妹子がオレに見せてくれる妹子が一番大事なんだから」

何万回生きたってオレの妹子はオレの傍に居てくれる今の妹子だから
ずっと心のド真ん中にあるのは目の前の妹子だから

「今更妹子の何を知ってもどうせ嫌いになれないしぃー」

拗ねたように言えば妹子は笑ってくれた
これが本当の妹子なら良いな、と思う

「閻魔気色悪いなぁ……もう近寄んないでよ」

「酷いなぁ舌抜いちゃうぞ」

「ウザい可愛くないんだよこの変態が」

「酷いなぁ……さっきまであんな優しかったのに」

「……あーもう本気で死ねばいいのに」

「もう死んでるって」

毒を吐かれて安心するって何かおかしいけどオレは安心していた
いつもの妹子らしい妹子だ

「あのさぁ妹子」

「ん?なに?」

「普段のオレと本当のオレ?どっちがいい?」

「そんなの……」

あっさり答えようとして妹子はピタリと止まった
二・三拍置いてオレから目を逸らすと呆れたように笑う

「教えないよ」

「えっ?なんで!?」

「アンタが僕に対して仕様がないのと一緒だよ」

「なにそれ!本当に意味わかんない!」

妹子ばっかりオレのこと理解してるみたいでムカつく

「教えてくんないならオレの都合いい方に解釈しちゃうからね!」

「別にいいよ……多分それで正解だから」

「え!?」

驚いて妹子を見ると
彼は顔を真っ赤にさせていた

「妹子?」

「……どっちがいいかなんて決められないよ」


――ただ解るのは……僕と閻魔の気持ちが同じだって事――



今度はオレの顔が赤く染まった






end