朝から急ぎの仕事を片付けていた妹子だったが、太子の側近達から行方不明の太子の捜索を頼まれた為に中断させなくてはならなくなった。 どうして自分が太子を探しに行かなければならないのか……どうせ竹中さんの所にでもいるのだろうと思うと無性に苛立った。 両手に沢山の仕事(勿論太子のもの)を抱えながら足元の野草に八つ当たりをする妹子。 「コラッ妹子なにやってんの!!」 すると突然目の前に空から人が降ってきた。いつも着地失敗する癖に今回は成功だ。 ひょっとして今までワザと失敗していたのかもしれない、基本的にツッコミ待ちの彼なら有り得る。 「閻魔?」 「もぉーさっきから何イライラしてんのか知らないけど、罪のない物に八つ当たりしたら地獄に落ちちゃうよ?」 「アンタが言うと脅しに聞こえるよね……」 閻魔の登場に妹子の表情が少しだけ和らぐ。 「で?何をそんなイライラしてたの?」 「えっと……太子がまた脱走しちゃって……」 「はは、相変わらずだねー太子は」 「そういうアンタも脱走して来たんじゃないの?」 「オレはいつもちゃんと仕事終わらせてるし秘書の了承得てます」 疑わしい話だが、もし閻魔がサボっていたら世界が回っていないから多分本当なんだろう。 「だいたい冥界って全部仕事場みたいなもんだから何処に行っても安らげないんだよね、鬼男くんといるのが一番気楽でいいよ」 「アンタそれは現在太子に逃亡され中の僕に対する嫌味か?それとも惚気か?」 「ん〜?後者かなぁ」 ニコニコしながら答える閻魔に妹子の苛立ちが再び浮上する。それに気付いた閻魔は妹子の背中を軽く叩いた。 「太子は逃げてるっていうより遊びに行ってるって感じだね……あそこは太子にとって家みたいなもんだから」 「家?」 「そうそう、ずっと家の中に居たらつまんないでしょ?だから別に仕事や職場の人が嫌いとかじゃないと思うよ?」 「そういえば外交以外の仕事は結構楽しそうにこなすような……」 「それに太子どこ行っても絶対に帰ってくるでしょう?」 そう言われ、妹子は妙に納得してしまった。しかしだからといって太子の逃亡は許すわけにはいかない。あの人がいないと仕事が回らないのだから。 「ということで僕は太子探しを再開するよ」 「うん、頑張ってねー」 手を振る閻魔に見送られ妹子は太子が行きそうな場所(まずは竹中さんの住む泉)へと歩き出した。 その姿が見えなくなった時、閻魔はポツリと呟く。 「あーあ……妹子行っちゃった……」 仕方ない、あの子はいつも太子優先だもの。そう思いながら淋しそうな顔をする。 だって自分はわざわざ妹子に会いに来たのに気に留めても貰えないのだ。 「……まいっか、先に帰って晩酌の準備しとこう」 そうして閻魔は妹子の家へと向かった。 「冥界には明日行けば良いもんね……ん?」 と、ここで閻魔は自分の中で“帰る”と“行く”が反対になっている事に気付いた。 「つまりオレはいつの間にか此処を自分の家のように思ってたんだよ」 「うわぁ……迷惑……」 数時間後「ただいま」と帰ってきた妹子に早速その話をしてみた。此処が自分の家になるなんて到底不可能なのだけど、きっとそんな話が酒の肴には丁度いいと思いながら。 (ていうか今更なにを言ってるんだ……この人) 勝手に家へ入り台所が使えるのだ、他人が聞けばきっともう充分な関係に思えるだろうに……妹子は閻魔を散々許容してきた自分が虚しくなる。 それとは対照的に閻魔はご機嫌に杯を重ねていた。とっくの昔に失った筈の帰る場所を再び手に入れた事が嬉しいからだ。 (はぁ……この人の為にもせいぜい長生きしなきゃな、僕) と、閻魔を見ながら子供が生まれたばかりの父親のような心境になる妹子なのでした。 end |