※この話は『増田パパはきっと裏で悪どいことしてるだろうな』という妄想により成り立っていますが原作ではそんな事実は一切ありません(多分)








母は死んでしまったのにオレは生きている
この世に生んでくれた存在なのにオレは殆んど憶えていない
少々罪悪感を抱くけどそれが罪ならこの世は罪人だらけになってしまう

笑華に打ち明けたら多分「そんなことより自分の浮気症の方を悪いと思って」と言われるに違いない

自分は随分と恵まれた環境で育ってきたと思う
裕福な家と、腹違いの自分にも優しく接してくれる兄

きっとそれは嬉しく思ってもいい事



「寒いなぁ」


空も、そんな事を考えてるオレも寒い
寒すぎて早く彼女のバイトが終わってくれないと風邪を引いてしまいそうだ

「後、一時間か……」

バイトが終わっても直ぐには出てこれないだろう

また今日も店の男に言い寄られてるかもしれない
彼女の事だから無下には出来ないだろう

ハァ……白い白い溜息が漏れる

笑華は誰にでも優しくて
とても気を遣うから……疲れてやしないだろうか……

「今度、甘いものでも差し入れようかな」

ああ、でもダイエット中だから迷惑か
それを言うならこの行動も迷惑以外のなにものでもない気がする

いつもはバイト先のカラオケ店で笑華を待ってるのだが
昨日、体裁悪いからもう来るなとこっぴどく叱られ
それならと帰り道で待ち伏せなんて変態じみた事をしている
余計に怒って一緒にいてくれないかもしれない

(どうしようかな)

約束なんてしてないのだからもう帰って終おうか
でも俺は笑華に逢いたい

これから会う彼女に拒まれて泣くのか、受け入れられて笑うのか
彼女の言葉をどう受け取れるのか

(笑華が絡むとおかしくなるな)

どうしてそうなるのか、彼女に嫌われるような事ばかりしてしまう
考えている内にどんどん体温が下がっていく

(寒いな)

前に話したことがある
笑華が先に死んだらオレもすぐ後を追うって
でも皆はオレだけ地獄に堕ちて笑華は天国に行きそうだと言った
その通りだと思う

自分を肥やす金が綺麗なものではないと知っている
こうしている間にも我が家の為にどこかで血が流れてるだろう
オレが平穏に暮らすため普通の高校に通うため
父はどれだけの犠牲を払ったのだろう

直接的でなくても……それはオレの罪

裕福なのも、愛されているのも、幸せだ
それも全て母の子であるからなのに

夜空を見上げた
人は死んだら星になるという
あの星の中に母はいるのだろうか

死んで星になるなら……土星の環のように笑華の周りを廻っていたい

触れることが赦されなくても

天国と地獄に別けられるより良いように思える


「京介?」

ずっと待っていた声が暗闇から聞こえた
顔を認めればちょっと怒ってるみたいだけど……嬉しくて歩み寄った

「店に来ないと思ったら……なにしてんの?」

「迷惑だと思って今日はここで待ってたんだよ」

そしたら笑華は頭を抱えて「ウザい」と呟いた

「ヒドッ!笑華が来るなって言うから待ってたのに!!」

「だからってこんな夜遅くにこんなとこにいたら危ないでしょ」

「……笑華もしかして心配してくれてる?」

聞けばバツの悪い顔をされた
確かに狙われる事は多いけど恨みを持たれるようなオレが悪いんだし
オレを傷付けて相手の気が済むならそれでいいと思う

それに

「大丈夫だよ、怪我なんてすぐ治るから」

「違……そうじゃなくて……あーもうホント自覚ないんだから……」

「ん?」

「だから、」

京介を見る笑華の瞳に熱いものが宿った

「あたし以外の人が京介に傷を付けるの嫌なんだよ」

いつも恥ずかしいことを言うとき目を反らす笑華が
真っ直ぐ京介を見据えながら言ったのだから

「……うん」

これは自分にとって絶対的な命令に等しい


「わかった……もう笑華以外からは傷付けられない」

「出来れば私からも傷付けられないよう心懸けて……」

浮気するなってことか……でも殴られる他に笑華の愛情確かめられる術がないし……
でも今のでちょっと確かめられたから、明日からちょっとだけ控えよう

「えへへ……」

「あーもう……バカ」

先程の瞳は一瞬の狂気で

すっかり元の照れ屋さんに戻ってしまった笑華

それに何だか愛しさが込み上げてくる

「じゃあ笑華、家まで送ってくよ」

「なに言ってんの?今日は泊るんでしょ?」

「へ?」

笑華はオレの手を取り
頬を赤くしながらも優しく撫ぜた

「もう……こんなに冷やして……早く帰らなきゃ」

「……」

一目逢えたらそれでいいと思ってたのに
いつもそうやって甘やかすから
当然のように手を繋いで名前を呼ぶから


どうしていいか分からなくなる



「……どうしたの?」


「ごめん」

思わず謝った

「オレは幸せ者だなーって……」



本当は幸せになってはいけない存在かもしれない
でもそんなオレの傍に居てくれる
傍に在りたい、大好きに想う人がいる




「……幸せならそれで良いと思うよ」




空を仰げば星が瞬く

たとえ赦されなくても
罪を感じる程の幸せを刻んでいこう





今日も貴方の周りを廻っていたいのです







END