ねぇ天の川みにいかない?




【きっとなにより輝いて】



隣で眠り込んでいる妹子が急に傾いたので慌てて支える
妹子を横目で見てまだ寝ているのを確認すると安心の溜め息が漏れた
疲れているんだろうな
それなのに連れ出しちゃって悪いな
でも折角の七夕だから妹子と天の川が見たかったんだよね
オレも妹子に寄りかかる…空を見上げたら織姫と彦星が一段と綺麗だった
あそこから見たらオレ達は『人』という字みたいに見えるかなぁなんて思う

「……太子ぃー」

いきなり耳元で声がした驚きでピシッと背中が伸びた
妹子はというとそんなオレなんてお構いなしに気持ち良さそうに寝息を立てていた

(寝言!?あー吃驚した…)

妹子の幸せそうな顔を見ながらなんて無神経な奴だと思う
寝ても覚めても太子の事ばかりで羨ましい、でもそんな太子の事ばかりの妹子が微笑ましい
たった一人の事をずっと考え続けるなんてオレには無理だ
ふと気付いたらその人のこと考えてた……っていうのなら時々あるけど……オレは他にも色々考えなきゃいけないから
でも今は妹子しかいないし、その妹子も寝ちゃってるから好きなこと考えよう
うん、自由って素晴らしい!
そうだなぁやっぱり妹子と一緒なんだから妹子のこと考えよう
えっと妹子はオレの友達だよね……いや七夕に一緒に天の川みたいって思えるくらいだから特別なのかも知れない
ていうか今までのオレの行動とか思い返してみたら妹子を凄く特別な友達だと思ってるみたいだ
なんでだろう?実はよく考えたことなかったんだけど不思議
最初はツンツンしてて苦手だったのに、寧ろあんまり好きじゃなかった
慇懃無礼な態度が気に入らなかったんだ
鬼男くんみたいにオレをよく理解してくれてる人なら別に良いんだけど、オレの事なにも知らない癖に馬鹿にする妹子が嫌だった
それがいつの間にか仲良くなってたから不思議
好きと嫌いの境目なんて本当になくて、ゆっくり、だんだんだんだん好きになっていった
好きになってからは、なかなか嫌いにならない

(こんど妹子に聞いてみようかなぁ)

妹子だってオレの事嫌ってた筈なのに今は凄く優しい

(……ひょっとして今も嫌いだけど無理して一緒にいるとか!?)

急に不安になった
でもオレ、太子と似てるし大丈夫じゃないか……でも似てるから逆に嫌いということも有り得る

(でも何だかんだで一緒にいてくれてるからなぁ)

わかんないなぁ妹子
友達なんだからもっと理解したいと思うのに全然わからない
確実に言えるのはオレは妹子が好きだってこと、好きに色んな種類があるとして恋愛以外の部門で全て一位に輝いてる気がする
妹子の場合、好きは一種類しかなくて太子はその頂点で、後の人はもうどうでもいいと思ってそうだ
勿論オレもどうでもいい部類に入ってる
悲しいけど仕方ない
仕方ないけど悲しい

「織姫さま〜オレどうしたらいいんだろう」

なんとなく織姫さまの方がオレの悩み聞いてくれそうな気がした

「なに?悩み事なら僕が聞くよ?」

「うわっぁあ!?」

「閻魔うるさい。驚きすぎ」

寝てると思ってた人から急に話し掛けられたら普通こうなる
ていうか妹子起きてたの……いつの間に?

「閻魔が耳元でブツブツとうるさいから」

「え?声に出てた?」

オレの考えてたこと

「いや断片的にしか聞こえなかったけど……僕にどう思われてるか不安?」

「……断片的に重要なとこが聞こえてたんだね……」

恥ずかしいやら情けないやらで落ち込む
……とりあえず悪いと思ったことは謝っとこう

「ごめんね折角寝てたのに起こしちゃって」

「いやこっちこそ折角誘ってくれたのに寝ちゃってごめん」

「いいよ妹子疲れてたんでしょ?」

そう言うと妹子はもう平気だと笑った

「閻魔といると気分転換になるからね」

「……」

「閻魔?どうしたの?」

その笑顔と一言で悩んでた事とかどうでも良くなってしまった
妹子がオレをどう思っていようと役に立ててるならそれでいい

「ううん、なんでもない……ありがとう妹子」

「は?……まぁどういたしまして?」

妹子はよくわかってないみたいだけどオレの中じゃ全部解決してしまった
だいたい妹子の事で悩んでたんだから妹子のお陰で解決すんのは当たり前だけど

兎に角ありがとう


「ねぇ閻魔」

「うん」

「閻魔の考えてる事とか全然わかんないし今の言動も意味不明なんだけど……」

自分でもよくわからないから君にわかってもらっても困るよ

「閻魔がすることで嫌な感じはしないよ、たまに呆れるけどその分飽きないし……」

妹子は子供みたいな笑みを浮かべて言った
オレはそれを直ぐに信じられなくて問い質してみた

「本当に?いつも突然押し掛けられて迷惑じゃない?」

「迷惑は迷惑だけど仕事中じゃなければ嬉しいよ」

「……それ、喜んでいいの?」

「うん……」

七月七日に笹の葉も短冊もないけど、さっきから願いがどんどん叶えられてる

「閻魔こそ僕がいつも呼び出して大丈夫?」

「そんなの決まってるでしょ?嬉しいから大丈夫だよ」

「なら、僕も閻魔と同じだよ」

「なにが?」


真面目な笑顔……なんておかしな表現だけど今の妹子の顔はそうとしか言いようのが無くて


「きっと僕も閻魔のこと特別に好きなんだよ」


オレだけに向けられた言葉は天の川に負けないくらい輝いていた







おしまい