匿名様のリク

※ごめんなさい、すみません嵐士と愛実が全然兄妹っぽくないです。ごめんなさい







俺はいつから、こんなに心が狭くなったんだろう



「おい、京介」
「へ?」

昼休み、購買前で京介と駄弁っている俺の目にその光景は飛び込んで来た

「あれは何だ?」

頭を掴んで無理やりその方向へ向かせると京介は痛い痛いと騒いだ後、ポツリと零した

「嵐士ですね……」
「ああ、そしてソイツが今おぶってるのは?」
「愛実……でしょうね」
「だよな」

確認後すぐに歩き出した俺のベルトを京介が後ろからガシッと掴んだ
振り返ると京介の瞳が『殴っちゃ駄目、暴力反対』と言っている……俺を何だと思ってんだ
笑華じゃあるめえし彼女がおんぶされてる位で殴ったりしねぇよ

ただ

「愛実の様子が可笑しいだろ」
「へ?」

遠目からでも解る
あれは顔色が悪い(アイツがおぶってるのはその為か)

「あーそう言えば昨日嵐士ん家に泊まり込みで勉強したって言ってたな……」

嗚呼、テスト前恒例の貧血か……しかし一日徹夜しただけで、ああも衰弱するってどうなんだ

「泊まり込みだぁ?」
「あっ!で、でも二人はイトコだし……」
「知ってるよ」

だがイトコでも……いやイトコだからこそ厄介なんだよ俺にとっては
愛実は昔父親に本気で恋愛感情抱いていたと言うし、羽柴嵐士は双子の弟を溺愛している
とにかくアソコの家族愛は異常だ

「大丈夫だと思いますけど……」

苛つく俺を京介は苦笑しながら見詰めていた
センパイでも余裕無くなる事あるんですねぇ。なんて、しみじみ頷きながら

「ウルセェ、お前のせいで見失っちまったじゃねぇか」
「きっと保健室だと思いますよ?放課後まで寝かせて連れて帰るのかな……」

その光景は想像に容易く、思い描いた瞬間全身に震えが走った

「センパイって、やっぱり笑華のお兄ちゃんですよね」

俺殴る時の笑華と同じ瞳をしてます。と頬を紅潮させる京介を気持ち悪いと思ったが、ああコイツ自分に怒りを向けさせてアイツへの危害を抑えようとしてんだなって解った

「余計な心配してんな……アイツには何もしねぇよ」

京介の頭をクシャクシャと撫でた後、真っ直ぐ保健室へ向かう
背後からは安堵の溜め息が聞こえた



保健室なんて来るのは久しぶりだ
憂木沙夜立ち入り禁止の貼り紙に若干呆れを抱きつつ俺は勢いよくドア開いた


「!!!」

中には驚いて目を見開いている羽柴嵐士とベッドに寝かされている愛実しかいない

大門はどこ行ったんだ……保険医の癖に保健室空けやがって

「松本先輩……?」

呆然としながら俺の名前を呟く男の手元へ視線を向けた
繊細な体つきをしているのに、手は女のものとは違い角張って大きい
それを握り締める二回りほど小さな手は……いつもは俺に添えられているものだ

思わず舌打ちすれば栗色の瞳が真っ直ぐに俺を映す

「……」

それでも何も言えないソイツに答えてやった

「なんだ?俺が保健室に来ちゃ悪いか?」
「いえ、そんなわけじゃ……」

まぁ確かに俺と保健室なんて似合わねえけどよ

「愛実が倒れたみたいだからな……」
「……ッ」

ソイツが息を詰めるのが解った

「そうですか……それじゃあ俺、戻っていいですかね……」

俺の視線に耐えきれなくなったのかソイツは早口に言って部屋から出て行こうとする

「“羽柴嵐士”」
「ッ!!……なんですか?」

扉に手を掛けた所で名前を呼ぶと恐る恐る此方へ振り返った

俺はソイツがいとも簡単に放した愛実の手をギュッと掴むと、俺が出来る最高の笑顔を見せて

「愛実が迷惑かけて悪かったな、ありがとう」

言えば、ソイツは一瞬傷付いたような顔をして

「迷惑なんかじゃ……ないですよ」

制服の胸元を握り数本皺を造った
それでも、自分が何故傷付いているのか解っていない顔だ

「そうか、それならいい、引き留めて悪かったな」
「いえ……そんな」
「もう出てっていいぞ」

愛実は俺が看てるから、お前はいなくていい
そういう意思を向けてやったら羽柴嵐士が再び傷付いた顔をした後、ヒドく困惑しているのが見て取れた


(いつからこんな心狭くなったんだかな俺は……でも、)


そうだ

それでいい
お前はそれに一生気付くな


たとえ気付いたって……――今更



還してなんかやらねぇからよ





end