※太⇔妹⇔閻・太閻太要素あり







倭国人なら空気を読め。と言いたい所だったがよく考えたらこの人は倭国人じゃなかった

「妹子はじゃんけん弱いもんね?オレ一回も負けたことないんだよー」

そう嬉々として言われると怒るに怒れないじゃないか
悪意が無い所がいっそう腹立たしい

「だからいつも買い出しは妹子の役目なんだ!」

太子の前だからって無駄に語尾を弾ませるな
僕のもんにそうベタベタくっつくな
馬鹿大王が……

「でもいつもオレがお酒持参してるんだから、おつまみくらい妹子が用意すべきだよねぇ?」

ねえねえと太子に懐きながら同意を求める閻魔
だからあんまりくっつくなって……そしてアンタと僕が頻繁に逢ってる様な言い方はよせ(事実だけど)

ああ太子そんな睨まないで下さい心配しなくても僕はあなた様一筋ですから!

「でも結局オレが何か作らされるんだよ?人使い荒いよね」

「そうだな……でも閻魔のおつまみだったら私も食べてみたいぞ」

「そう?物好きだね」

僕が物好きだって言いたいのか?

「でも此処の厨使いにくそうだから妹子ん家に来た時で良い?」

もうこの人は何故こんな時に天然発揮するんだよ!
そりゃ閻魔にとっちゃ勝手知ったる我が家の台所だけどさ
アンタがうちに頻繁に来ることを太子に黙っていた僕の立場考えてよ
閻魔は多分太子も知ってると思って言ってるんだろうけど……

「妹子?」

「は……はい……」

見ると太子はどちらに嫉妬していいのか分からないという顔をしていた
黙っていただけで別に隠していた訳ではないし、やましい事なんて何一つない
閻魔が勝手に来たり僕が呼んだりしていただけ、それは悪い事じゃない、それだけは絶対譲れないけど

二人きりで逢っていたことに、やっぱり少し後ろめたさがあった

「水臭いぞ?なんで私を呼ばなかった」

「だって太子お酒飲めないじゃないですか」

実際閻魔と酒を飲む事は殆ど無いのだが、酒のみ友達だと思ってくれた方が都合がいい

「それはそうだが……」

嗚呼ッ!そんな目しないで下さい抱き締めたくなるから!!
否、閻魔が抱き付いてる所為で出来ないけど……クソこの大王イカは今度うちに来た時ぶん殴ってやろう

「閻魔……妹子と仲良くなれたんだな」

ふと、太子の目が寂しい子犬のものから少しだけ嬉しそうなものへと変わった

「えー?別に仲良くないよ」

その瞳で見つめられた閻魔は少し動揺していた

そういえば最初閻魔は面に出さないが僕を嫌っていたな
理由は聞きそびれてしまってるけど、それも今度問い詰めてみよう

「あ、こんな時間だ……太子といると時間が早く過ぎちゃうなー」

相変わらず太子のご機嫌とるの上手いな、独り言みたいだったし本人にその気は無いだろうけど
ほら太子の口元が緩んでる……まったく、こっちが嫉妬したいくらいだよ

「今日はまだこっちに居られるのか?」

「うん、もうちょっとね」

「そうか」

ニコニコと笑いあうオッサン達を他所に僕はチクチクとした痛みと戦っていた
一番の親友だと思っていたのに、アンタだってそう言っていた癖に

(結局、太子といるときの方が楽しそうなんだよね)

確かに僕は太子みたいに可愛くも面白くもないけどさ、隣に座ってるだけで何でそんな声を弾ませられんだよ
ウチに居る時のおばあちゃん猫みたいな閻魔はどこいったんだよ

(太子が来てから一回も目を合わせてないじゃないか……って、嘘……)

ここで僕は嫉妬の対象が閻魔から太子に変わっていることに気付いた

「どうした?妹子、さっきから顔がコロコロ変わってるぞ」

「い、いえ……なんでもありません、ちょっと酔いを醒ましてきます」

「そうか?早く戻ってこいよ?外は寒いから」

「はい」

嬉しい筈の太子の気遣いがこの時だけは疎ましく感じた
心配そうに僕をみる閻魔の顔が目に入って頭がグルグル回る

閻魔を一瞬睨みつけてから外に出る
悪いけどアンタの気持ち考えていられる程の余裕はない

今はこの気を鎮めないと……


(はぁ……僕は馬鹿か……)


太子だけなら兎も角、閻魔にまで執着してる
相手は倭国の摂政と冥府の王だよ?どんだけ欲張りなんだ自分は

とりあえずこの事は絶対秘密だ
じゃないと僕の命が危ない


(過保護な秘書さんが今も見張ってたりしないよね?)


そう思って空を見渡してみても冷たい風しか存在しなかった





おわり