君の好きな人になんか興味はない

興味があるのは君だけ




【束縛するならお好きにどうぞ】




「そんな事を言われたのかい?イナフ」

「だから僕はイナフじゃー……ああもういいや、そうですよ」

「そしてその様かい?」

竹中さんは僕の口を指しながら言った
正確にはこの中にある舌を指しながら

「……はぁ……そうですよ」

熱烈な告白とも取れる言葉と共に僕の舌を思いっきり噛んだ男、閻魔を思い出すと胸の中がムカムカとしてきた

「へぇ……でもちゃんと手加減されてるね!結構浅いじゃない!」

人の不幸を愉しそうに言わないで下さい
これでも水を飲む度にひりひりする程度には深いし痛いんだから

「いやぁだって君があまりに愛されてるもんだから」

竹中さんは尚もクスクス笑う

「あれが愛情表現だったら彼に対する認識を改めないといけませんね」

僕は友人としてなら毎回ツッコミの鉄拳を喰らわしているが、恋人として閻魔を殴ったことは一度もない
閻魔の方も同じく……いや閻魔は僕が傷付くのを何より怖がった
情事の時も爪を立てないよう手袋をしていたし気が立っている時は会ってくれなかった

そんな閻魔があんなことするなんて

「それだけ君の結婚がショックだったってことだよ」

「でも初めは祝福してくれてたんだ」

よかったねー
おめでとー
って、それはもう満面の笑みで

「僕が謝っても『いいんだよ君は小野家の男子として跡取りは残さなきゃいけないから』……って」

そしてまたおめでとうって言ってくれた
だから僕は安心してしまった
閻魔が余りに祝福してくるもんだから調子に乗ってつい口が滑ってしまった

『アンタだって僕の子を見てみたいと思うでしょ?』

それは閻魔がしてくれた精一杯の虚勢だったのに

『興味ないよ』

閻魔の顔から急に温度がなくなる

『え?』

『君の子どもなんて興味ないよ』

しまった!
そう思った時は既に遅かった
閻魔はひどく怒ったような傷付いたような顔で

『君の好きな人になんか興味はない

興味があるのは君だけ』

そう言って閻魔は唇を重ねてきた
舌を噛まれたのはこの時で、僕はいっそ噛みちぎって欲しいくらい後悔していた

「馬鹿だったねーイナフ」

「自覚あります」

「謝らなきゃ」

「わかってます……でも閻魔あれから降りてきてくれなくて」

前は呼べばすぐに来てくれたのに

「身を引くつもりなんじゃない?ほら君も妻を娶る事だし……」

「いやです!閻魔を手放すなんて出来ません!!」

自分でも最低なのは解ってるけど、自分にはどうしてもあの人が必要なんだ

「閻魔以上に愛せる相手なんて一生出来ません」

妻の事は可愛いと思うし、これから愛を深めていくのだろう
子の事は慈しみ将来を夢みたり心配したりするだろう
そうやって人間としての幸せを築いていくだろう

それでもきっと閻魔の存在にはかなわない
アレは自分にとっての絶対だ

「嘘じゃありませんよ」

「そんなこと私に言われても……閻魔に言ってあげなよ……」

赤くなった竹中さんが僕から目を逸らした

「あ、でも会いにきてくれないのか」

「聞いてると思いますよ」

「え?」

「閻魔のことだから僕が竹中さんに話し出した頃から全部聞いてます」

「……ひょっとしてイナフ……私をダシに使った?」

「まさか」

相談したかったのも本当ですよ

「早く会いに来てくれないかなぁ……早く謝らせてよ」

天に向かって独り言のように呟く

「そろそろ抱かせてくんなきゃ限界なんだけど」

「はは……イナフったら」

横から竹中さんの苦笑いが聞こえた
閻魔はきっと瑠璃の鏡の前で顔真っ赤にしてるかなぁ?
『竹中さんの前でなに言ってるの!』って怒ってるかもしれない

今夜辺りお説教かも……

(なんでもいいから早く会いにきてよ)

会いたい

会いたい

限界なんだ


「約束するよ……もう二度とアンタを傷付けない」


嘘になったら
この舌、噛み切っちゃっていいから




『本当だね?』って聞こえた気がした




--終--