もし貴方が他人に対して予防線張ってるなら、僕が通れる分だけ綺麗に切り取ってやります


「太子、迎えに来ました、行きましょう」



太子がポカンとした顔で僕を見る
そりゃそうだろう、太子が僕を誘う事はあっても僕が太子を誘うのは珍しい
というか立場的に難しいのだけど、まぁ僕が太子にだったら許されるだろう
そんな事を考えている内に太子の顔が少し桃色を帯び出した

「ほら、なにやってるんですか?早く行きますよ」

「行くってどこに…」

「太子いつも僕に行き先なんか教えないじゃないですか」

すると太子は「それは…」とだけ呟く

「着いてからのお楽しみです」

そう言って手を差し出と太子は僕の顔をまじまじ見詰め
やがて笑顔で僕の手をとった
太子の手汗は相変わらず酷いけど、馴れてきたら気にならない

「じゃあ行きますよ」

そして二人は歩き出す
歩幅は太子の方が長くて、歩く速度は僕の方が早いから、自然と二人は横並びになる
貴方はドキドキ、僕はワクワク、そんな擬音が似合う表情で歩く
途中で駄菓子屋に寄ってみた、お菓子を選ぶ時も繋いだ手はそのまま
おばちゃんに「仲良しね」と言われて太子は嬉しそうだった



「…妹子?」

目的地に近づくにつれて太子が不安げな顔をし始めた

「どうしました?」

「あの…」

太子は僕の顔を「いいの?」って目でみてくる
おかしいな…予定ではもっと喜んでる筈なのに…

「あ、分かっちゃいました?」

「うん」

「一回こうやって太子を連れて来たかったんですよね」

そう言ったら太子は安心したようで

「うん」

少し照れ笑いを浮かべた
ああ、こんな事ならもっと早く連れて来れば良かった

「どうぞ太子、いらっしゃい」

そして僕達は今日の目的地、僕の家に着いた

「……お邪魔します」

いつも招かざる客扱いされてるからか、招かれると大人しくなるのですね貴方
こないだだっていきなりやって来ては無遠慮で上がりこんでた癖に
今日はちゃんと靴を脱ぐし…明日は槍が降るんじゃないか?

「じゃあお茶入れて来るんで適当に寛いでて下さい」

客間に通してこう言えばどっかの弟子男よろしく本格的に寛いで待っててくれると思ったのに…

「おまたせしましたー」

「あ、妹子ありがとう」

ちゃんとお客様らしい格好で待ってるなよ!調子狂うわ!!
おかしいよ今日の太子、きっとこのお茶を猛烈に指を入れて出しても怒らないで逆に僕の指の心配とかしちゃうよ

「太子…どうしたんですか?」

そう言って正面に座ったら太子に困った顔をされた

「太子?」

僕が太子を目の前に置きたがるのは
目を離すと何するかわからないっていうのもあるけど
本当は気付きたいだけ

太子の小さな心境の変化に

「いや…だってまさか妹子が家に自分から入れてくれるなんて思わなかったから…」

「どんだけ僕、心狭いと思われてんですか」

「だって私…妹子に迷惑ばっかかけてるから」

自覚あるならしなきゃいいのに

「ほんとバカですね太子」

「バカって言うなよ、摂政に…」

だってほんとにバカですよ
なにこれくらいで緊張してんですか?
今まで家に招いてくれるような人いなかったんですか?そんな訳ないでしょ?
貴方自身と仲良くなりたい人なら確かにいたでしょ?馬子さんとこの兄妹だって…


「あのですね太子」

俯いていた太子の顔を無理やり起して至近距離で言ってやった

「僕は太子にかけられる迷惑だったら全然迷惑じゃないですよ?」

太子はキョトンとして目をパチクリさせる

「妹子…倭国語おかしいぞソレ」

「いいんですよコレで」

それは都合のいい勘違いかもしれないけど
貴方は僕に迷惑を掛けるのと同時に言ってるんです
いつもいつも

「貴方は好きな人にしか迷惑かけませんから」

太子の顔がみるみる赤くなる
焼きイカ…じゃない茹でダコ状態だ

「妹子…それはそのつまり…」

「なんでしょう?」

「私はこれからもお前に迷惑かけていいってことか?」

「勿論です」

「わ…私の迷惑は凄いぞ?」

「覚悟できてます」

「その…妹子にしか迷惑掛けないんだぞ?いいのか?」

「光栄です」

そこまで言ったら太子は僕に飛びついてきた
僕は太子の腰に手を回しながら囁く

「ねぇ太子、僕もこれからは太子に迷惑掛けまくろうと思うんですけどいいですか?」

「当たり前だ!!」


耳元で大声で返事をされた
これも迷惑だ


「じゃあ手始めに…」



明日から毎日貴方を連れ込んじゃおうかな?

そう言ったら太子の体がピクッと反応した


僕の言ってる意味が分かったみたいだ


「迷惑ですか?」


「別に…」


妹子だったらいいけど…と口をもごもごさせてる太子を
僕はもう一度ギュッと抱きしめた






end