旅行二日目、昨日負った京介の怪我は相変わらずの回復力で今朝にはすっかり治っていた
今日の予定は午前中は海で遊び、午後からショッピングモールへ買い物へ行くというもので、現在あたし達は海水浴の真っ最中

プライベートビーチは良い、京介がナンパする心配もナンパされる心配もしなくていいから気兼ねなく海に入って遊べる
残念ながらカナヅチな京介は浜辺で砂遊び中だけど皆で水掛け合ったりバレーしたりするのは楽しかった

「めーぐーみぃー!!」

!!?

ビックリした……さっきまで浜辺にいた筈の京介が両頬に手を当ててプンスカ怒りながら近付いてくる
どうしたんだろ?浅瀬とはいえ京介が自分から海に入るなんて信じらんない

「ん?どうしたのー?京介」

すると愛実はニヤニヤしながら京介から逃げるように海の奥へと進む

「こらぁ!!人の顔に悪戯しといて逃げないでよ!!」
「顔?」

近付いて見ると京介の顔はうっすら日焼けしていて、そりゃ海に来てんだから日焼けくらいするんだけど問題なのは日焼けしてない白い部分で
……えっと『バカ』って書いてある?

「俺が寝てる隙に勝手にオイル塗って型紙はっつけたでしょ!?」
「えー?それを私がしたっていう証拠あるー?」

これ以上行ったら溺れるって所まで海に入って、完璧安全圏から見下してる愛実にプンスカ怒ってる京介(もっと怖い顔で怒んなよ)

「しらばっくれないで!!オレにこんなことする奴、愛実しかいないでしょ!?」

……なんだろ……またジリジリって音がしだした
京介と愛実は気が合うって言うか似た者同士だからよく連んでるだけでお互いの間に恋愛要素的なものは何も無い
だから普段は犬猫のじゃれあいくらいにしか見てないし、愛実だってお兄ちゃんが一緒に来れなくて寂しいから京介にちょっかい掛けてるだけなんだと解ってるけど
なんで京介、自分に悪戯する女の子は愛実だって決め付けてんの?あたしだって浮気防止の為にするかもしれないじゃん

……って、そんなこと言える訳もなく
あたし達はそのまま砂浜で昼ご飯を食べて一度別荘で休憩した後、予定通りショッピングモールへ行く事になった



「オレこの顔じゃ行けないからゲームでもして待ってるよ」

元々焼けにくい体質で新陳代謝も激しいから日焼けなんてすぐ治ってしまう京介は結局すぐ愛実を許して、今度は皆に気を遣って一人留守番を申し出た
それはあんまりにも可哀想だから、あたしも残ると言おうとした時に

「しゃあねぇ、俺が付き合ってやるよ」
「へ?泉水ちゃんが?」
「行ってもどうせ荷物持ちにされるだけだし」
「俺も、実は今日中に原稿何枚か終わらせときたいから」
「もー旅行に仕事持ち込まないでよミッキー」
「悪い悪い」
「いいよ、どうせなら手伝おうか?」

なんて男同士和気藹々としだしたから、あたしの出る幕はなく、結局男子全員でお留守番する事になった
すると必然的にあたしが愛実の荷物持ちをさせられる羽目になり、禄に買い物も出来ずに別荘に帰って来た時にはもう夕食の準備は出来ていた
夕食はあたしの好きな物ばかりで(多分京介が準備してくれたんだ)少し機嫌が上昇するのが解った……あたしも現金だな

「はい、先生どうぞ」

でも何故京介と大門先生があたしを挟んだ両隣に座ってて、さっきから何度もあたしの目の前でお酌なんてしてるんだろ?
いや、お客様をもてなすのは主催の役目だし、わざわざ保護者として付いて来てくれた先生には感謝してもしきれない(昨日からどんだけ愛実や沙夜が迷惑かけてるか、多分先生が居なかったら一番迷惑被ってたのあたしだ)けど何故アンタはそんな媚びるような甘い声なの?
なんか慣れてるっぽくて嫌だ……いつも接待先のマダムやお嬢様にそうやって愛想振りまいてんの?その見た目じゃおじ様方からも気に入られてるんだろうね?

ジリジリ
イライラ
ムカムカ

ほっとくと色んな感情が噴き出してきそうなあたしはテーブルに置いてある水を一気に仰いだ


「バッ!?松本!?」
「へ?」


くらり……は?なにこれ?
なんか気持ち悪……


「笑華それお酒だよ!!?」



慌てたような京介の声を最後に聞いて、あたしの意識は途絶えた





続く