愛されたいと嘆く者は知らないのだろう
愛される事より愛を受け容れてもらえる事がどんなに難しいか

君がオレを本当はどう思ってるかなんて、きっと一生わからない
君とオレに同じものなんて何もないから



[君といるとね]



仕事を終えた閻魔は屋根の上に登り
ただ何も考えず中天をぼんやり見詰めていた

「こんなところでなにしてるんですか?」

やがてそこに一人の鬼が現れた
彼は少し息を切らしていた

ひょっとして捜してくれてたのかもしれない、そんな発想が自然と出てくる自分に閻魔はくすぐったさを感じた
どうして鬼男が傍にいるだけで、こんなに恥ずかしいのだろう

「ちょっとお月見してたんだ」

「月なんてどこにもないじゃないですか」

鬼男は空をひととおり見渡してから指摘した
閻魔なら幻の月くらいつくれるだろうと思ったから

「思い出してたの…昔見たことある月を」

思い出していたのは鬼男に出逢うずっと前に見た月
あの時どんな気持ちだったのかもう覚えていないけど
きっと今と全然違うに違いない

「ねぇ今度お月見しよう?満月じゃなくていいからさ!今日みたいに曇ってない日に…」

「月なんて見て楽しいんですか?」

「オレは楽しいけどね」

君とみたらどうなるのかな?
きっとあの時みた月よりも素晴らしいのだろう

「そうですか…」

「そうだよ!だから今度一緒にお月見しよう?」

「別に構いませんが…」

屋根の上だというのに飛び跳ねて喜ぶと、危ないですよと苦笑された

「鬼男くん!ありがとね!!」

「…大袈裟ですよ」

大袈裟なんかじゃないよ
本当に嬉しくて

「あのね鬼男くん…オレね君と逢ってから毎日ちょっとずつ楽しい事が増えてるんだ」

オレの過去とか、今まで大切に想ってきたもの
それは絶対譲れないけど
現在のオレがあるのは君がいるから

「だから本当ありがとね」

「……」

その瞬間、雲がはれて白く光る月が現れ二人を照らした
艶やか白い肌とは対照的に少年のように笑う閻魔を鬼男は真っ直ぐな気持ちでみていた

「閻魔様」

「…なぁに?」

鬼男が自分を名前で呼ぶのは上機嫌な証拠だ
こんな時はとことん甘えさせてくれると知っている

「もう一度誓います」

突然目の前に跪かれ閻魔はドキっとした
鬼男は目を閉じ、自らの心の内を淡々と言葉にする

「貴方が何者だろうと関係ない、他人が何を言おうと構わない、この身が朽ちるまで傍にいて…僕が貴方を守ります」
そういって閻魔の手の甲に口付ける

「願わくば永遠に」

愛されたいと嘆く者は知らないのだろう
愛される事より愛を受け容れてもらえる事がどんなに難しいか


どうしてこんなに満たされるんだろう
溢れ出そうな感情をどうしたら止められるのだろう

もっと、一緒にいたい

絶対に一緒でありたい

「ちょうど月が出てきましたがどうします?お月見」

立ち上がった鬼男が閻魔に訊ねると

「ううん…今度でいい…だから…」

「だから?」


「今日はずっとこのままで…」

閻魔は鬼男に近づくとその胸に頭を寄せた
鬼男は傷付けてしまわないよう優しく閻魔を包み込んだ



「鬼男くん、オレも誓うよ…」


「なにをですか?」


「分かってるくせに…」






愛したいと嘆く者は知らないのだろう


幸せは愛を受け容れた先にあることを




月の夜に永遠を誓う







end