学校が終わり仕事用に借りているアパートへ帰ると、自分より遅く学校を出た筈の悪い妖精さんコンビが既にいるようだった。何故解るかというと二人の靴が仲良く並んでいるから、多分藤原が無造作に脱いだ靴を増田が綺麗に直したんだろうなと思う。
玄関から一歩踏み入れると台所にグレーとピンクのエプロン姿が立っていた。いくつかのボウルには割った卵と分けられた黄身と白身、シンクには大量の茶色い殻。
今日は卵料理か……カチリという音を立てて扉を閉めると色素の薄い顔が同時に此方を見て口角を引き上げる。

「ミッキーおかえりー」
「また勝手にお邪魔してるよー」

邪魔してると自覚はあっても悪気は全く見られない、あるとしたら無邪気な悪戯心なんだろうなと思える笑顔で俺を出迎えた。

「ただいま……今日はなにしてんの?」

こんな狭い部屋のどこを気に入ったのか知らないが増田と藤原は俺の部屋でよく“遊ぶ”
意外と素直なコイツらは追い出そうと思えば割と簡単だ。ただ言うほど邪魔には思わないし締切前は俺の怒りオーラにビビってか手伝ってくれることもある。
それに外に出すと色々と狙われてる奴らだから俺の気が散らない限り大人しく遊んでるだけなら自由にさせておこうと思っていた。

「今日は卵が特売だったからオムライスとオムレツと玉子スープとデザートにプリンだよ」
「タンパク質とコレステロール過多で死にそう……」

ここ最近、その遊びが『めぐみの花嫁修行』と題した掃除やら洗濯やら料理やらに変換されている現状を俺は受け入れかねていた。掃除や洗濯はそれはそれで気が散るのは変わりないけど正直助かっていないこともない。
金持ちの癖に妙に所帯じみててウチの冷蔵庫の安い食材で美味しい料理を作ってくれる増田も性格と性別を変えれば嫁に来て欲しいと思うくらいだ。


ただ、凄く迷惑なんだ

「おい……今日こそ少しは食べて帰れよお前ら」
「えーダメだよ今日ママがいるから帰ってごはん食べなきゃ」
「オレもー要らないって言ったら佼介兄ちゃんに殺される」

コイツらは……毎回一人で(たまに吉田と)食う俺の身にもなれ。まぁ幸い藤原は野菜を洗ったりするだけで殆ど増田が調理するから不味死する事はない。
どうせすぐ飽きるだろうからそれまで我慢していれば良いんだけど……

「ねぇ京介、この出汁巻きちょっと甘過ぎない?」
「んーでも政宗センパイ子供味覚だから……って痛い!抓んないでよ!」
「ッ……ムカつく」

顔を赤くさせ頬を膨らませる藤原、多分増田の発言が「オレの方が政宗センパイに詳しいですよー」みたいに聞こえて嫉妬したのだろう。
たまに可愛いから困る、大抵の男はここでノックアウトなんだろうなぁ。俺らは藤原の本性知ってるから和む程度で済んでるけど

「なんでアンタがセンパイの好み知ってんのよ」
「えっと……俺えみかとお弁当交換してるから政宗センパイのお袋の味とか知ってるんだよ、なんていうか優しい人だよね……お義母さん」
「そんなえみかに徐々に自分の味を刷り込んでるアンタがキモい」

松本の弁当の味を思い出して穏やかに笑う増田を見てコイツが未来の継母に手を出さないか心配になった。どうでもいいけど増田と藤原が妙に姉妹っぽいのは松本兄妹との結婚を既定事実にしてるからなんだろうか……

「刷り込んでるわけじゃないもん、オレの料理えみかに食べてもらいたいだけ、めぐみだってそうでしょ?」

ああ、この花嫁修行も元を辿れば先輩の為だもんなー
ていうか、さり気なくノロケるな。

「……うるさいな!」

図星だったのか真っ赤にして睨む藤原、だからそれやっても可愛いだけなんだって……いつも大魔王みたいな振る舞いしてるのに先輩絡むと途端に純情になるのは反則だと思う(しかも本人の見てないとこで)少女漫画家としては参考にさせて貰ってるけど……

「いつもめぐみの殺人的料理を手直しして、センパイが食べられるレベルにしてるのは誰かな?」
「……本当うるさい」

今日は珍しく増田が優勢だなぁ明日は雨かなぁ、と思ってたら本当に雨が降り出した。


ひょっとしてコイツら泊まっていくとか言い出すかもな……



つづく