困った時の神頼み
でも僕に頼れる神様はいないから
消去法でこの人になった

(そういえばこの人も一応神様だったっけ)

数日前、太子が子犬を拾った
馬子様や側近の人も太子がちゃんと仕事する事を条件に飼うことを許してくれたんだけど
結局、子犬に構いすぎて太子は以前に増して仕事をしなくなり怒った馬子様から元の場所に戻すように言われて
……何故か里親が見付かるまで僕が面倒みる事になっちゃったんだよね、何故かって太子に頼まれたからからに他ならないけど
ちなみに太子は現在馬子様に軟禁されて職務執行中

「この犬ほんと妹子が好きなんだね」

「まぁ懐いてくれるのは嬉しいけど」

栗みたいな鼻をすりすりと押し付けてくる子犬を無理矢理剥がすと
呑気にお茶なんか啜ってる閻魔に引き渡した

「限度ってもんがあるよね……」

閻魔は空の湯呑みを台に置いて子犬を抱きかかえていた
ふふ、と笑いながら子犬の顔を両手で包み込み

「こらぁ妹子は忙しいんだから邪魔しちゃダメでしょ?」

自分を棚に上げて何を言うか!と思ったけど今は助かる
ていうか閻魔は僕にはそんなベタベタしてこないし僕が構わない限り大人しいもんな
暑苦しいくらい求めるのは太子と……きっと大好きな秘書の鬼くらいで……

僕には……

ん?なんだこの感じ……心の表面を冷たい風が滑るみたいな……

「ささっ!妹子今の内に寝ちゃいなよ!この子はオレが見とくから!」

ワケの分からない焦燥感に駆られていると閻魔が笑顔で申し出た

「ありがとう、助かる……その子夜泣きするから最近ろくに寝てないんだ」

すると閻魔はまん丸い目で僕を見た

「大変なんだね……」

その顔が少し淋しそうに見えたけど
すぐに笑顔になったから僕は気にしないでいた

「そんなことないよ」

これも太子の為だから大丈夫だよ

「じゃあオレこの子と庭で遊んでるからね」

そう言って閻魔は立ち去った
僕は閻魔の好意に甘えて一眠りすることにした


目を閉じると直ぐに意識は沈んでいった


あれからどれくらい経っただろう……

耳元の鳴き声とどこからか漂う良い匂いで僕は目覚めた
子犬はいるのに、その子犬と遊ばせていた閻魔がいない

「あれ?閻魔は?」

良い匂いするしご飯でも作ってくれてるのかな?
そう思い台所へ行くと閻魔は居らず
テーブルの上に置き手紙があった

「えーと『気持ちよさそうに寝ていたのでそのまま帰ります。ご飯はあっためて食べて下さい』か……ったく」

起こせばいいのに
これじゃまるで犬の世話させる為に呼んだみたいじゃないか
……その通りだけど

「くうぅ〜ん」

「あ、お腹すいたでしょ?ごめんね……放っといて……」

そう言うと子犬は尻尾を振って僕に跳びかかってきた
やっぱり犬は可愛い
閻魔はどっちかっていうと猫っぽくて可愛くないから……

って、何考えてんだ僕は閻魔を動物みたいに言って動物に失礼じゃないか

閻魔の料理は美味しいんだけど、いつもより味気ないというか静かな所為かな?
いつも正面に閻魔がいて「おいしい?」って言ったり、聞いてもいないのに秘書鬼さんの話をし始めたりで結構騒がしいのに……
この子も今頃になって寝ちゃうし(多分閻魔と遊びすぎたかな)
はぁ……僕ももう寝てしまおう、どうせ夜はまたこの子の夜泣きで眠れないんだから眠れるうちに寝てしまえ

そうして僕は布団に入った



《閻魔サイド》

オレは真っ暗な家の中を歩いていた
妹子は敏感だから慎重に気付かれないよう

今は夜中で此処は妹子の家、オレは妹子の寝てる部屋にそっと潜入した

妹子は気持ち良さそうに眠っている

(……あれ?あの子は?)

目的の子犬を探すと部屋の隅でぐっすり眠っていた
昼間遊ばせ過ぎたからか……なかなか起きそうにない

(なぁんだ)

オレは安堵の溜め息を吐いた
起きて鳴いてるようだったら、そっと朝まで連れ出そうと思ったのに

(ふふ……でも本当可愛いなぁ)

この子犬は特に甘えん坊で、まるで太子みたいだ
だから妹子もつい構ってしまうんだろう
睡眠時間を削ってまで……

「おいで」

今はぐっすり眠っているが、ひょっとしたら起きてしまうかもしれない
それまでに外へ連れ出してしまおう
オレが抱きかかえたその時

「わん!」

起こしてしまったのか子犬は大きな声で吠えた
ビクッとして振り返ると……

「誰だ?アンタ」

「ひゃっ!」

剣を構えた妹子がいた
ちくしょーかっちょいいなぁ……って違う違う!そんなことじゃなくて

「オレだよオレ!」

「閻魔?どうしたの?」

不思議な顔をしている妹子にオレはここに来た理由を簡潔に説明する
すると妹子は小さく笑って剣を仕舞った

「あーあ……せっかく寝てたのに起きちゃったじゃない」

「ごめん……今からこの子連れて散歩に……」

「僕がだよ」

「え」

何時の間にか立ち上がっていた妹子にグイッと引っ張られる

「昼間沢山寝たからね、実はアンタが入ってきた時点で起きてたんだ」

「んなっ!!」

「という訳で眠れそうにないから付き合って」

「へ?」

「甘いお酒だから辛いおつまみがいいな」

「……付き合ってってお酒にかぁ!!」

「ん?なんだと思ったの?」

「……はいはい何か作ればいいんでしょう!」


オレはヤケになって叫んでいた

「ありがとう……閻魔」

ニコッと悩殺の笑みで攻撃されてオレがやられない訳もなく

「まったく人使いが荒いんだから」

文句言いながらも口元が緩むのを止められない

あーもうやだなぁ
昼間はずっと我慢できてたのに

「閻魔」

「なにー?」

「アンタ、犬みたいだよね」



君に構ってもらえるのが嬉しくて堪らない





end