自分は結構“やさしい”人間じゃないかと思う
多分百人に聞いたら九十八人は首を横に振るけど

でも、だってそうじゃんか

「あちゃーハデにやられちゃったね」

ズタボロのオレを見て、オレが言うのもなんだけど色素の薄い自称美少女が笑う

なに?最愛の彼女に打ちのめされたオレに追い打ちをかけにきたのかな?アンタは

「ううん、馬鹿がいるなぁと思って」

それを追い打ちと言うのだよ、めぐみ君

「ムカつく…なんなのお前」
「エロかわ美少女」
「…」
「なに?その顔、京介の癖に」

オレの不幸を一番おかしげに笑う、一番キライな人間

けど、こんなコイツでも
オレより幸せだったらいいな、って思う

それは主に政宗センパイの為だけど

「オレってやっぱりやさしいよね」
「はぁ?なに言ってんの?」

オレが“やさしい”人間かって百人に聞いたら二人は首を縦に振る
でもそれは九十八パーセントじゃないんだよ
二百人に聞いても六十三億人に聞いても二人しかいないの

その二人をオレから奪ってしまえる非道い女の子

「えみか追いかけないの?怒ってたし悲しんでたよ?」
「…そんな気分じゃない」
「うわぁ最低」
「お前にだけは言われたくないよ」

それにオレが最低なことぐらい知ってる

でもさ、こんな無様な姿で追いかけたくないの
ていうか身体痛くて立ち上がりたくない
ぜんぶオレが悪いってわかってるけど

ねぇ悲しい…

「ねぇ大門先生呼んできて」
「え?ヤダよ」

アンタ大門先生苦手だもんな
そう言うと思った

「今度なんでも奢ってやるから」
「よっし、わかった!」

即答されて
だろうなぁと思う
現金な奴だよ本当に

「あ、もしもし、さよ?今保健室でしょ?あのねボスに一階の西渡り廊下まで来てって伝えて欲しいの……うん、京介」

なぁそれズルくない?と電話している横からつっこんだ
ていうか、さよちゃんパシれるって尊敬、オレなら後が怖いのに

「お願いね」

そう言ってピッと通話を切った

「あーわたしって超やさしい」
「どこがよ」

アンタが“やさしい”かと聞いて頷く人はきっと世界に一人もいない

「なんで?やさしいじゃん」
「具体的にどこがやさしいか言ってよ、多分納得しないけど」
「アンタと出逢ってあげて、同級生でいてあげてる、やさしいめぐみさんだよ」

なにそれ、と腹立つ前におかしくて笑えた
せんぶただの偶然なのに、そんなのまるで

「…まさか「今こうして一緒にいてあげてる」のも優しさだって言いたいの?」
「…自惚れ屋が」

心底人をバカにした目で見てくる相手にオレは
酷い、やっぱり優しくないと言った

素直じゃない奴には
やっぱり素直になってやらない