今日は新しい生徒会になって初めての定例会
生徒会選挙で無事書記に当選した芭蕉は生徒会室の中をキョロキョロ探索していた

「失礼します」

「あー曽良くんいらっしゃい」

すると、そこへ芭蕉と同じく生徒会選挙で見事書記に選ばれた曽良がやってきた

「……これから毎日この顔と突き合わさなきゃならないのか……」

「そんな心底嫌そうに言わないでよ!!」

「……他の人はまだ来ていないんですか?」

「う、うんそうみたい……あれ?太子くんは?一緒じゃなかったの?」

会計の入鹿、北島のクラスは授業が遅れているらしいが、曽良と同じクラスの太子はもう授業が終わってる筈だ

「知りませんよ、あの人の動向なんて」

「いや、クラスメイトなんだから少しは……」

知っといてよ、と言いかけて芭蕉は止めた
曽良が太子の動向に興味があっても嫌だ、と思ったからである

「なんですか?」

「いや?別に……あ、ワトソン先生はさっき「今日は文化祭についての話し合いをしてって皆に伝言しといて!僕はベルさん探してくるから!」って言って出ていったよ……困った先生たちだよね」

「あの顧問と副顧問に関してはもう諦めるしかないでしょう」

曽良の言葉に苦笑いを浮かべる芭蕉

「おや?」

ここで、ふと曽良が生徒会長の机上に飾ってある花に気が付いた

「誰ですか?太子の机に彼岸花なんて飾ったの?」

「さぁ太子くんじゃない?でも珍しいよねーこの時期に」

学園近くに咲いていた彼岸花はもう葉だけになっている

「芭蕉さんは彼岸花好きなんですか?」

花を眺めるにつれ頬が緩んでいくので曽良が訊ねると、芭蕉は頷いて小さく笑った

「うん、だって綺麗じゃない?曽良くんは?」

「そうですね、嫌いじゃありませんが……」

言いながら曽良は彼岸花の一本を短く折った

「わっ!曽良くんなにして……ウブッ」

そして芭蕉の口にそっと挿した

「ふぉらくん?」

彼岸花を咥えたまま曽良を不思議そうに見つめる芭蕉
それを暫く凝視していた曽良は彼岸花を芭蕉の口から徐に抜き出し今度は芭蕉の髪に活けた

「芭蕉さん、彼岸花の茎には毒があるって知ってますか?」

「バッショー!!ななななななにすんのさ!!?」

「皆さん危険なので絶対にマネしないで下さい」

「誰に言ってるの?」

「そこの二人に」

「え?」

曽良の目線を追うと入口で固まっている入鹿と北島の姿が明かに「なにしてんだコイツら」という顔をしている

「いつから!?ていうかどこから見てたの?」

「芭蕉さんが花咥えて河合を見つめてる所からだな」

「なんでそんな変な場面からーーー!??」

それ以前から変な場面もあった気もしたが、あえて何も言わないでおく曽良

「これで会長・副会長以外は全員揃いましたね」

「うう……君なんでそんな冷静なの??」

するとそこへ

「無限に広がる大宇宙!!」

「遅れてゴメン!!太子がモタモタしてたもんだから!!」

会長の太子と副会長の鬼男がドアを開けて入ってきた
太子の腕には大きな紙袋が提げてあった

「モタモタなんてしてないぞ!ただちょっとコレの準備に手間取っただけだ!」

「それをモタモタっていうんだよ!!だいたい何だよソレ!??」

「だから、生徒会室に着くまでのお楽しみって言ったろう?」

登場早々テンションの高い会長と副会長、これはいいコンビになりそうだ

「太子くん、鬼男くん、とりあえず座ったら?」

「あ!芭蕉さん髪かわいいいな!どうしたんだ?」

太子が聞くと曽良の表情が少しだけ動いた

「あれ?この花、太子くんが飾ったんじゃないの?」

「違うぞ?」

「じゃあ誰だろう?太子くんへのプレゼントかな?会長の机に飾ってあったから」

「この花じゃプレゼントというより献花に思えるんだが……」

「なっ!失礼だぞ入鹿!!プレゼントだよ!だってマンジューシャカは私の好きな花だし!!」

「マンジューシャカ?」

「彼岸花の別名だよ」

『地獄花』『死人花』などと呼ばれ忌み嫌われる事の多い彼岸花だが、この呼び方だと『天上の朱い花』という意味だ
だから太子はこの呼び方が好きで、ずっと昔から使っている

「私大好きなんだ!この花は昔、妹子と一緒にー……」

話しながら太子の顔が急に赤く染まった

「どうしたの太子くん?妹子くんとのラブラブエピソードでも思い出したの?」

「いや…思い出したっていうか……」

自分がこの花を好きなのを知っているのは妹子と閻魔だけだ
そういえば閻魔が冥界の王宮の庭には沢山咲いてるって言っていた
閻魔が摘み帰ったのか?だがそれなら直接自分のところへ持ってくるだろう

という事は、この花を飾ったのは……

「お?どうした太子?」

赤い顔でニヤける太子を珍しいと思ってか鬼男は随分楽しそうな顔で近寄った

「ほら太子、俺にも詳しく教えろよ」

太子の肩を抱いてからかう鬼男、ますます赤くなる太子
その時だった

「ちょっと太子ー?なんだよ急に呼び出して!ていうか、このご時世に手紙って!?メールでいいでしょう!しかも良いお土産持ってこいって校舎の中じゃ無理だろ」

と、ツッコミながら妹子が登場

「ちょっと太子ー?オレにはメールだったのに妹子には手紙って何その差!?しかもオレさっきまで一緒にいたんだから……その時言えば良かったじゃない」

その後ろから閻魔もひょっこり登場、そして鬼男と太子を見て硬直する
鬼男は太子から離れると妹子に近づいた

「なにその手紙?えーっと……『アホの妹子へ』?」

「そこのアホの太子にこれで呼び出されたんだ」

「アホっていうなアホ妹子」

「なんですか?アホ太子」

太子、妹子のアホップルがアホアホうるさい中、閻魔の硬直もだんだん解けてきた
すると鋭い視線を感じてパッと其方へ振り向くと、入鹿の横に立った長身の男が閻魔を凝視していた

(決意表明の時に睨んできた人だ……)

思わず太子の後ろに隠れる

「ん?……どうした?閻魔?」

自分の後ろで震える閻魔に優しく声をかけた太子は、その視線の先にいる人物に気付くと微笑みを零す
太子は閻魔の背中を押しながら優しく諭すように言った

「閻魔、あの人は北島さんって言う人だよ」

すると今まで黙っていた北島が一言「ああ、よろしく」と呟いた

「目つき悪いだけだから怯えなくていいぞ」

「太子の友達?」

「ああ、漫研に助っ人しに行った時に知り合った」

「あの人、元漫研なの!?」

「そして漫研の助っ人していたのか太子!?」

閻魔や入鹿がツッコミを入れる中、妹子は冷静に「太子前世から絵上手かったもんな」等と思っていた

(でも……太子)


太子の横顔を見ながら閻魔は不安に思う

目つきだけの問題ではなく、自分を見る北島の瞳に憤怒や憎悪の感情が込められていた


(なんか、あの人……変な感じがする)


しかし余計な心配をかけたくない閻魔は、結局“ある出来事”が起こるまでそれを誰にも言わなかった




続く