中学までの友達はオレの肩書きだけでオレ自身には興味無いみたいだった
昔から容姿を褒めてくれる人はいたから、きっと顔は格好いい部類に入るんだと思うけど正直、自分じゃどこが良いのか解からない
だってオレ凌兄ちゃんみたいな美人系が好きだし佼兄ちゃんみたいに男らしくなりたかった
お金と顔だけの人間だと思われるのが嫌で一生懸命勉強したし運動だって頑張った
それが充分オレの価値になったと思う
でも貰えるのは『さすが増田家の子供』という言葉ばかりで誰もオレ自身を評価してはくれなかった

暗い奴だと思われたくなくて皆の前じゃ明るく振る舞ってたけど心の中じゃ辛いとか寂しいとか思う弱いオレがいつもいて、みんな偽物のオレを信じてたから、誰も本当のオレなんか知らないし
知ったらきっと嫌いになるだろうな

中3になってオレは公立の高校に行くことに決めた
ここから出れば何か変わるかもと考えたからだ

そして笑華に出逢った
凄く好みだったからすぐに声を掛けたんだけど……いきなり蹴られてしまった
初対面で蹴られるなんて今まで無かったからショックだったけど、少しワクワクした

“この人ならオレを変えてくれるかも”

オレは笑華を目で追うようになり、そして気付いた
笑華は誰にでも優しい、肩書きなんて関係無く、誰にでも
オレの事もきっと『増田財閥の御曹司』としてじゃなく受け容れてくれる
それだけでいいと思った

“特別にならなくてもいい”と思った

“特別なんて悲しいだけ”だ

“他の子と同じように接してくれたら”

“それだけでいい”

それからオレは笑華にアプローチをし始めた
その頃はまだ女の子に慣れて無かったから取り敢えず親父の真似してみたけど笑華には効果はなかった

思い切って告白したら、また蹴られたけど『5秒以内で立つ』って条件をクリアしてオレは笑華と付き合える事になった

最初の頃は邪険に扱われてたけど段々優しくなって少しずつ話してくれるようになって
たまに笑顔を返してくれるようになった
それだけの事に嬉しくなった

でも多分、笑華はオレをそんなに好きじゃないんだろうなって思う
好きだと言ったら眉間に皺が寄る、手を繋ごうとして拒否される、他の子には優しいのにオレには冷たい
そんな態度も見逃せたら良かった

そんな時、オレはある女の人に誘われた
最初断ったけど哀しそうな瞳を何故か放って置けなくて
俺は初めて浮気をした

その人は「ごめんね」って笑って泣いた…オレもつられて涙が出た
たった一度の事だったけどオレは罪悪感に堪えられなくて自分から浮気した事を笑華にバラした
そしたら頭に凄い衝撃がきて次の瞬間、目の前が真っ白になった
最初は何されてるのか分からなかったけど暫くする内に「ああ、オレ殴られてるんだ」って解った

笑華は意外と独占欲が強いみたいでオレに対してもそう
きっとお気に入りの人形を他人に盗られたくらいにしか思ってないけど
それでもオレは嬉しかった

ねえ?もっと嫉妬して
もっと殴って
もっとオレに傷を残して

そしたら

“笑華もオレの事好きだって錯覚出来るから…”

それからオレは浮気を繰り返すようになった
わざとバレるように浮気してその度に笑華の顔が怒りに満ち、オレは殴られた
先に裏切ったのはオレだから何をされても何も言えない
どんな傷も愛の証なら愛しいと思えた

笑華は誰にでも優しいけど“笑華はオレだけを殴る”

世界中でオレだけ

オレは“笑華の特別”になった