このところ妹子は毎日、太子の教室に訪れる

「あー妹子どうしたの??」

妹子に気付き嬉しそうに妹子に駆け寄る閻魔
その閻魔に抱きついていた太子は、閻魔が突然自分の腕の中から抜け出した為、一瞬よろける

「ちょっと太子に用があって、鬼男も一緒だよ」

「え?」


今日は鬼男も誘って来たらしい

閻魔と鬼男の間に気まずい雰囲気が漂う、先日の対面で唯一友人関係に進展しなかった二人である
そんな二人に「空気を読ませたら飛鳥一!」で有名な妹子まで気まずくなってしまった

妹子と閻魔が困っているので太子はすかさず助け船を出す

「そんなとこに立ってないで閻魔も妹子も鬼男さんもこっちに来て座りんしゃーい」

「あ、うん……行くよ閻魔」

「うん、鬼男くんも、どうぞ」

「は……はい」

太子に促されて椅子に座る三人
恥ずかしそうな閻魔と、そんな閻魔を避けているような鬼男に太子は溜息混じりの笑みを零した

「妹子、私に用ってなんだ?」

「ああ太子、今日一緒に帰んない?」

「え?いいけど……閻魔も一緒だよ?」

すると妹子は閻魔の方を振り返り

「もちろん閻魔も一緒に帰ろうな」

「う、うん……」

妹子の勢いに圧倒されていく太子と閻魔

(誘われてないけど……この場に連れて来られたってことは俺も一緒なんだろうな)

と、微妙な表情を浮かべる鬼男
そして三人とも妹子らしくないその行動に驚いていた

「どうしたんだ?妹子」

鬼男が小声で尋ねると妹子は無言で目を閉じた


(饅頭に言われたから、じゃないけど……)


人間嫌いな自分が、嫌いじゃないと思える人達だから

もっと一緒に居てみようか

少しだけ積極的になってみようかと思った

「別に?特に理由はないよ」


目を開くと、新しい世界まで開けた気がした


「後、太子ほらコレ、持ってきたよ」


妹子は薄い冊子を太子に渡す、無料で配布される観光案内のようだ

「おーありがとう妹子」

「なにそれ?いったいなんに使うの?」

「今度みんなでスタンプラリー参加しようと思ってな、その予習だ」


「は?」


閻魔のみならず冊子を持ってきた妹子までもが間抜けな声を上げる
それもそうだ、地元のスタンプラリーに参加したところで何が楽しいというのだろう

「あのさ……一応聞いとくけど“みんな”って誰?」

「もちろん、私と妹子と閻魔と鬼男くんに決まってるじゃないか」

「人を勝手に頭数に入れてんじゃねーーーー!!」

「え?妹子……イヤなのか?」

太子は一部の人間には抜群の破壊力のウルウル上目づかいビームを発射した
そして妹子はその一部の人間に分類されていたりするのだった

丁度、積極的に

「……わかりましたよ……行けばいいんでしょ!もう!!行ってやるよオラ!!」」

「おお!なんか分からんけど妹子やる気出た!!」

「オレも別にいいけど……鬼男くんはどうなの?」

「大丈夫だろ、別に」

これは太子の弁

「バイトあっても休ませりゃいいしね」

これは太子の弁

「お前ら……」

二人の勝手な発言に頭をを抱きながらも「しょうがねぇな」と笑う鬼男

それを見て閻魔は笑顔を零した
なにはともあれ閻魔にとって鬼男と遊びに出かけられるのは嬉しいのである

(オレ鬼男くんから嫌われてるのにな……)

そんな見当違いな事を思いながら、自分と太子の弁当箱を鞄から取り出しす閻魔だった



* * *



そして迎えた楽しいスタンプラリー当日、の筈なのだが

太子は何故か嘆いていた

「いったい私がなにをしたっていうんだ」

「こうなったのも全部太子が暴走した所為でしょうが……」

ツッコミを入れるのは小野妹子
太子がスタンプラリーのコースを外れてどんどん変な道へ進んでいった結果、一面霧だらけの山奥に着いてしまった
先ほど見かけた立て看板を信じるなら此処は奈良県にある某霊山の頂上付近の筈だ

「二人とも大変だ!」

「どうした?乳首飛んでったか?」

「違うわ!!上杉が気の毒なほど消耗してんだよ!!」


それを聞いて急いで閻魔に駆け寄る太子
此処は霊山であると同時に地元で有名な心霊スポットでもある

酷い霊媒体質の閻魔は耐え難い気持ち悪さと闘っていた


「ごめん閻魔……私のせいで……」

「いいよ、気にしないでオレ大丈夫だから」

そう言うが全く大丈夫そうに見えない

「しょうがない……」

「えっぐぁ!?あ!??」

突然襲ってきた浮遊感に驚愕の声を上げる閻魔
目を開けると黄色い髪がすぐ横で揺れている

「なに?この状況……」

「なにって、おんぶだけど」

その言葉ど通り、閻魔は鬼男におぶられていた

「ちょ!自分で歩けるから降ろして!!」

「嘘つけ立ってるのだってやっとの癖に……それに早く町に着いた方がいいでしょう?」

「でも……悪いよ」

「俺は大丈夫だから気にすんな、悪いのは全部太子だ」

「そうだよ全部太子が悪いんだから閻魔は大人しくおぶられてなよ」

「反論するつもりはないけど……あんまりだぞ」

「だって太子が悪いだろ」

「そーだそーだ」

「……」


このまま自分が断り続けては太子がもっと酷いこと言われてしまう
そう思った閻魔は鬼男の好意を素直に受け入れることにした


「わかった……お願いします」

「はい」

山道といえど舗装されているのでそれほど苦でもない
それから暫く黙って下山していると一同は休憩所に到着した

「ここでちょっと休憩しようか、自販機もあるし」

「ベンチもあるしね」

「そうだな、あっ簡易トイレもある!急げ!」

「ちょっと待って太子!僕が先ですよ!!」

トイレを見つけるや否や走っていってしまった妹子と太子
必然的に鬼男と閻魔の二人きりになってしまった

「俺なんか飲み物買ってくるけど上杉は何がいい?」

閻魔をベンチに座らせた後、振り返って訊ねる鬼男

「……」

「どうしました?」

「いや!べ、別に……」

ただ見惚れていただけ
そんなことは口が裂けても言えないが今日の鬼男の行動は閻魔の心を揺らすのに充分だった

優しくされると胸が締め付けられるようで
おぶられた背中からとても温かい懐かしい匂いがして
思い出そうとするとピリピリと微かな痛みが走る

「鬼男くんは……優しいね」

「え?いや普通でしょこれくらい」

「そんなことないよ、君がモテる理由わかるなー」

なんで彼女作んないの?
軽口で言った言葉が両者の心に鉛を落とす

「俺、好きな人がいるから」

「え……?」

「その人がいるから……今は誰とも付き合う気はないよ」

何処か遠くを見つめる鬼男を閻魔はただジッと見ていた
鬼男に好きな人がいても不思議と悲しくはない
この気持ちは勘違いだったのか……閻魔はそう思った

でも

悲しみではない切なさが心いっぱい広がっていた




続く