体育前の休み時間。京介のコンタクトが破けてしまいました。しかも今日に限って眼鏡を持ってきていません。 「うう……笑華の可愛い顔が見えない……他はどうでもいいけど」 「いや、京介もっと周り見た方がいいよ……ていうか一度自分を見つめ直した他がいいよ」 視力が下がった為に珍しく眉間に皺を寄ている京介に対し笑華が冷静なツッコミを入れる。 京介の困ってる姿が新鮮なのか、普段京介を邪見にしているクラスメイト達まで集まって来た。 「家に電話すりゃ五分で持ってきてくれんじゃねぇのー?ヘリで」 「え!?ヤダそんな恥ずかしいの!!」 「多摩先生なら眼鏡貸してくれんじゃない」 「多摩先生のだけは怖くて借りれないよ!」 「じゃあどうすんだよー?」 只今クラスは京介をニヤニヤしながらからかうグループと、それをいちいち本気にする京介を生暖かい目で見守るグループに二分されている。普段はムカつく京介でも今は瞳がうるうるしていて可愛いと思っているようだ。 (うぜー……見せもんじゃねえんだよ) (人の不幸がそんなに面白いんか……) 京介のコンタクトを破いてしまった張本人達(泉水と愛実。愛実がぶつかって地面に落としたのを泉水が踏んで破いてしまった。)は罪悪感も相俟ってか京介を笑うギャラリーを睨み付ける。 「確か保健室に貸し出し用のメガネがあったと思うわ」 「ほんと?沙夜ちゃん」 「ええ、こんな時用に置いてあるの」 「流石もぐりの保健委員ー」 早速保健室に行こうと立ち上がり歩き出した途端、すぐ側に置かれていたハードルに引っかかり盛大に転けてしまった。しかもそのまま体育用具が乱雑に置かれてるゾーンに突っ込み、京介にまた生傷が増えた。 「あーハードルがハードルになったみたいだね」 「文字通りね」 みんなが慌てて京介を救出しているのを落ち着いて傍観している嵐士と沙夜であった。 「保健室まで付き添うよ」 「いいよ!今日の体育計測だし……」 笑華の申し出に渋った返事をする京介。いつもの京介なら喜んでお願いするところだが、計測の授業は欠席すると別の日の放課後補習を受けなければならなくなるのだ。 「メガネ借りるだけだし少し遅れるくらいで済むよ」 「先生にはちゃんと言っといてやるから」 「今の増田くん一人だと本当に危ないから付き添ってもらった方がいいわ」 「そうそうメガネ借りてすぐ戻ってくればいい」 普段の扱いは雑でも弱った時は優しくしてもらえるもんなんだなぁと感じる京介。ただ顔や手足が切り傷だらけでもその治療はしてもらえないらしい。 「分かった……じゃあお願い……」 そう言って京介はドキドキしながら笑華の方へ手を差し出した。歩くとき腕を組む事はあっても(しかも京介の方が笑華に掴まってる状態)手は繋いでもらえない京介にとってコレはまたと無いチャンスだ。 「え……?」 手を差し出された笑華は固まってしまった。メガネのない京介を一人で歩かせるワケにもいかないが、学校で腕を組んだり手を繋ぐ行為は恥ずかしい。 (そうだ!!) ドスッ 「グハァ!?」 そこで笑華はどうしたかと言うと、京介の鳩尾にパンチを入れて気絶させた。 「!!!?」 驚くクラスメイト達など気にせず笑華は京介を担ぎ上げる。 「じゃあ行ってくるね」 「う……うん、行ってらっしゃい」 いつも通りキリッとした表情を携えたまま笑華は何事もないように去って行った。 (いくら恥ずかしいからって……) (あれじゃ逆に目立つと思う……) (ていうか気絶させる必要あったのか?) 担がれたまま運ばれる京介を見ながら、クラスメイト達は各々同じような事を思ったのだった。 * * * (……此処はどこ?) 気が付くと京介はベッドの上に寝かされていた。包帯を巻かれている感覚があるので体も治療されているようだ。 「やっと起きたか」 「その声……大門先生……ってことは保健室?」 「ああ……」 「なんで?いつの間に?」 京介が頭上に大量のハテナマークを浮かべていると大門が説明してくれた。 「松本がお前を此処に運ぶ為にわざわざ気絶させたんだと」 「ああっ……それで」 鳩尾に原因不明の衝撃がきたところで記憶が途切れてるのかと納得する。 「お前が目覚めるまで居座りそうだったが先に帰した」 「笑華……」 「アイツ割と天然のとこあるな」 「ねー、可愛いでしょう?」 「……」 呆気にとられる大門にも構わない。そこから京介のマシンガントークが始まった。 「笑華はしっかり者なんだけど時々抜けてるっていうか……オレにだけ素直じゃない……照れ屋さんで……こないだも道あるいてて……優しいし……でも……とにかく可愛くて……誰にでも親切だし……」 気絶させられたのにも関わらずニコやかにノロケ続ける京介を見て「ひょっとしてコイツらお似合いかもしれない」と密かに思う大門。 「ていうか元気なら授業戻れよ」 数日後、グランドで補習を受ける京介とそれに付き合う笑華の姿が見られたのでした。 END |