『もう帰れお前ら』の続きです





雨に気付いたアホコンビは悪い予想通り「泊まっていく」と言い出した。待て、増田はともかく藤原は女子だろう、男子の家に易々と泊まるな。

「大丈夫だよ。京介とミッキーだもん」

ヘラリと笑う藤原には警戒心の欠片もない……この一度気を許した相手を無条件に信頼してとことん甘える性分に羽柴が大変苦労していたのを思い出しす。

「オレはいいよね?締切前はいつも泊まってるし」
「駄目、今月に入って何回目だと思ってんだ」

つい先日も刺され掛けたとか何とかで避難してきた増田。その時は流石に泊めてやったけどよく考えたらその辺の暴漢くらい自分で何とか出来るだろうお前。

「えー?なんでぇ?こんなに雨降ってんだよ?」
「タクシー呼べばいいだろ」
「……ミッキーのケチ!薄情者!」

どうとでも言え、最近お前らが学校以外殆どウチで過ごすもんだから俺にも身の危険が迫ってきてるんだよ。
松本兄妹の「いつも京介がごめんね」「めぐみが世話をかけるな」と言いつつ一切笑ってない目、怖い刑事と監察医の牽制、女優と住職からの呪怨、ついでに見ず知らずのファン達の圧力に堪えなきゃいけない俺の身にもなれ!!
まったく、コイツらはいい加減自分に向けられる執着心とか独占欲を自覚しなきゃいけないと思う。ああでも、そういうの期待してないんだろうなコイツら……
自分の我儘さ加減は自覚してる癖に直そうとしないけど、臆病だから愛想尽かされた時のショックが少ない様に最初から相手の愛情を信用しない。

「はぁ……しょうがないなぁ、好きにしろ、もう」

考える内にだんだん可哀想になってきて、ついつい許してしまった。きっとこれは無駄とか余計とか意味のない心配なんだけど、恋人を想う時の二人の顔を思い出して、雨の中傘もなく帰らせるのは忍びないかもと思った。

「ほんと!?ありがとー」
「その代わり」

対面キッチンの向こう側の焼きあがったばかりの出汁巻き卵(夕食のメニューとは言わなかったから明日政宗先輩にあげるつもりなんだろう)に手を伸ばす。
「あっ」という声は無視してそれを口にすれば藤原が作ったものにしては美味かった。最初の頃は家事が壊滅的に出来なくて家具も服も散々ダメにされたけど(それらは増田が弁償してくれた)遊んでるだけに見えて本当に少しずつ上達してんだなって感心した。

「ちょ!ミッキーなに勝手に」
「美味いよ」
「……本当に?」

ああ、って言えば花が綻んだように笑った。そういう顔をもっと先輩にも見せてやればいいのに……まぁあの人は他の誰も知らない藤原の顔を知ってるだろうから、いっか

「さて二人とも自分で作ったもんは責任もって全部食べろよ?」
「「……はーい」」

素直に返事をする姿は幼い子どもみたいで微笑ましい。こうして俺達は少し早めの夕食をとることにした。

「って!めぐみマヨネーズかけすぎ!折角の味が台無しじゃん!!」
「うっさいな、そんな大した味でもないくせに」
「お前料理教えてやってる人に向かって……って何やってんの!?」
「美味しいから食べてみなって!!」
「人の分にまで勝手に掛けないでよ!!」

コイツらは静かに食事するってことも出来んのか!

「だぁぁあ!うるさい騒ぐな!!ご近所から苦情が来るだろ!!」

テーブルをバンと叩けば二人同時にコチラを向いて

「「ミッキーの声が一番うるさい」」

まるで双子のように揃った声を出しやがった。



やっぱり帰れ、お前ら

(お願いだから)

それかもう、いっそ帰るな




おしまい