二人の閻魔は手を繋いで立っていた
片方は暖かくて片方は冷たくて

でも、そんなことも気にならないくらい二人の気持ちは一つだった

「今からこの木に生気を送るからね」

大きい方の閻魔は言った

「オレはどうしたらいいの?」

小さい方の閻魔がそれに応えた

「手を繋いでくれてるだけでいいよ、後はオレがなんとかするから」

そういって木の幹に翳す
小さい閻魔は自分の体から何かが吸われていくような感覚に見舞われたが、それを形容する言葉が見つからない

「ありがとう……ここはこれでもう大丈夫だよ」

礼を言われ、呆気にとられた

「え?もう終わりなの?」

「うんそうだよ、あと数十か所付き合ってもらうけど」

「……そうなんだ……」

「ごめんねぇ……」

「いや、大丈夫!大丈夫!」

クーデターによってあちこち破壊されてる冥界を保つ為
小さい閻魔は大きい閻魔と協力して“支える場所”に定期的に活力を与えなければならないらしい

「ねぇオレほんとにそれだけでいいの?クーデターを収めたりしなくていいの?」

閻魔庁への帰り道、未だに手を繋いだままだ

「そういうのは別の神様の役目、オレ達にはオレ達の役目があるから」

それにオレの心情はどっちかっていうと人間側の見方だから……そんなこと言ったら怒られちゃうんだけどね
そう思いながら笑う、大きい方の閻魔

「それより君こそいいの?こんな役目引き受けちゃって……イヤだって言われても困るけどさ」

今まで住んでいた場所から離され、理不尽な役目を突然任されたのだから、もっと抵抗するかと思っていた
すると、小さい閻魔は暫く黙って考え込んだ後

「……なんか、自分でも不思議なんだけど……なんかとっても懐かしい気がするんだよね此処、だから……此処が崩れちゃいそうなら何とかしたいし……」

ポツリ、ポツリと言葉を零した

「それに帰っても……みんなオレのこと忘れちゃってるんでしょ?」

「……ごめん」

「ううん、どうせ帰れないならそっちの方がいいし」

「聞き分けいいねー、オレの若い頃とは大違い」

「閻魔さんと一緒にしないでよー」

「!!」

大きい方の閻魔がピタッと止まったので小さい方の閻魔が怪訝な顔で見上げた

「閻魔?どうしたの?」

「……急いで閻魔庁に戻るよッ!!」

「え?」

突然手を強く握られたかと思うと足元から青白い光が発生した
一瞬しか見えなかったが魔方陣の様だった
そして次の瞬間には閻魔二人は元いた場所、閻魔庁の扉の前に戻っていた

「閻魔?」

大きい閻魔は焦った様子で扉を開けた
その向こうに在ったのは

「はっ……」

思わず息を詰まらせる光景

「何故……君達が?」

太子、妹子、阿部……そして鬼男が二人を待っていた

「そんなとこに立ってないで早く中入りんしゃーい」

太子の緊張感のない声に閻魔二人は少し落ち着いた

「っていうか……ここオレん家なんだけどね」

嘆息しつつ入室する大きい閻魔

「太子……オレのこと忘れてないの?」

恐る恐るといった面持ちで尋ねる小さい閻魔

「ごめん、でも妹子が覚えてるぞ」

「妹子が?」

「うん、ニャンコさんのおかげでね」

「……ニャンコさんかぁーー」

それだけで全てを察した閻魔をみて阿倍は

(伊達に長生きしてる訳じゃないな)

と、脱臼、嘔吐、気絶寸前になりながらも感心していた


場所を閻魔の自室に移した一同
地の利を得ているのは閻魔だが、数の利では妹子達が勝っている
よってここからは妹子の独壇場となる訳であった

「悟空さんからも話聞いたよ?定期的に力与えるだけならソイツずっとコッチにいる必要ないじゃん」

「で、でも……」

「必要な時に呼んでくれたら僕がソイツをコッチ連れて来てあげるよ」

それを聞いた小さい方の閻魔の瞳が輝きだす

ひょっとしたら自分は帰れるかもしれない

「あの鏡は僕が持ってていいんでしょ?」

「でもそれじゃ妹子が大へ……」

「たしかに大変だけど、出来ない事じゃないならやるって前にも言ったでしょ?」

妹子の男らしい発言をポーとしながら聞いている太子と、同意するように頷く鬼男

「だいたいね……記憶がなくなってもソイツと過ごした日々が消える訳じゃないんだよ」

これは太子に言われたセリフ、ここからは妹子自身の本音

「ソイツがいるといないのじゃ世界は全然違ってた、太子だって今の太子じゃなかったし……だから僕はソイツに感謝してる」

妹子は閻魔の目を真っ直ぐ見詰めキッパリとこう告げた

「僕らの世界にソイツは必要なの、だから返して。その為に僕が出来ることなら何でもするから」

「いも……」

「はぁ……」

それを聞くと閻魔はわざとらしく大きな溜息を吐いて

「……わかった、好きにしなよ」

諦め口調で言い投げた閻魔に妹子はズイっと迫る


「じゃあさっさとみんなに閻魔の記憶戻しやがれこのハート泥棒が」

「う……うん(ハート泥棒て)」

首を傾げつつ部屋のクローゼットを漁る閻魔
スーツケースを抱えて戻って来たかと思うと中から巨大なカスタネットを出した

そしてカスタネットをパカッと開いた

「なんすかソレ?」

「これ?ヒ・ミ・ツvウフフ〜〜「殴るぞお前」

「……これは思い出のカスタネットだ」

軽くデジャブを感じながら説明する大きい閻魔

「これに皆の記憶が詰まってるんだぞ?」

そうこうしている内に全員の心に続々と記憶が戻っていく

「さぁだんだん思い出して来てる筈だ」

すると妹子が不思議そうに言う

「ふ〜ん……だんだん思い出すってどんな感じなんだろう」

それを聞いた大きい閻魔は妹子に向かうと複雑な笑みを浮かべた

「妹子も……ちゃんと思い出すからね」

「は?僕は何も……」

「言ったでしょ?君は大切なこと忘れてるって」

驚く妹子にウインクを投げる大きい閻魔

「ウインクすんなオッサンが、キモイ」

「……んな!オッサンじゃなかったらいいのか!??」

「そうだなー、私の閻魔がしたら可愛いと思うぞ」

妹子閻魔の会話に太子が口を挟む

「いつから上杉がアンタのになった……まぁオッサンと比べたら見れない事もないだろうな」

「鬼男くんまで酷い……って」

「二人とも思いだしたの?オレの事!??」

「ああ、閻魔ごめん……全部思い出した忘れててごめん!!」

「本当ごめんなさい……もう忘れないから」

「太子…鬼男くん」

自分を思い出してくれたことに感激の涙を流す小さい閻魔


「…………」


そんな感動のシーンに妹子は一人激怒した表情で


「このアワビがーーーー!!!」


太子に対してズゴっと一発・顔面クラッシュ
それで太子は数メートルぶっ飛ばされた


「ちょ!!いきなり何を!!」

「こんのぉアホ摂政が!!なんで今まで教えてくんなかたんですか!!?」

「妹子!?オマッ思い出したのか!??」

飛鳥時代、遣隋使だった頃、一緒にいた時間を?

すると妹子は倒れてる太子に思い切り抱き付いてきた


「太子……太子、忘れててごめんなさい……」

「妹子……」

泣きじゃくる妹子を、太子も涙を流しながら抱き返した

事情の掴めない鬼男と阿部は顔を見合わせ
閻魔はただ笑顔を湛えていた




続く