「鬼男くん……この子たちはなに?」

オレは聞いた

「賽の河原の子供達です」

鬼男くんは答えた

「何で此処にいるの?」

此処というのはオレの自宅兼仕事場のある閻魔庁

「社会科見学です」


鬼男くんはまたシレっと答える

「社会科見学ぅ?」

オレと鬼男くんは部屋の隅で子供達に聞こえないようにコソコソ話す

「賽の河原幼稚園の園長から頼まれたんです。この子たちが一度閻魔庁の中を見てみたいって言うから」
「善ゴメスさんめ……」

賽の河原に幼稚園をつくったのはオレ、善ゴメスさんをそこの園長に任命したのもオレだから気になってちょくちょく連絡入れたり顔を出したりしてたのに
そういうこと頼むの鬼男くんなんだ……善ゴメスさん

「ていうかよく君が許したね」
「今日は審判以外の仕事をしていただく予定でしたし」

たしかに子供の前で罪状読み上げたり「君は地獄逝きだ」なんて言いたくないよ……仕事ならちゃんとするけどさ

「子供が見ていたら貴方も少しは真面目にするかと思いまして」
「いつも真面目にやってるじゃない」
「裁判以外の仕事中は僕と二人きりなのをいいことにセーラー着たり着せようとしたり飴とかチョコレートの付いたベッタベタの手で書類を触ったり居眠りを始めたり急にフォーエバーしたり……」
「スミマセン」

耳が痛くなるような話はここまでにして、オレは先程から放置中の子供達を見た
うーん子供は好きだけど苦手なんだよね……あれ?ちょっと矛盾してる?

「話は終わったか?」
「うわっ吃驚した」

引率の悪ゴメスさんにいきなり話し掛けられる
悪ゴメスさんは強面なのに子供達には人気みたいで、体中に子供をいっぱい引き連れていた
最初この人が幼稚園の先生になるって聞いて不安だったけど意外と大丈夫みたい

「お前らの邪魔にならねぇよう俺が見とくから気にせず仕事してていいぜ」
「いや……でも……何もお構いできないし」
「特別なことはいい、普段の姿を見るのが社会科見学だ」
「はぁ……」

前もって言ってくれたら張り切って準備したのになぁ

「さぁ大王、お仕事始めますよ」
「はぁい……」

キラキラした視線を背中に感じながら仕事を始めた
あの子達はいつも黙って小石を積んでるだけあって大人しい
ただのエゴだけどオレはそれがちょっと悲しいんだよね

「みんな何か質問とかあったら遠慮しないで言ってね」

子供達を振り返っていれば二十四の瞳(どっかで聞いたことある)が一斉に輝く……ま、眩しい

「ねぇ鬼男くん……オレって汚れてるのかな?自分ではまだまだ純粋でナチュラルなおっさんだと……」
「はい、馬鹿なこと言ってないで仕事して下さい」

鬼男くんは子供の前だというのに鬼だ……まぁ言われるがまま仕事するけどさ、
そんなことを思いつつ書類にサインをし続けてたら万年筆のインクが切れた

「あ、鬼男くんアレとってーー……」
「はいはい」
「ありがとうーー」

鬼男くんから新しいインクを受け取ると今度は鬼男くんの方から

「すみません大王、あの件なんですが……」
「あああの件か……オレはアレよりアッチを優先させた方がいいと思うけど」
「やはりそうですか、解りました。そう伝えておきます」
「うん、お願い」

鬼男くんはオレの答えに満足そうに頷いた
多分オレと同じこと考えてたんだろうなぁ

「夫婦みたい」

……へ?

「閻魔さまと鬼男さん、うちのパパとママみたい」

後ろから可愛らしい声が聞こえたと思って振り返ってみると、年長の女の子がニコニコととんでもないこと言い出した

「ふたりは愛し合ってるの?」
「もうチューはした?」
「子供はいないの?」

それから怒涛の質問攻撃が開始される
今時の子供はマセてるなぁ、いや何百年か前の太子にも同じようなことされたから時代とか年齢とか関係ないのかも

「こら質問するなら一人ずつにしろ。コイツは聖徳太子じゃねぇんだから」

丁度のタイミングで名前が出たけど太子にそんなスキルないですよ悪ゴメスさん
ていうか質問自体を止めさせてよ!社会科見学と関係ないじゃんか!

「ねぇ鬼男さん、閻魔さまと結婚してるの?」
「えっと……」

君も照れてないで否定してくれるかな?鬼男くん……
そりゃオレだって鬼男くんとそうなれたらなって思うけど色々大人の事情があって無理なんだよ

「まぁ気にすんな閻魔!」
「慰めてくんなくていいから、あの子たち止めてあげて悪ゴメスさん……鬼男くん困ってる」
「それは無理だ」

駄目だ……この人、多分子供に弱いタイプの人だ

(しょうがない……あの子たちが飽きるまで待つか)

子供は飽きっぽいっていうし……




数分後、みんなの質問攻撃からようやく解放された鬼男くんは疲れきった様子で言った



「もう社会科見学なんて二度と許可しません」



うん、だろうね




end