「僕とこうして逢う事がアンタにとっては罪なの?」



……そうかもね
だって逢えない時間が罰みたいに辛い……



恋愛未遂



妹子が生前の頃から築いてきた絆を今更疑うなんてことはなく
緩むことなく張り巡らされていた予防線を意味がないものだと知って断ち切ったのはいつの事だろう

終わることのない春がオレに微睡みを与え、随分長い間、妹子にだけは無防備に接する事ができていた

拒絶されるなんて思いもしないで、ただ、ただ信じていた

「閻魔が好きだよ」

熱い眼差しは普遍的に流れる穏やかな風に似合わなくて
これは悪い夢なんじゃないかと思った
大切な大切な親友はオレの気持ちを汲んでくれていた頃の仮面を剥がして
まだオレは何も言ってないのに凄く傷付いた顔をしていて……凄く怖かった

「え?」

妹子に聞き返すのなんて初めてだ
オレが妹子の話を聞き逃す事はないし、一回聞けば理解していた筈

「だから……閻魔が好き……だよ」

歪んで見えたのは真の世界か己の錯覚か
止まっていた心臓が早鐘のように鳴り
死人色の肌は林檎のように赤らんだ

「好きだ……閻魔」

艶を含んだ声に不釣り合いな切なげな表情を浮かべて、オレに迫る
反射的に逃げ切れないと悟った

ああお願いだから……そんなこと言わないで……そんな顔しないで……オレが望んだのはそんなものじゃ……

「閻魔は?」

ビクン、と肩が揺れた
もう聞き返すことは許されない
聞き返せばすべて手遅れになってしまう

「オレは」

区切って、声が出せなくなった
なんて言えばいいの?
友達のままが良いなんて言って彼が納得するとは思えない
だってオレの方が妹子なんかよりずっと……

「オレは……妹子のこと好きだけど……友達としてだよ」

「友達として……」

妹子はオレの言葉を反復すると……一瞬目を伏せて次の瞬間オレを捉えた

「恋人としては?」

心が止まる、どんな小さな子だってきっと今ならオレを殺せてしまうだろう
恋人なんて甘い響き、オレには到底似合わない

「閻魔」

「な……に?」

「もし記憶を消すなら……今度は僕じゃなくアンタの記憶にして」

オレが不用意に近付けるから、ずっと傍にいてほしいと願うから、妹子は本来人間が知ってはいけない真理を知ってしまって
苦しむから、その身を危険に晒すから……だからオレはだから何度も記憶を消してきた

……妹子はそれに気付いてたんだね

「妹子……」

「ん」

「愛してるよ」

友達として“好き”で恋人として“愛してる”

「あ……」

「でも、ゴメンね」

この気持ちはぜんぶオレのだから
君にはあげられない

「君を傷付けるだけの気持ちなんて跡形もなく消してあげる」

足元に浮かび上がる魔法陣に気付いて妹子が焦ったようにオレの名を叫んだ

「閻魔!?」

動けない体の代わりに厭だ厭だと瞳で訴える妹子

「……さよなら……今度もちゃんと幸せになってね」



忘れなさい、すべて、私もろとも




愛してるから――……










end