※ミッキー視点(タイトルに意味なし)




「今日は水出し煎茶にしてみたよ」

増田はお盆に三つ湯のみをのせてニコニコ笑いながら俺と藤原が座るテーブルへ寄ってきた
湯のみは涼しげなガラス製、買った覚えはないから増田が持ち込んだものだろう

「どうぞー」

邪魔にならない位置に湯のみを置くと自分も席について中断させていた作業に取りかかる
俺と藤原から一切返事が無い事を気に留めた様子はなかったが黙ってお茶を飲んだ藤原の顔が少し和らいだのを見て満足そうに微笑んでいた

「ミッキー、ベタ塗り終わったよ、次はなにしたら良い?」
「えっと……じゃあこれに消しゴムかけて」
「おっけー」

既に乾燥中の原稿の横に今仕上がった(まだトーン貼りとか残ってるけど)ものを置いてテーブルに戻ると藤原が丁寧に消しゴムをかけてくれていた
増田はともかく藤原がこうして真面目に手伝ってくれるのは珍しい
助かるけど空から槍が降ってくるんじゃ、なんて本人に言ったら怒りそうな事を思ってコッソリ笑った
二人が俺の仕事を手伝ってくれてるのは藤原が「夏休みどっか遊びに行こう」と誘ったのを俺が「夏休みは仕事が忙しくて遊べない」と断ったからだ
「じゃあ手伝うから終わったら遊び行こう」と藤原に言われた時は心底驚いたなぁ
何でも毎年この時期、親は仕事で彼氏友達は部活やバイトで忙しく構ってくれる人がいなくなるらしい
藤原ならそこら辺の男引っ掛ければいくらでも構ってもらえると思うのだが、たまには“そういうの”無しで普通に遊びたいそうだ
増田も上に同じく
ちなみに藤原を帰した後で増田は俺の夏休みの宿題を見てくれる予定だ
曰わく「宿題早く終わらせとけば思う存分遊べるでしょ」だそうな、ちなみに藤原には自分の宿題を丸写しさせるらしい

……そんなにこの三人で遊びたいのかコイツら

「ねぇミッキー、仕事あとどれくらい残ってんの?」

集中力が切れてきた様子の藤原がウンザリしながら訊いてきた

「あーっと、そうだなぁ……」

指折り数えながら仕事内容を上げていくと「ミッキー働き過ぎ!」と怒られた
その怒りは俺ではなく馬鹿みたいに仕事引き受けてきた担当にぶつけて下さい

「ミッキー……指定されたトーンなんだけど、もう無いから買ってくるね」
「え!?マジ!?悪ぃ……」
「その間にミッキー休んでてよ、愛実も……それか気分転換に一緒にいく?」
「暑いからやめとくー」

増田ってさ……なんていうか……いや、やっぱりこれは言わないでおこう

「お茶の残り冷蔵庫入れてあるから勝手に飲んでてねー」

そう告げた後、増田はパタパタと出掛ける準備を始めた
ナンパとか逆ナンとかに遭わなきゃいいんだけど……

「あ、京介」
「んー……って何?」

藤原が増田に自分の帽子をかぶせた
増田の今日の私服にも合う

「熱中症ッ!」
「へ?……ああ!ありがとね!!」

らしくない事をしたと照れているのか少々ぶっきらぼうに言い放った藤原に増田はニッコリお礼を述べる
二人を似た者同士だなぁと思ってたけど、意外と照れ屋なのが藤原で誰にでも素直なのが増田なのだと最近分かり始めた

「じゃあ、ついでに無くなりそうな備品とか買ってくるね」
「ちゃんと領収書もらって来いよ」

こうやって釘さしとかないとお前何でもすぐ奢ろうとするからな……
と俺が言うと増田は親しみが込もった瞳を細めてクスりと笑った

「はいはい」

時々なんでもないような事で凄く嬉しそうにするけど、いったい何なんだろう



「んじゃあミッキーちょっと横にならせてね」

勝手に寝室に入って勝手にベッドを使う藤原……別にいいけど警戒心の欠片もないのは如何なもんか

「ミッキーん家はいいねぇ凄く落ち着く……仕事手伝うのも結構好きだし」

タオルケットから顔だけ出した藤原が眠たそうな声で話し掛けてきた

「京介がね、ミッキーといて嬉しそうなのはミッキーが普通の友達みたいに接してくれるのが凄く嬉しいからだよ」
「……」
「あたしもミッキーの前でだから無防備でいられるんだよ……」

そう言って、ふんわり笑った後スーっと静かに眠ってしまった

なんだよそれ
なんだよそれ
なんだよそれ

ヤバい胸にキュンときたじゃんか!急にデレるなよ馬鹿
少女漫画家スイッチ入ってるわけじゃないのに……

「あーもぅ……」

顔洗って頭を冷やそう!……今鏡見んのスゲェ怖いけど



* * *



夕食(増田の手料理)後、ベランダで藤原がお土産に買ってきたアイスを食べながら

こんな夏休みも悪くないな、と柄にもなく思った




end