時雨様リクエスト
※精神的に弱らせたらネガティブになりました




あ、生きてた

意識が戻って最初に思ったのはソレだった
顔半分が水に浸かってて耳の奥がゴーっという音がする
ああそっか川に突き落とされたんだっけ、オレが泳げないって知らなかったのかな
泳げるって知ってても服着たままの人を川に突き落としたら溺れるって思うよね普通

まぁ、オレになら何しても大丈夫って思ったんだろうけど

目を開けると入り組んだ幾つもの鉄柱があって、橋の下に流れついたんだなって解かった
こんな薄暗いところじゃ掌を翳しても真っ赤な血潮は見えないだろうねーーうん、なに言ってんだろう

流されてる途中で何かにぶつかったのかなぁ下腹部が凄く痛い
確かめたら意外と深くて鋭い傷が入ってた

普段ならすぐ塞がる筈の傷も止め処なく流れる血のせいでまだ塞がっていなくて
オレから出る穢れた血がゆらゆらと川を汚していく……
ううん、違う、この血は母や兄達と同じものだから穢くは無い
……穢いのは心だけだ

このまま死んじゃうのかな……そしたらあの子達は警察に捕まっちゃうのかな?
ただ笑華が好きで、オレが邪魔になって、少し意地悪してやろうって思っただけなのにね

体の感覚がだんだんなくなってきた
意識はまだかろうじて残ってるって感じ

川の水に浸かってるからか、血が大量に流れてるからか体中が冷たい、手足には痺れもある
でもなんだか不思議だな……目元と頬だけ暖かい水に触れている

……信じらんない、オレ泣いちゃってる

「……ッ」

嗚咽を漏らす度にお腹に力が入って、傷口が痛みをあげる
なんで泣いてんのオレ……自業自得じゃん
でも、こんなことになった全部が悲しくて悔しくて寂しくてツライ

どうしてオレがこんな目に遭わなきゃいけないのって思って、そんな事を思う自分に自己嫌悪した

「死にたくないなぁ……」

涙を流しながら嗤って言った
どうしようもないくらい穢くて罪深いオレだけど
本当に死んだ方がマシって思うことはいっぱいあって
でも死んじゃいけない理由もいっぱいあって
オレ自身まだ生きていたいと思う


だって……がいるから


「助けて」


―― え み か ……


最期に一番愛しい人を想い出して、笑った



「なに、やってんだよ……お前は」

……不意に声が聞こえて、もう殆ど役に立たない目を開けると薄ら人影が映った

「京介……」
「凌兄ちゃん?」

どうしてこんな所にこの人がいるんだろう……でも声は確かに凌兄だし

「お前の同級の藤原さんて人から家に連絡があった……詳しい話しは後だ」

帰るぞって、凌兄の声に死ぬほど安心した

「愛実が……」

きっとオレが川に落とされたとこを見てたんだろうな……それで、家に教えてくれたんだ
笑華に言わないでくれたのは凄く有り難い、その内お礼しなきゃ

「救命具は車に用意してある、それまで自分で止血していろ」

凌兄はオレに布をくれると、水に濡れた俺を抱え上げた
細いのに力はあるんだよね……笑華みたい

「なに笑ってんだ?」
「ううん……別に、ありがとう……」

そしてごめんね?本当にごめんね
服が塗れちゃうし血が着いちゃうよね
今オレ体に力入ってないから重たいでしょ?

それに人の体温が気持ち悪いでしょ?今のオレきっと凄く冷たいけど

凌兄……生きてる人間きらいなのにね

……生きててごめんね



それでも、オレはまだ生きていたいんだ



* * *



次の日学校へ行くとオレを突き落とした子達はみんな休みだった
愛実が何かしたのかな?だとしたら少し可哀想だな

「あれ?京介、今日ちょっと元気ないね?どうしたの?」

昨日の傷がまだ跡を引いてるのかちょっと具合悪そうに見えたみたい
香織が心配そうに訊ねてきた

「ううん、別に普通だけど」
「顔色悪くない?」

結構こんな時鋭いんだよね……でもオレは嘘で誤魔化す事しか出来なくて

「そうかな……気のせいでしょ」
「そうだよ」

隣にいた笑華は笑いながら言った「京介は丈夫だけが取り柄なんだから」って
よく知ってる……普通の人が死んじゃうような傷を負っても結局死なないし
笑華がオレを好きになったのも、付き合ってるのも“だから”だもんね


でもねえ笑華

アンタの言葉が一番オレを殺してしまいそうなんだよ?


END