苦しくて切なくて 藁をも掴む気持ちで貴方に縋った 溺れさせてるのは貴方なのに 灰色世界 いつか笑華に「京介の目はズルい」と言われたことがある 何度俺を捨てようと思っても俺の目を見て思い留まってしまうらしい どんな目かは解らないふりをして、それで笑華を繋いでおけるなら自分の灰銀でも少しは愛せた 笑華と付き合うならアイコンタクトは重要だ 目はどんな言葉よりも雄弁に語るから 散々殴った後に一瞬だけ見せる俺を気遣う眼差しが好きだった 嫉妬からくる暴力も良いけど、その後に笑華が少し優しいのが堪らなく嬉しかった 自分もちゃんと想われてるみたいで安心する その琥珀を俺に向けてくれるなら言葉なんていらない だから笑華には悪いけど俺は浮気をやめられない 愛される自信がないから……殴られた後に優しくされて漸く不安が無くなる こんなの笑華を利用してるだけだと思うのに 笑華の優しさにつけ込んで一方的に傷つけてるのと同じだと思うのに 俺だって笑華のものなんだから、いくらでも利用していいのに 俺なんてもっと酷く扱っていい……じゃないといつか引き離されてしまいそうで怖い 笑華は皆が認める良い子で、なのに俺は問題児だしヘタレだし頼りないし喧嘩だって弱い(したことないから分かんないけど)……考えたら悲しくなってきた とにかく今まで弄んだ誰かや笑華を好きな誰かから関係を壊される可能性もあるし 家業柄、命を狙われる危険があって笑華が巻き込まれないよう別れなきゃいけない時がくるかもしれない 笑華には笑顔でサヨナラ言えるけど、その後の俺は正常でいられるだろうか こんな俺は笑華がいなくなったら駄目になるのは顕著で…… でも……今だけだから…… 零れ落ちた声は想像以上に掠れていた 父さんと同じで俺もきっと一番好きな人とは結婚出来ないし ひょっとしたら一生独身かもしれない(笑華と一緒になれないならこの方が良いけど) 俺が想う、二人で幸せになりたいとか、ずっと一緒にいたいとかぜんぶ夢物語なんだ それなら 叶わないのなら……いっそ別れてみようか そしたら一生いい友達として傍にいられる 笑華の言動をみてたら恋愛感情というより同情に近いし そうだな……後、少し 泣かない自信がついたら……きっと大丈夫だよね * * * パタン 私はその厚い装丁を閉じた 京介の部屋で偶然見つけてしまった日記帳(読んだのは浮気調査の為だったんだけど)に書かれていたのは私の事 最後にみたページには涙の痕が残っていた (そういえばこの頃か……京介が私に「別れたい」って言ったの) 数年前を思い出し苦笑いが漏れた 言われた瞬間はショックでつい大泣きしちゃったんだけど……直ぐ本心じゃないと気づいたんだっけ まったく京介は……目は口ほどに物を言うって解ってる癖に私にバレないとでも思ったのかな 京介の目が私を好きだと言い続ける限り私が京介から離れる筈ないのに あの時ほんとはボコボコにしたいくらい怒ってたけど、浮気以外の理由で京介を殴らないと決めてたし なにより京介が不安定だから殴る代わりに抱きしめて恥ずかしい台詞も沢山言った 思い出しただけで赤面ものだ でもお陰で京介の気持ちは一方的じゃないって……私も同じくらい不安だって伝わった あれから二人の距離はずっと縮まったからきっと全ては無駄じゃなかった それに距離が縮まったのは二人だけじゃない…… うちの両親も兄妹も京介が大好きで 私だって今みたいに本人不在中に来てもに勝手に部屋に通される それくらいお互いの家族に受け入れられてる それなのに未だ不安なのかプロポーズされていない 「ったく……早くしなきゃ私から言っちゃうよ……」 何十億という人が呼吸してるこの星で 出逢えた事を運命とか必然とか神様のプレゼントとか言ってしまうのは ほんの少し違う気がした 「私達はお互いに望んで……愛し合う為に出逢ったんだよ」 だから早く 結婚しようよ京介 了 |