数分後、すっかり落ち着いた生徒会室で一同は妹子と閻魔が淹れたお茶を啜っていた

「ところで太子、ずっと気になっていたがその紙袋はなんなんだ?」

「よくぞ聞いてくれた入鹿!……えっと、よし!全員揃ってるようだな?」

生徒会ではない部外者が二名ほどいるが誰も気にしてはいない
日和学園において太子と閻魔はセットみたいなもので、妹子が太子に付き合わされるのはお約束である
太子が会長に就任して以来どうせ雑務を押し付けられるのだろうと妹子は覚悟していた

「見ろ!コレが生徒会メンバーのユニホームだ!!」

「はぁ!?」

太子が手にしているのは鮮やかな青いジャージ、見覚えのありすぎるソレに妹子は頭を抱えた

「なんだよソレ!?」

「だから生徒会執行時に着るユニホームだって、ちゃんと校長の許可も取ってあるぞ」

(あのアホ校長……)

「ちゃんと色分けされてるんだぞ、私がブルー、鬼男さんはイエロー、曽良はスカイブルー、入鹿はホワイト、北島さんはブラック、そして芭蕉さんは抹茶」

「どうして私だけ抹茶なの!?物凄い疎外感が……」

「じゃあ芭蕉さんはダークグリーンね、ほら皆!早速着替えて!」

太子は目をキラキラ輝かせる、この太子に敵う者など誰もいない……五人は渋々着替えだした

「で、はいこれ妹子はレッド、閻魔はバイオレット」

「多分そうだろうと思ってましたが僕らのもあるんですね、そしてやっぱり僕らだけノースリーブですか」

「お前達は正規生徒会じゃないからなー……閻魔はセーラーにするか迷ったんだが」

「ブフォ!!」

鬼男は盛大に噴き出した

「セーラーってアンタ変態か!」

「ちがっ!確かにセーラー服とか見るのは好きだけど!別に着たりとかしないから!!」

(まぁ……それならセーフか…)

「えー閻魔、前はよく着てくれてたじゃないか?」

(やっぱり変態だったー!!チクショー!!)

「それはちっちゃい頃の話でしょ!!高校にもなってそんな恰好してたら痛いわ!」

「でもちっちゃい頃って言っても中二くらいまでは着てただろ?」

「遅っ!!それは遅っ!!」

「とにかく!いくら太子の頼みでも人前じゃ絶対着ないから!!」

人前じゃなかったら着るんかい!とツッコミ全員が心の中で突っ込んだその時

「おい閻魔」

呼ばれて閻魔はイライラしながら振り返る

「なに?」

「安心しろ、俺にセーラー属性はないから」

真剣な表情でそう言った北島は先程とは違う意味で怖かった

数分後、全員が着替え終わり再び落着きを取り戻した
各々がカラフルなジャージを着用している(内二人はノースリーブ)以外はごく普通の生徒会室だ

「って、こんなまったりしてる場合じゃない!!」

いきなり妹子が湯呑を乱暴に置いて叫んだので皆そこへ注目する

「どうしたの妹子?」

「どうしたのじゃないよ閻魔!もう約束の時間とっくに過ぎてる」

「え?……あーほんとだ!!」

時計をみて急に焦り出す閻魔

「ひょっとして今日、あの日か?」

冥界に呼び出されてるのか?と太子が小声で聞くと二人とも勢いよく頷く

「それは悪かった!二人とももういいから早く行ったげて!」

「はい!よし行くよ閻魔」

「え?あ?この格好で!?」

「時間ないんだからしょうがないでしょうが!!」

流石ジャージで隋まで行った妹子は肝が据わっている
それに引き替え閻魔はまだ恥ずかしそうだ
妹子は閻魔の手をガシッと掴むと勢いよく立ちあがらせた

「じゃあ皆さん失礼しました!!」

「うおぁあああ!太子、鬼男くん、みんなバイバイ!!」

こうして妹子と閻魔は風のように去って行ったのである


「大丈夫かなアイツら……」

二人が出て行った後、ドアを心配そうに見る鬼男、太子は鬼男を安心させるために言った

「大丈夫!閻魔に悪い虫つかないように妹子にちゃあんとお願いしてあるから!」

すると鬼男は呆れたように言った

「いや、そういう心配はしてないから」

ちなみに閻魔にも『妹子に悪い虫が付かないように』お願いしてある

「だいたいなぁ言っとくけど俺達は太子の思ってるような関係じゃない、ただの友達だよ」

「え?そうじゃないの?」

「じゃないよ!だって閻魔も俺も男だろ?」

「…………あ」

そういえば忘れていた、鬼男が閻魔を好きになる事を当然のように思っていた

「別に太子達を否定してる訳じゃないんだ……ただ俺がそんなんじゃないってだけ」

物心ついたころから前世の記憶があり、妹子が好きだった太子にとって鬼男の言葉は新鮮だった
きっと妹子に出会う前の自分もこうだったんだろう

「男好きになっても幸せに出来る自信無いし」

「そんなことないよ!」

鬼男の思考はごく一般的なもので、否定しようのないものだ
でもそれだけは否定しなきゃいけない自分と妹子の為に、太子は真面目な顔で淡々と語り始めた

「昔だけどな……私にだってモテた時期があったんだ」

お前は今でもモテモテだけどな、と鬼男は思ったが、太子本人が気付いていないので口には出さなかった

「同時に何人かから告白されたこともあった……でも私にとっては皆大事な人で、誰を好きになれば良いのか分からなかった」

もしこの場に妹子がいれば「油断ならない」と静かに憤っていたところだろう

「……そんな時ある人から誰を好きになれば幸せになれるかじゃなくて“好きな人を好きでいられるのが一番幸せ”だって言われたんだ」

だから私は妹子を好きになったんだよと心の中で続ける

「へぇ……良い事言うねーその人」

「だろう?だから……そりゃ色々問題はあるだろうけど……幸せになる事だけは性別とか関係ないと思うんだ」

その人には今でも感謝している……でも、その人の事がどうしても思い出せないのは何故だろう
大切なことを教えてくれた人の筈なのに

「そっか……その人に好きになってもらった人はきっと幸せだな」

そう言った鬼男に無性に泣きたくなったのは何故だろう



* * *



夜が怖いと思うのは


静寂と暗闇に満ちているからじゃなく


君の声と瞳を思い出すから


君の笑顔、泣き顔、怒った顔、無表情


私から何もかもを奪っていく


この世界には嘘と真は同じ数だけあって


でももっと沢山あるのがね嘘と真の中間にある道


誰でも選ぶ、誰も傷つかない道


君はそれを選んだだけ


君がしたのは、たったそれだけだよ


けして特別なんかじゃない


それでも僕はその選択を愛おしく思う


世界にたった一人の君が



その優しさから選んだ道だから



だから、守るよ




続く