(綺麗なもんだな) 何がかというと喧嘩を始めた羽柴(弟)と藤原が止めに入った増田を罵倒する時のハモりが、だ。罵倒された増田はめげずにヘラヘラ笑いながら藤原に後ろから抱き付いた。 ウザったそうにしながらも増田を払いのけない(多分もう好きにさせとけって感じなんだろう)藤原だが、柴田(弟)の方はそうもいかないらしく今度は増田に吠えかかっている。 そしてそんな光景を呆れ顔で見つめる松本と立花と俺、此処は教室で今は放課後だった。『またかよ、よく飽きないな』と思う。 「またかぁ……よく飽きないよね」 立花も俺と同じ事を考えていたらしく苦笑いを零しながら呟いた。 「だよなー、おい松本はいいのか?彼氏だろ?」 「まぁ相手はめぐみだから」 お人形姫様と恋愛大泥棒(立花の後輩の言葉を借りるなら)が密着しているのも松本の目には犬猫のじゃれ合い程度にしか映らないらしい。 まぁ日頃から実の兄と藤原のイチャ場面を見せつけられている松本にしてみたらこのアホコンビなんてさぞかし健全なんだろう。 「そんなこと言って泉水ちゃん羨ましいんでしょー?」 「えー?本当?もう素直じゃないんだからぁ」 「んな訳ねぇだろ!このアホコンビー!!」 増田と藤原が一緒になって羽柴(弟)をからかいだした、あの三人が揃うと出来るいつもの構図だ。増田ともなんだかんだで仲良いんだろうな、羽柴(弟)は本当にどうでもいい奴ならもっとドライに接してるだろうし。 藤原に対しては嫌ってるようで事ある毎に口出ししてるし……ああいう羽柴(弟)みたいなキャラも良いなぁ。 「ミッキー……少女漫画家スイッチ入った所で悪いけど、あたしもう行くから」 「あ、部活?」 「うん」 「そっかー頑張ってね、えみか」 「頑張れよ」 「ありがとう、かおり、ミッキー」 地獄耳なのか俺達の会話が聞こえていたらしい増田が藤原からパッと手を放してコチラへやって来た。 「えみか部活するならオレ見学する!」 「アンタも一応部員でしょうが」 等と言いながら教室を出て行く松本と増田。急に相手をされなくなった藤原は何やらムスッとしている。 「ハァ……俺も部活行こう、かおりはどうする?」 「演劇部は今日ないから、めぐみと教室で待っとくよ」 「あれ?二人なんか約束してるの?」 「うん……バレンタイン近いから……嵐士に渡すチョコを……」 言いながら頬を赤らめる立花は本当に乙女だ。ていうか羽柴(弟)相変わらず不憫なポジションにいるんだな。 「さて……」 みんな部活に行ってしまって教室内に俺と藤原と立花しかいなくなった。仕事もあるし俺もそろそろ帰ろうかなぁと思っていると…… 「やぁ藤原くん!!君にぴったりの新しい衣装案が出来たから部室まで来たまえ!!」 「ギャアァァアときわづ!!」 「部長……」 三年生の常磐津先輩がいきなり現れた。先輩の姿を見ただけで藤原は発狂寸前になる。 「つべこべ言わずに早く来たまえ藤原くん!!」 「いやぁぁぁあ!!」 「ちょっと部長いくらなんでも強引過ぎますよ。めぐみもそんな騒がない!」 凄いこの人……目にも留まらぬ早業で藤原に首輪かけた。落ち着いて対応している立花も凄いけど。 「コォラァ!テメェ常磐津!!人の女になにしてんだ!!」 「セ……センパイ」 「まっつん!!」 野生のカンが働いたのか松本の兄ちゃんが現れた。うわっ藤原の瞳が急にキラキラ輝きだしたし……たしかに好きな人の前だと瞳大きくなるって言うけど違うだろ何か。 「センパイ……王子様みたい」 王子様にしては随分ガラ悪いけどね……まいっか今度ネタにさせてもらおう。一人の女を巡って二人の男がぶつかり合うシーンなんて滅多にお目にかかれないし。 「やぁまっつん!!約二日ぶりだねぇ!!こんな所で会えるなんて嬉しいよ!!」 そう言って常磐津先輩が松本の兄ちゃんの手を握った。二日ぶり?……ああ土日挟んだからか、こんな所って俺達の教室に失礼だな……なんて事よりも!! 「ちょっと離しなさいよ!センパイは私のなんだからねー!!」 一人の女じゃなく一人の男を巡っての戦いなの!? 「ふっ……今日は気分が乗らないからここまでにしとくよ……本来部活の日じゃないしね」 「え?常盤津?」 急にテンションを下げた常盤津先輩に藤原が拍子抜けしたような顔になる。 「じゃあね……まっつん。明日新作プリン持ってくるから昼食一緒に食べよう」 「マジか!?」 「ちょっとセンパイ!?」 そんな捨て台詞(と言うのか?)を吐いて二人の前から立ち去る常盤津先輩。先輩がドアの前に立った所で、巻き込まれないよう下を向いていた俺の耳に小さな呟きが入ってきた。 「藤原くんはそんなに僕が嫌いなのかな……」 え……?思わず声の方に顔を向けてしまう。なんて悲しそうな声だったんだろう。 (まさかこの人……藤原を?) ひょっとしてここに来たのも藤原の顔を見るためとか?藤原が松本の兄ちゃんを自分のものって言ったのがショックで帰るとか? 俺がマジマジ見つめているとそれに気付いた常盤津先輩は「秘密だよ」と言うように人差し指を立てた。 (マジかよ!) 親友の彼女に横恋慕するとか漫画なら描いてるけど……リアルに遭遇するなんて初めてでどうしていいか分からない。 常盤津先輩は俺達全員に爽やかな挨拶をした後、教室を出て行った。その顔が妙に切なく見えたのは気のせいだろうか…… 「政宗センパイ!ときわづに触られたとこ消毒するからね!」 「ハハ、痛ぇなぁ……あんま強く握んなよー」 一方、藤原と松本の兄ちゃんは俺達の前だというのも構わずラブラブし始めた。取り敢えず好い加減にしてくれないかと思う。 end |