一月中旬、街は早くもバレンカラーで埋め尽くされている。 そんな街の中を首引高校の恋する乙女代表、立花香織は親友の藤原愛実・同級生の増田京介と共にバレンタイン用の買い物で闊歩していた。 「京介は笑華に何かあげるの?」 「うん!えっと……」 ネギと大根(おまじないに使うらしい)のはみ出したエコバックで両手を塞がれてる京介はマフラーに埋めていた顎を何とか取り出してから香織に笑いかける。 「胃薬と整腸剤」 毎年大量にチョコレートをもらいお腹を壊す笑華には一番必要な物だと思うが…… 「ロマンの欠片もないな」 女子的には低判定を下すしかない。 「やっぱ花とかも添えた方がいいかな?」 「そうだねぇ笑華なら喜ぶと思うけど……愛実は政宗先輩に何かあげるの?」 すると愛実は微妙に頬を染めつつ意気込んで言った。 「勿論!今年こそ絶対『美味しい』って言わせてやる!!」 去年のバレンタインは作ったチョコレートを結局食べて貰えなかったが、それを食べたカラスが墜落した話というを聞くと食べなくて正解だったように思える。 「……薬、先輩の分もあげた方がいいかな」 「そうしてあげて……」 「失礼な!ちゃんと食べられるもの作るわよ!!」 寒ブリ(これもおまじないに使うらしい)がはみ出たエコバックを振り回しながら怒る愛実。せっかくの美少女が台無しです。 「でも先輩って甘いもの平気なの?」 なんとか食べさせなくて良い方向に持って行こうとする香織は本当に良い子だなぁと京介は思った。 「大丈夫だよ。プリン大好きだし、たまにお菓子とか作ってくれるよ」 「うえっ!?いいなぁ愛実!」 「ふふ〜ん、いいでしょう?」 そんな事で得意気になってる愛実は可愛いのだが、彼女の作る料理は人を殺めかねないわけで、親友として止めてあげたい香織は困った顔を浮かべていた。 (そうだ) しばらく考えた結果、名案を思い付いた香織は早速実行してみる事にした。 「愛実って政宗先輩には割と健気だよねー」 「えっ!?……ちっ違ッ!!」 真っ赤になって否定する愛実。『小悪魔な私』や『尽くされてる自分』が大好きな愛実にとって健気という言葉は屈辱でしかない。 「だって政宗先輩からは物受け取らないし」 「それは……体目当てだからだもん!」 「愛実、そういうこと公衆の前で叫ばない、香織も……」 周囲の視線を一気に集めてしまった二人を京介が叱るが香織は構いなしに愛実を煽るような発言をする。 「でもそれって先輩自身が在ればそれでいいってことでしょ?」 「違ッ……別に顔と体が良ければ先輩じゃなくていいんだから!」 「またまたーそんなの無くたって先輩を大好きな癖に」 「だから違うって!あたしが先輩を好きなんじゃなくて先輩があたしを好きなだけだもん!」 この時点で二人とも周りが見えなくなっていた、だから先程から忍び寄ってくる影に気付かなかった。 「政宗先輩と付き合ってるのは皆に自慢出来るからだもん!!」 「ほーそうなのか」 「うん、じゃなきゃ誰があんな口うるさい人ー……って先輩!?」 聞き覚えのある声に振り返ると其処に政宗が立っていた、沙夜の兄・尚弥も一緒だ。京介や香織も驚いている。 「先輩……なんで此処に?」 「俺が街に出ちゃいけないのか?」 そう言う政宗の顔は明らかに怒っていて愛実は体中から冷汗が吹き出す。 「あの……先輩……今のは」 「あ?別に気にしてねぇよ。お前が俺をどう思ってんのかなんて最初から知ってたし」 ズキリ、とその言葉が愛実の胸に突き刺さる。 「俺だってお前みたいな面倒くさい女、好きで付き合ってるわけじゃねぇよ」 「先輩……」 愛実の瞳が悲痛に揺らぐ。 「政宗そんな言い方ないよ」 「先輩、愛実は……」 「うるせぇよ!!」 どうにか宥めようとする尚弥、京介だが怒号と睨みによって一瞬で黙らせられた。香織は顔を青くさせ見詰めているのが精一杯だった。 「行くぞ尚弥、時間の無駄だ」 「え?ちょ!?」 と言って、さっさと歩き出す政宗。尚弥が止めるのも聞かない。 「ま、待って先輩!」 「待って下さい!!」 京介や香織も止めるが無視して行ってしまった。 「先輩……なぁ愛実早く追い掛けて謝った方がいいって!」 「ごめん愛実!……あたしも一緒に謝るから!」 追い掛けよう!と誘っても愛実はその場に貼り付いたように動かない。 「めぐ……」 「だ……大丈夫よ!これくらいの喧嘩いつもの事だから……すぐアッチから謝ってくるって」 「いや今回は全面的に愛実が悪……」 い……と続けようとして京介は言葉を詰まらせた。愛実が瞳いっぱいに涙を溜めていたからだ。 (……愛実が男関係で泣くなんて……) 幼馴染みだけど初めてみた。さっきは半分冗談で言っていたけど、実は本当に愛実は政宗を大好きなのかもしれない……香織はごくっと息を呑んだ。 (どうしよう……私のせいで……) 私があんなこと言わなければと香織は自分を責めた。 そのあと香織まで泣きだしてしまい周囲から痛い視線を送られた京介は二人を泣き止ませようと必死になるのだった。 続く |