※『Yoy gut me』の続き




本物が素晴らしいなんて誰が決めた?
偽物に価値がないなんて誰が決めた?


好きな人から好きになってもらえなければ、それこそ無価値じゃないか



二段ベッドを知らない子供




太ももから爪先まで包帯が巻かれていくのを黙って見ながら、まるで王子にでもなった気分だった

「えみかは解ってないんだ」
「ん」
「オレがどれくらい好きか」
「お前が態度で示さないからだろう」

オレの足に包帯を巻き終えた大門先生は最後にパシンと叩いてそれを手放す

「痛ッ」
「松本の心はこれより痛いぞ」
「わかってるよ…だから避けないんじゃん」

本当は避けられる攻撃をワザと受けるのはオレなりに反省してるからなんだよ
まぁそんなの絶対伝わらないし伝わったところで反省するなら最初から浮気すんなって言われちゃうんだけど

「当然だ」
「もう、だからわかってるんだって自分でも」
「ったく、寂しいから浮気するなんて本当に男かお前」
「はぁ?」
「男と女じゃ浮気する理由が違うだろ……なのにお前の理由はまるで女みてぇだ」

そうかな?
寂しいのが嫌い
冷たくされるより
暖かくされるのが好き
そんなのに性別は関係ないと思う

「松本の何処がそんなに不満なんだ」
「別にえみかに不満なんてないよ」

オレには勿体ないくらいイイヒトだと思うよ

「ただオレがえみかを好きな気持ちは、えみか一人じゃ絶対耐えきれないから」
「他の奴にぶつけてんのか?最低だな」
「いいんだよ、人からどう思われようと」

どうせ、オレなんて…と続くネガティブな発想を無理やり押し込めた

「本音押し殺してんのにも限界があるぞ、とくにお前は実力を見誤って自滅するタイプだから」
「……」

限界がくるまでに棄てられるんじゃないかなって思う
人ってのはどうせ自分にとってどうでもいい事に全力は出さないし、大切な事には限界以上の力をだそうとするものじゃない?
だから自分の実力なんて知ったところで無意味だよ

「それはお前が何でも人並み以上に出来るからだ普通の人間は自分の力を計りたがるもんだぞ」
「それはオレが普通の人間じゃないっていいたいの?」
「いや……そんなつもりじゃ……」
「ふふ、わかってる」
「……なぁ、本当のお前が松本にバレんのも時間の問題だ……その前に自分からバラしちまえよ」
「大丈夫、そんなヘマしない……でもありがとう先生」

そう言ってオレは逃げるように保健室を出た
呼び止められやしないってわかってたけど

教室に戻ると、めぐみがポツンと窓際で一番後ろの特等席に座って窓の外をジッと眺めていた

「めぐみ?なにしてんの」

「……別に」

オレとめぐみなんて珍しい組み合わせと思わないけど、二人きりだとなんか雰囲気が違った
めぐみは気を遣わなくて良い相手だけど警戒する、本当のオレを知ってる人間で、大門先生とは違って優しくないから

「そんなに怖がらなくていいのに」
「別に怖がってなんか……」
「ねぇ京介は疲れないの?」

噛み合わない会話
めぐみは時々何も考えてないような顔で、子供みたいな残酷さでオレの核心を突いてくる

「今の京介は演技だよね?」

身内に女優がいるからか、めぐみは演技には敏感だった

「そんなことしてたら、いつか本物が乗っ取られちゃうんじゃない?」

めぐみは至極どうでもよさそうに、だけど
瞳の奥底では拗ねたように言った

「オレはそんなモノより、えみかにどう思われてるかの方が大切だもん」

本物の自分が壊れてしまっても構わないが笑華に好かれてる偽物の自分が壊れてしまうのは怖い
今の方が中学の頃よりずっと楽しいし……本当の自分犠牲にしてでも守りたい

「だいたい、めぐみには関係ないでしょ?」
「確かにアンタのことなんてどうでもいいって言えばどうでもいいけど」

酷い言われようだな、なんて思う

「偽物のアンタ苛めてもつまんないの!!!」
「……」

ムーっと効果音が付きそうな顔でめぐみはオレを睨みつけた

「んー?本物のオレなら苛め甲斐があるってこと?」
「そうだよ」

えっと、それって結構理不尽な理由じゃないの?

「無理してるくせに、ツライくせに、ヘラヘラしてんな」

イライラするから、と言い捨てて
めぐみはそのまま教室から出て行った

結局アイツはなんの為に教室に残ってたんだろう?